Column3 「させていただく」の二つの用法

「させていただく」という敬語は、動詞「する」の使役形「させる」に、連結の「て」で、「もらう」の謙譲語「~ていただく」を繋げた言葉です。


「させていただく」=「(さ)せる」+「て」+「いただく」


 この点から、謙譲語であることはお分かりになると思います。しかし、単純な「謙譲語」として扱うことができない敬語なのです。その理由を用法から説明します。


「させていただく」には大きく二つの用法があります。(野口恵子『失礼な敬語 ~誤用例から学ぶ、正しい使い方~』参照)

 一つは「厚かましくて申し訳ないと思いつつも、あなたが許してくれたので私は〇〇します」というもの。

 例えば、パーティで参加者がスピーチをすることになっているけれど、中々勇気が出なくているときに「ぜひ、スピーチをお願いします」と言われたときに、「それでは、ご挨拶をさせていただきます」という風に使います。


 もう一つは「相手の意向などを全く考慮せずに、一方的に私がすることを宣言します」というもの。

 多くの方がどこかで聞いたことがあると思いますが、妻が夫に腹を立てて「実家に帰らせていただきます!」というのがこの使い方です。


 二つの用法を眺めてみると、「させていただく」には両極端の意味が備えられていることが分かりますね。


 敬語というのは、本来、「尊い相手に触れないように距離をとるために使う言葉」です。(『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』より)


 敬意を言葉の距離を取ることで表しているのですが、その一方で普段親しい人との間で急に敬語を使うと距離を感じますよね。特に「させていただく」のこの用法は、敬語に備えられたものが表裏一体になっているということ。そのため使いどきを誤ると、人によって「慇懃無礼だな」と感じてしまうというわけなのです。


 さて、「させていただく」の使い方としてきちんと覚えておきたいのは、用法としては前者の方でしょう。後者は、説明をしなくても「実家に帰らせていただきます!」の使う場面が分かっていれば問題ないはずですから。


 では、「させていただく」を使うとき、どういう場合がよくないのでしょうか。

 次のColumnに続きます。

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