第15話 ゲームセンターにて、
「ここだここだ! 俺が行きたかった場所は!」
駅前に移動し、近くのゲームセンターの四階に連れてこられた。
「何だここ?」
階段を上がると殺風景で何もない広々とした空間があった。あるものと言えば、足元の四角い線と中央の丸。そして廊下へと続く扉だけ。
まるで武道場のような空間だった。
「ここはな、フィジカルセーブフロア。ここだと能力は通常の十分の一に抑えられる代わりに魔法や、技が使い放題になる空間だ」
「⁉」
ゲームセンター内にそんな設備があったとは。ここなら俺の能力も発揮し放題じゃないか!
「つまりは一種の道場だな。能力が制限されるし、ゲームだから相手が死にそうなときは警告灯が鳴って、体が動かせなくなるけど、ここでは例外的に(RPG)ステータスが使える」
俺はジュリオの説明を聞きながらフロアを見渡した。
「でも、そんな場所があるんなら大人気になりそうだけど、俺聞いたこともなかったぞ」
俺たちのほかにフロアにいる人間はいなかった。
「まぁ~……ここの使用料高ぇからな。一人一時間五千円」
「そんなにすんの⁉ 高えよ! 言えよ、入るときに!」
「え~、だって言ったら入ってくれなさそうだったんだもん」
ジュリオが体をくねくねとくねらせながら「だもん」とか言う。初めて見る光景だから気持ち悪いことこの上ないが、知らないだけで普段からこういう仕草をするやつなのかもしれない。
「じゃあ、一時間だけだな……ゲームに一万円も払えるか」
「決まりだな。じゃあ、とりあえずこれに着替えてくれ」
そういって、柔道着のような服を俺たちに渡す。
「なにこれ?」
「ゲームウェアだ。これが互いの『力』を制限して、相手の『HP』のレッドゾーンまでいくと動けなくするために固まる。安全装置だ」
感心しながらジュリオからゲームウェアを受け取る。
「へぇ、『力』はこれでセーブさせるのか。魔法は?」
「それはこの部屋にあるゲムノウ粒子制御装置が衛星からの感知遮断と、魔法制御を同時にやってくれる」
天井に設置されたスプリンクラーのようなものを指さすジュリオ。
吹雪はうんうんと頷き、
「ふむ……つまりは『
「? この忍者は何を言ってるんだ?」
「わからん。けど、多分、同じように衛星から魔法が探知できないよう、遮断する忍術があるんじゃないか?」
確認のため忍者を見ると、満足そうに頷いた。
「その通り! いや、だがこれはこれで面白いと思うぞ! あの衛星のおかげで魔法は使えず、忍術しか使えんからな! だが、下手に使うと周囲に被害を出しかねん。ここではいい訓練になる!」
「忍者、魔法使えるの?」
「当然だ!」
吹雪は胸を張った。だけど、忍術と魔法って何が違うんだろう。何か違うんだろうか?
役割かぶっているような気がしなくもないけど……。
「さ、やろうぜ。正樹」
気を取り直してジュリオは廊下を親指で指し、戦いを促した。
〇
まいったなぁ……まさかこんな施設があったとは……。
俺はこの柔道着に似たゲームユニフォームに着替えるべきか迷い続け、フロアで悩み続けていた。
ジュリオと吹雪はもうすでに更衣室に行っており、フロアには俺とミラしかいない。
「どうするのじゃ? お主、あのジュリオとかいう龍人と戦うのか?」
「別に戦ってもいいけどさ。戦うってなるとお前と距離が離れちゃうじゃん。てなると『魅力』と『魔法』の交換がリセットされちゃうわけだし。ジュリオが俺に勝てるわけねぇし……『ポーズ』」
メニューボードを開いてジュリオの数値を確認しようとする。
「あぁ……そういう仕組みか、ダメだ。見えねぇ」
このフィジカルセーブフロアは一応ゲームなのだ。だから、相手のステータスが分からないようにステータスの数値は全て靄がかかって見えなくしていた。
「でも、自分のステータスまで見えなくするひつよ……あ、おい!」
てとてとと歩いてミラが俺の半径二メートルの範囲から抜け出る。
これでステータスの交換はリセットされ、俺の『魔法』は999に戻ったはずだ。確認できなけど。
「何をうじうじ悩んでおるんじゃ。どうせ朝にもう我は外に出たのじゃぞ? もう今日はいくら出ようと同じじゃ」
「そうなあなあになっているといつまでたっても俺の『魅力』は0のままに……」
「いいから着替えろ着替えろ。あの龍人族の男と決着をつけてこい」
うっとおしそうに俺に胴着を持たせて、更衣室へ続く廊下へ押し込むミラ。
「あ、おい」
「うおっと!」
丁度着替え終わったジュリオとぶつかりそうになる。
「気を付けろよ」
「あ、ああ……」
ジュリオとすれ違って廊下を進み更衣室の扉を開けた瞬間、後ろから「うわ、何だこの子供!」という驚いた声が聞こえ、再びフロアに戻り、朝にカルナにした説明と同じ説明をしてごまかした。
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