Column6 ①「肩が凝る」は夏目漱石が作った言葉?

 とあるカクヨム作家さん(カクヨムで作家デビューした方)―仮に「作家Aさん」とします—のエッセイを読んでいたら「肩が張るとか、肩を凝るの違いをネットで調べまくっていたら、『肩が凝る』は夏目漱石の造語らしいってことが分かりました~」というようなことが書いてありました。


 へぇ、そうなのかー。初めて知ったなぁ。


 と思いつつ、いつもの習慣で自分でも辞書を引いてみます。

 すると『三省堂国語辞典 第八版』には「江戸時代からある ことば。夏目漱石が作ったという話は誤り」と書いてありました。


 ……違うんかーい。


 思わずゆるいツッコミをしてしまいましたが、思うにそういう議論が少なからずあるため、『三省堂国語辞典』では取り上げたのでしょう。


 しかし、一つの辞書の言い分だけで「夏目漱石が作ったという話は誤り」を鵜呑みにするのも何だかな、と思う私。辞書に書いてあることは、きちんと精査した上で出しているものだと思うので信頼していいとは思いますが、こういう真偽が明らかになりそうなもの(特に明治以前のものについて「どこの時代で使われていたのか」など)に関しては、できれば他の辞書にも書いてあると安心するというものです。


 それに、『三省堂国語辞典 第八版』には「江戸時代からあることば」とはあるものの、どうしてそう言えるかが書いてないので、元を辿れるなら辿りたいと思いました。


 さて。

 上記のような古い言葉の用例に関しては、『精選版日本国語大辞典』を引くのが一番です。あれには古い時代の使用例が書かれているので、参考になります。そう思って「肩を凝る」を調べてみました。


*****

【肩 が 凝る】『精選版日本国語大辞典』

①肩の筋肉が堅くなって、重苦しくなる。肩がつかえる。肩が張る。

*古川ロッパ日記−昭和一五年(1940)五月二四日

「ダットサンで砧へ。これが相当の苦しみ、肩は凝るし」


②負担が重く、重圧感を感じる。骨が折れる。肩が張る。

*明暗(1916)〈夏目漱石〉七六

「寝てゐて読むには丁度手頃で好いよ。肩が凝らなくってね」

*****


『精選版日本国語大辞典』は、①と②の用例をみると、②のほうが古いですね。しかも夏目漱石です。ということは、やはり夏目漱石が「肩が凝る」を作ったのか……と思いそうなのですが、それは早合点です。


 長くなるので、次のColumnに続きます。

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