第6話 ステータス交換
「…………」
魔王が復活する。そんなことは、願っちゃいけない。普通の人間として、この世界に平和に暮らの一人の人間として、世界に害なす存在を復活させてはいけない。
だが、俺は……。
「そうだな。一度お前、倒されてるんだもんな……」
「そうじゃよ」
「もしも魔王が復活しても、俺は倒せるし、倒した後は、『魅力―999』は俺のものになり続けて、平和になった世界で役に立つんだものな?」
「女にモテまくるぞ?」
やばい、段々頭がボーっとしてきた。
『『魅力』のステータスが100以下の人とは付き合えないわ』
馬鹿野郎、100どころか俺の『魅力』は999だぞ。限界突破してるんだぞ⁉
「なんかいい気がしてきた。いや、いい! いいぜ、契約してやるよ。魔王と。お前に俺の魂を売り渡す。こんな世界クソくらえだ!」
俺の宣言に魔王―――ミラは異常なほど口角を吊り上げ、凄惨に笑った。
「よろしい! これで我と貴様は一蓮托生‼ このクソみたいな世界を魔王と共に乗り切ろうではないか」
ミラが差し出した手を俺はがっちり握った。
「ああ、一蓮托生だ。お前が世界を滅ぼそうとしたら俺が倒してやる。いや、倒す必要はないかもしれないな。だって、俺の『魅力』は999! お前を口説き堕として諦めさせてやるよ!」
「ハハハハハ! 面白い、面白いぞ! そう来なくては! ハハハハハハハハハハハ‼」
「ア~ハッハッハッハッハッハッハッハァ~~~~~~~~~‼」
互いに何がおかしいのか大口を開けて笑いあった。
ミラは本当に俺が面白くて笑っていたのかもしれない。
だけど、俺は後悔と恐怖を頭から必死に拭い去ろうと、大声を上げて笑い飛ばそうとしてただけだった。
「クアッハッハッハッハァ…………‼ ところで、貴様の名前は何というのだ?」
がくりと全身の力が抜ける。確かにまだ名乗っていなかったが、
「さっきステータス見ただろ? 新藤正樹、来月高校生になる15歳だよ」
「そうか、我はミラ・イゼット・サタン。よろしく頼むぞ、ロリコン」
そういって、裸体の上からローブを羽織った。
「誰がロリコンだ! あ⁉」
ローブ?
ミラは握手したときにさりげなく俺の手元からローブを取り返していた。
「ロリコンじゃろ? 我の体に見惚れた共犯者よ」
歯を見せてニカッと魔王の癖に天使のような笑みを見せた。
俺は魔王と契約した。
悪魔の契約だ。勇者がするべきことじゃない。だけど、今の世の中、勇者は必要ないし、悪魔に至っては普通に人間と一緒に街を歩いている。この程度の事、罪でも何でもないだろう。
俺と契約した魔王、ミラは今、元自宅の段ボールの残骸をあさり、なにかを探していた。
「……それより、『魔法』と『魅力』の交換なんてできるのかよ。そんな魔法使えんの?」
「いんや、今回使うのは魔法ではない。アイテムじゃ。おお、あったあった」
段ボールの下から錠前が付いた宝箱を取り出すミラ。
「アイテム? そんな都合のいいアイテムあるのか?」
「我は魔王じゃぞ? 部下共が寵愛を受けようと物珍しいアイテムを献上してくる。その中の一つに『エクスチェンジリング』という指輪があってな……」
「本当にあるのか?」
「しつこいぞ、この中にあるわい」
見せつけるように宝箱を振るミラ。
「いや……でも……」
「何じゃ疑り深いやつじゃのう!」
「その宝箱、鍵開いてんだけど……」
錠前は開いた状態でプラプラとぶら下がっていた。
「――――っ!」
ミラはさっと顔を青ざめて宝箱を開いた。
中には腕輪やネックレスのようなアクセサリーがぎっしりと詰まっており、そのどれもが悪魔の歪んだ顔や、人間の指のような不気味な装飾が施され、魑魅魍魎の巣といった具合になっている。
ミラはその魑魅魍魎の中に手を突っ込み、必死に探す。
「ない……」
「嘘だろ⁉」
そんな……まぁ、こんなセキュリティも下手へったくれもない場所に宝箱を置きっぱなしにすればそら多少は盗られるか……くそぅ、期待させやがって。
「あぁ……いや、別の、カードがない……」
「指輪を探してくれ……何だよカードって……」
「黙れ、我にとってクレジットカードを盗られたようなものじゃ……これが悲しまずにいられるか」
そりゃ確かに悲しいだろうが、今は指輪……というか、魔王クレカ知ってんのかよ。無駄な知識はあるな……。
「後で銀行で止めてもらおうな……」
「おぉ、あった! 良かったこれは盗られとらん!」
ミラが顔をぱあッと明るくさせて中から指輪を取り出す。
金色と銀色のハートの形の宝石が埋め込まれた二対の指輪だった。
「これが互いの指にはめるとステータスが入れ替わるという超レアアイテム、『エクスチェンジリング』じゃ!」
「これが……俺の『魔法』とお前の『魅力』を……」
一見すると普通の指輪にしか見えないが。
「ほれ」
ミラは俺に金と銀、両方の指輪を手渡すと、左手を差し伸べた。
「跪いてくれ」
「?」
「こういう儀式は大切じゃろう? 魔王の復活と稀代のモテ男の誕生。その大事をあっさりと済ますつもりか?」
「お、あぁ、そうだな」
ミラの意図を理解し、俺は跪いた。
「まず、お主の指に銀の指輪を」
彼女の指示に躊躇なく従い、左手の薬指に銀の指輪をはめる。何か魔力が減退するような脱力感に襲われるかと覚悟していたが、特に何もなかった。
「そして、我が手に……」
「この、金の指輪を。俺の、そうだな、契約の証として」
金の指輪を魔王のミラの左手の薬指にはめ、
「友であり共犯者である魔王様へ、わが身を捧げます」
その手の甲にキスをした。
「うむ」
魔王、ミラは深くうなずいた。
俺はゆっくりと立ち上がって、体の具合を確かめたが、特に変わった様子はない。脱力感も高揚感もない。いたって普通の状態だ。
「おい、魔王、本当にこれでパラメータ交換されるのか?
———っておい!」
魔王は、自分の手の甲をローブで拭っていた。そこはさっき俺がキスをした場所だった。
「何じゃ? 誰もここまでせいとは言っとらんぞ。誰が『魅力―0』のキスを嬉しいと思うか」
「おいお前、俺の事を『魅力―0』と呼んだな? さも俺のアイデンティティは『魅力』が「0」であることのごとく。やめてくれる? 割と俺のハート、ガラスだから簡単に砕けるんだけど」
「すねるな、すねるな……む、お………おおおおおおお!」
ミラの体が輝きだした。
魔力の光がミラへと収束し、ミラが気持ちよさそうに目を閉じる。
「力が、力がみなぎってくる……」
「マジで⁉ お、おおおおお、俺も!」
時間差で俺の体にも変化が訪れる。
体の奥底から暖かい何かが湧き上がってくるようなそんな感覚。そして全身を覆っていた気だるい黒いオーラが消えていくような……体が輝いて見えてきた!
「『ポーズ』……お、おおっ‼」
『シンドウ・マサキ 魅力―999』
夢にまで見た数値が書かれていた。
「フフフ……これでホームレス生活とはおさらばじゃ! まず最初にホテルを襲い、ベッドで寝てやる!」
後ろで物騒だがしょぼいことを言っている魔王はとりあえず放っておこう。
俺は右手を握り天に高らかに振り上げた。
「やったぜ! これで俺はモテモテだァァァァァ‼」
「ウッヒョオオオオオオ‼ 『アウェイクン』!」
「あれ~……今なんで魔法使ったの? 警察来ちゃうじゃん……」
さすがに魔法を使ったのはスルー出来ない。
振り返ると魔力の光がミラの体を包み、体を組み替えていく。
元々長かった銀髪がさらに長くなり髪の色が瞳と同様真紅に染まる。小さな背丈が伸びあがり、幼い胸が膨れ上がり、小ぶりな尻が巨大化し、しなやかなで蠱惑的な女性の体になっていく。
「よっし‼ 全盛期ィィィィィ‼」
ボンキュッボンという言葉がふさわしい大人の姿になったミラがガッツポーズで喜びをかみしめる。
「それが……魔王の姿……」
全盛期の魔王ミラは、美しかった。
ローブの下から見える手足は流れるような曲線美を描き、長く美しく宙に揺れる真紅の髪は燃えさかる業火のよう、硬い意思の宿った赤い瞳は煽情的に輝いていた。
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