Column10 「蘇る」の話

 格助詞「を」のことを調べていたときに、偶然「ヨミガヘル(蘇る)」という言葉の語源に出合ったのですが、これ面白いです。


「ヨミガヘル(蘇る)」の「ヨミ」とは「黄泉」のこと。そこから「カヘル(帰る)」から、「蘇る」=「死者または死にかけた人が、何らかの状況の元に生き返る(『古典基礎語辞典』参照)」というわけです。


 つまり「蘇る」は「黄泉」+「帰る」の複合語ということ。


 そういえば、「蘇る」を英語に当てはめると「revive(生き返る)」ですよね。あれは古フランス語「revivre」とかラテン語の「revivere(生き返る)」から来ています。「re-」が「再び」を意味し「vive」が「生きる」。「生き返る」にぴったりの語源ですよね。(『ジーニアス和英大辞典』より)


 また興味本位で「vive」を『プチ・ロワイヤル仏和辞典』で引いてみたところ、「万歳」という意味が出てきました。一方で、現在の「生きる」という意味として使われているのは「vivre」なので、綴りが少し変わったことが伺えます。


 とはいえ、「vive」=「万歳」というのは、なるほどなと思います。勝手な想像ですけど、生きていることに対しての喜びとか祝福があるように感じました。


 ついでに「revivre」も引いてみました。古フランス語の言葉なので、変化してしまったかなと思ったのですが、「revivre」で出てきたので綴りは変わりませんし、意味も「生き返る」とそのままのようです。日本語と同じで、「生き返る」はフランス語でも古くから変わらずある言葉なのですね。


 さて。

 何故英語とかフランス語の話をしたのかというと、日本語の「蘇る」には死後の世界観が含まれていることをちょっと書きたかったんです。「黄泉」という「死者の魂が行くとされている地下の世界(『明鏡国語辞典 第三版』より)」から「帰って来る」ことが「ヨミガヘル」に繋がるんですね。


「黄泉」というのは、仏教でいうところの地獄で、本当は罪のある者だけが行く場所だったのですが、日本では死者の行く「あの世」は「黄泉」と混同されるようになりました。

「黄泉」の読みである「ヨミ」(ダジャレみたいになってますね……<汗>)は、「闇」か「山」からきているのではないかと言われています。「闇」は何となく分かりますが、「山」は何故か。これも私の推測なのですが、『古典基礎語辞典』の「山」の項目に次のようなことが書かれています。


***

ヤマは神の降りてくる所であり、人を葬る所であり、異郷との境であった。

***


 もしかすると、死者を葬るところであり、異郷との境だったことから「ヨミ」の語源になったのかもしれません。記紀神話に出て来る黄泉の国には、死の女神である「イザナミ」(黄泉津大伸)もいますしね。


 ちなみに「黄泉」は漢語の借字です(「蘇」もそうです)。「黄泉」に「黄」が使われているのは、五行説の五色の一つで「土の色」に対応するから。


 言葉には文化がその国の文化が混じっているとよく言われますが、一つひとつ見ていってそれが分かると面白いなぁと思います。

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