第10話 遭遇
目覚めは最悪だった。
朝日が差し込む部屋の中、頬と首に痛みを感じて目を覚ますと、ミラの足が俺の顔を蹴っていた。
ゆっくりと体を起こすと、ミラは枕と逆側に大の字で大口を開けて寝ていた。
嫌な夢を見た。
寝る前にミラに受験の時の事を話していたからだろうか。面接のときの夢を見てしまった。そして、彼女とあの面接官の言葉……、
『『魅力』のステータスが100以下の人とは付き合えないわ』
『ただ、『魅力』の数値が0と特別低かったのに触れなかったので……』
浮かんだ言葉を振り払うように頭を振る。
「俺はもう変わったんだ。『魅力』が0だったのは過去の話だ。俺はもう『魅力』がマックスで高校デビューするんだ!」
今日は結果発表の日。その高校デビューどころか、そもそも高校に行けるのかどうか決まる日だ。
「あぁ……でも、受かってるかなぁ……自信ないなぁ……あぁ……グボッ!」
「うるさい……」
まだまどろみの中にいる魔王の蹴りが俺の腹に刺さった。
〇
起床し、朝食を食べて、こっそりとミラの分を作って二階に持っていく。
その間両親の前にミラの姿はさらしっぱなしだったのだが、二人共ミラに気が付くことがなく、俺がさっき食べた朝食を再び二階で食べること尋ねはしたが、ミラに関しては特に何も言わなかった。
「じゃから言うたじゃろう……ガツガツ。『魅力―0』では存在に気が付きもせんと……グムグム」
「食いながらしゃべるなよ。飛び散ってるだろうが」
本当に『魅力―0』ってやべぇな。何かの能力みたいだ。名前を付けよう。
「フルステルスチャーミングロストエターナル……」
「長い、ダサい」
せめて最後まで聞いてほしかった。
〇
俺の子供の頃に服を着たミラと並んで歩くとはたから見ると仲の良い兄妹のように見えるだろうか。いや、そもそもミラ自身が何もしなければ見えないんだったな。
だが、本当に見えないのか気にかかり、ミラに注目している人間がいないかきょろきょろと見渡しながら歩く。
「落ちつけ、そんなに合格してるか不安か?」
「そりゃそうだが、お前絶対に俺から離れるなよ。少しでも離れるとこの指輪の力で交換されてるステータスがリセットされてまた一週間の至近距離生活始まるんだからな」
「わかっとる。我も貴様の『魔法』が欲しいんじゃ。そう軽率な行動は……おい、あれなんじゃ?」
「早速軽率な行動しようとしてんじゃねぇよ!」
二メートルの範囲を抜けて本屋へ向けて歩くミラに急いでついてく。
あ~あ、今完全にリセットされた!
「おぉ……書物が大量にあるぞ!」
「そりゃそうだ。ここは本屋だからな」
近所の小さな本屋でそんなに置いてある本の量も少ないのだが、ミラは顔を輝かせている。
「よし、すまんが合格発表は一人で行ってくれ、我はここに用事ができた!」
「さっき俺とした話覚えてる?」
俺の問いかけを無視して、ミラは片っ端から本を読み漁っていく。
縦横無尽に店内を移動するミラに追いつくことができず、二メートルの範囲から彼女は何回も抜け出ている。
「おい、完全にこの生活の目的を忘れてるじゃねぇか、二メートル以内にいろよ」
「わかっとるわかっとる」
「わかってねぇって、いつまでいるんだよここに……」
まぁ、合格発表は昼まで掲示しているからそんなに急ぐ用事ではないけど、それでも、ずっと立ち読みだけをしている魔王に対しての店員の目がだんだん厳しくなる。
ミラは本当に片っ端から手につく本を手に取り、本当に読んでいるのか疑わしくなるほど高速でパラパラと本をめくり、次々と本をあさっていく。それを自分から直そうとしないので店員が腰を上げ始め、俺が慌てて本棚に戻していく。
もうそろそろ限界だ。ミラの手を引く。
「おい、魔王、そろそろ……」
「あれ、正樹君?」
声をかけられる。
「ふ、藤崎⁉」
私服姿の藤崎めくりが立っていた。
淡い色のプルオーバーに普段と違って髪を後ろで結んでポニーテールにしている彼女に、ついドキッとしてしまう。
「どうしてここに?」
「買い物のついでに? それより正樹君。買うの、それ?」
俺の前に棚にある散らかった小説本たちを指さす。
俺がやったんじゃないけど……。
そして、めくりはいまだに本を読みふけっているミラを完全に無視していた。
「い、いや、これ別に……」
ミラの横腹を小突きながら本をかたづける。
「何じゃ?」
「もう、行くぞ。合格発表だって時間制限があるんだ」
めくりに気づかれないように小声でミラに店を出るように言う。彼女は顔をしかっめ渋々といった感じで読んでいた本をしまい、出口へ向かう。
「じゃあ、俺いくわ。合格発表……」
振られたばかりの相手とこれ以上一緒にいるのは流石に気まずく感じてきて、ミラの後に続いて出口へ向かう。
「待ってよ。一緒に行こうよ。合格発表」
「は?」
まさか呼び止められてしまった。驚いてつい先を歩いていた魔王の首根っこを掴む。
「グエ」
「行こうって、藤崎と?」
「私暇だし、それに昨日はちょっと酷いこと言っちゃったなって実は後悔してたんだよね。そのお詫びができればなぁって……」
小説本を手に取りながら何でもないことのように話す藤崎めくり。
レジに本を持っていく彼女の横顔は少し赤らんでいた。
夢か現か信じられずめくりの顔をポーッと見ている間、魔王にすねを蹴り続けられていた。
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