Column4 「担当させていただきました」について

 アナウンサーや俳優さん、声優さんなどが、自分がその役を得たときに「この番組を担当させていただきます〇〇です」とか、「〇〇という役をやらせていただいたのですが……」という風に言うことがあります。

 というより、最近はそれ以外の言い方を聞いたことがないかもしれない……。それくらい、「させていただく」がここでは定着しているように思います。


 アナウンサーや俳優さんらが、自分が担った役に対して「させていただく」というのは、聴衆に向けて言っています。特に、声優さんなどはマンガなどの原作キャラクターのファンの人たちに対して、「自分が選ばれました」「私が務めます」ということを腰を低くして言っているのだろうなということは雰囲気で伝わってきますよね。

 しかし、本来ここで「させていただく」を使うのは、文法としては「ちょっと待った!」なのです。


 Column3でパーティの例文を書きましたね。以下に引用します。

 >パーティで参加者がスピーチをすることになっているけれど、中々勇気が出なくているときに「ぜひ、スピーチをお願いします」と言われたときに、「それでは、ご挨拶をさせていただきます」という風に使います。


 ここで注意したいのは、「させていただく」を対象としているのは「ぜひ、スピーチをお願いします」と言ってくれた人に対してであり、会場の人ではないということ。

「させていただく」の一つ目の用法を思い出してほしいのですが、「厚かましくて申し訳ないと思いつつも、私は〇〇します」でした。


 つまり「ぜひスピーチをお願いします(=ぜひ、スピーチをして下さい)」と許可を出した人に対して、「あなたが許可して下さったので厚かましくて申し訳ないと思いつつも、スピーチをします」という意味であるため、会場全体に対してへりくだってはいないのです。


 よってこの用法をご存知の方は、アナウンサーや俳優さんたちが言っている「担当させていただきます」などを聞くと、慇懃無礼だと感じてしまいます。

「私はいつ、あなたがその役をすることを許可したのですか? それなのに勝手に『させていただきます』などと言わないで」と思ってしまうというわけなのです。


 今は広がってしまった使い方ですし、言う方としては「偉そうに聞こえないように」「自慢話に聞こえないように」という考えがあって使っていることが分かるので、言い方を変えるのは難しいとは思います。


 しかしもし仮に本来の使い方として「担当させていただきます」とか「〇〇という役を務めさせていただきます」を使いたいとお考えであれば、一般聴衆へ向けて使うのではなく、アナウンサーなり俳優さんなりに役を与えた人に言うとベストです。それは「させていただく」には許可をしてくれた人に対する感謝も含まれているから。


 彼らに仕事を与え、その役をすることを許可した人にこそ「あなたが許してくれたので、私は〇〇します」という「させていただく」が発揮されるんですね。


 では一般聴衆に向けて言うなら何と言えばいいのかというと、「番組を担当いたします〇〇です」や「〇〇という役を担当しております」とすると良いでしょう。


『明鏡国語辞典 第三版』の「いたす」には「相手(=聞き手・読み手)に対する敬語」でありますし、「おります」には「『いる』『います』の丁重語。相手(=聞き手・読み手)に対する改まった気持ちを表わす」とあります。


 どちらも聞き手や読み手に対する改まった気持ちを伝えるものですから、一般聴衆に向けて使うならこちらを使うと良いように思います。


 次に続きます。

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