Column11 「ご説明させていただきます」について
――上司に「説明してご覧」と言われたので、「では、説明させていただきます」と返答した。
読者の皆さんもここまで来ると、「させていただく」の使い方も慣れきたころではないかなと思います。(むしろ飽きてきましたかね……<笑>)
今回の「させていただきます」の例文は、許可する人と、許可してもらう人の両方が存在していますよね。そのため問題なく使うことが可能です。
ここでは上司と部下の関係がありますが、もし会議に参加している全員に対して「説明させていただきます」と言ったとしたら成り立つのでしょうか。
これまでのColumnでは、「させていただく」は聞き手に対して効果があまりないと書いて来ましたが、この点は敬語の書籍を書いている人や研究をしている人によっても捉え方がまちまちです。Column3を振り返っていただくと分かりますが、あのときはパーティに参加している人たちに許可を取るのはおかしいと書きました。それは「させていただく」の本来の形を考えたら不適切だからです。
しかし、時代の流れとともに「させていただく」は少しずつ私たちの生活に浸透しつつあります。椎名美智氏の著書『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』にはそれが上手く説明された部分があるので引用いたします。
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「話す」「説明する」といった能動的なコミュニケーション動詞が「させていただきます」と一緒に使われるようになった理由を考えてみましょう。「お話する」といった能動的コミュニケーション動詞に「させていただきます」という言い切り形を付けると「お話させていただきます」と、相手の許可を取ってコミュニケーションを開始を合図するフレーズが出来上がります。
大勢の人の前で話す時でも、二人で話す時でも、いきなり話始めるのは相手に失礼だし、相手がちゃんと聞いているかどうかもわかりません。そういう時に、「お話させていただきます」と言うと、私が話す合図や順番を示し、自分が話始める了解を相手からもらいたいと思っていることが伝わります。
そもそも、誰かが話し始めると、わざわざ耳を傾けなくても、声は自然に耳に入ってきます。聞きたくなくても、聞こえてしまうわけです。そういう場合は、話し出す前に相手に了解をとっておく必要があるだろうし、その方が礼儀にかなっています。講演会や会議など、大勢の人の前で話をするときの「お話させていただきます」というフレーズは、騒がしい会場に静粛を求めたり、聴衆の注意を集めたりすると同時に、聴衆から話を始めることへの了解をとりたい気持ちから使われているのではないかと思われます。
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大勢の前で話し始めるとき、本当は「お話をいたします」「説明いたします」でもいいはずですが、「会場に対して話始めることを許してもらいたい」という気持ちはそれらでは上手く伝えられません。
確かに「させていただく」はここまで語ってきたように、相手の許可を取ったための敬語ではあります。しかし、こういう話し手の微妙なニュアンスを伝えるときには、「させていただく」が良い効果を発揮する場合もあるので、使う場面を考えて使う分には、本来は言い放つのが不適切だとしても相手に敬意が伝わるのかなと思います。
この辺りが「させていただく」を使うときの難しい部分だなと思います。
次に続きます。(「させていただく」に関するColumnはあと2つです)
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