◆質問箱◆ 「ヤバい」の使い方
11月に公開しました「Column16 『この親にしてこの子あり』はけなす意味?」へ、天くじらさんより次のようなコメントをいただきましたので、今回はそれを質問ととらえお答えしようと思います。
Q、興味深いですね。
私が最近気になっているのは、「ヤバい」という言葉です。
元々は悪い意味のみで使われていたようですが、今ではいい意味でも使われているような気がします。
言葉とは難しいものですね。
相手を傷つけず、適切に使えたらいいのですが……。
A、確かに「やばい」という言葉は、悪い意味でもいい意味でも使われることがありますね。
悪い意味だったら「待ち合わせに遅れるとやばい」、いい意味だと「やばいおいしい!」という具合でしょう。しかし何故このように使われるようになったのかを「やばい」の元々の意味から紐解き、どう使えばいいのかについて考えてみようと思います。
「やばい」とは江戸時代のころ、盗人や
形容動詞「やば」には「不都合なさま」とか「あぶないようす」という意味があり、それが形容詞化した語が「やばい」というわけです。
そこから「自分に不利な状況が身近に迫るさま。また、そのような状況が予測されるさま(『明鏡国語辞典 第三版』より)」「あぶない(『三省堂国語辞典 第八版』より」という意味として使われるようになりました。
1970年代頃からは「すばらしい。感動や感激が強すぎて、あぶない(『三省堂国語辞典 第八版』より)」という意味として使われるようになってきます。理由について、北原保雄 編者の『続弾! 問題な日本語 何が気になる? どうして気になる?』に下記のようなことが書かれていました。
――ほめ言葉に使う「やばい」は、「(感動して)自分がやばくなるほどだ、自制がきかなくなってしまいそうだ」という意味でしょう。「恐ろしく(すごく)うまい」というのも、もともとは「自分が恐ろしい(すごい)と感じるほどうま」ということですから、使い方は同じです。「恐ろしく」や「すごく」は「恐ろしくうまい」「恐ろしくまずい」のように、評価のプラス・マイナス評価を表わす「やばい」をプラス評価の「うまい」と一緒に用いるミスマッチによって、刺激的な表現にしているのでしょう。
と、あります。
ここから、感情の表現として「やばい」が使われていることが分かると思います。特に若者が「やばい」をプラス評価として用いることが多いようなのですが、それはマイナスの意味を持っている言葉がプラスの意味として使われるミスマッチ感が、刺激的な表現として感動詞として使われるようになったからなのだと解釈できそうです。
ここからは素人の私の想像なのですが、「やばい」には「程度が大きい」とか「甚だしい」という意味もあるので、それも影響しているように思います。『三省堂国語辞典 第八版』の「鬼」という項目を読むと「鬼のように」という表現が出てきます。これはこの版になって新しく取り入れられた言葉で、意味は「程度のはなはだしいさま。非常に。たいへん」とあります。きっと皆さんも、若者たちが「鬼(のように)眠い」という風に使っているのを聞いたことがあるのではないでしょうか。
どうやら日本人の若者たちは、程度をはなはだしく言うのが好きなようです。思うに、それが自分の気持ちや程度を表わすのにちょうどいいからではないでしょうか。彼らの心の中に湧き出るものは、たとえ小さかろうと大袈裟に言うのが、表現としてベストと感じているところがあるように思います。
それと「やばい」や「鬼のように」を使った会話の方がいちいち感情の説明をしなくていいというのもある気がします。自分の中に湧き出る感情や気持ちを表現するのは中々難しいものです。
心の中で何かうごめいている。甚だしく、感情が揺さぶられている。でもこれを何と言ったらいいのか……!
と、この「何と言ったらいいのか」を掘り下げるよりも「やばい」と使うのは、会話をする上で手っ取り早いなと思います。「どんな感情かは察してくれ。でも心が振れているんだ!」というのは伝わる気がするので(笑)
この理由から、おいしいものを食べたときに「やばい、うまい!」とにこにこしながら言っていたら「おいしいものを食べて、心が動かされているんだろうな」と私は思います。
――と、ここまで書きましたが、この辺りのことは素人の私の想像なので適当に聞き流して下さいませ。
使い方に関してですが、辞書にもプラス評価としての意味が掲載されています。新しい意味に関して慎重に取り入れる『岩波国語辞典 第八版』にも「すごい」「驚くほどである」という意味や「感動詞的に相づちにも使う」と書かれているくらいですから、この使い方が広く認められていることが分かります。
しかし、「やばい」という言葉をプラス評価として使うのが難しいとお考えであれば、あえて使う必要はないと思います。言葉というのは自分の中で納得してこそ使えるものだと思いますし、上手く使えない状態で使うと意図したことと反対の意味として捉えられると、言った方も悲しくなってしまうと思います。
そのため無理に使うことはせず、そのときは「とてもおいしい」などと置き換えると良いのではないでしょうか。
一方で「やばい」のプラス評価の使い方にも「ミスマッチ効果による刺激的な表現」だからこそ、使う意味もあると思うので、「ここは間違いなくプラス評価と思われるだろう」というときに使うと良いのかなと思いました。
最後になりますが、「やばい」には「ヤバい」「ヤバイ」と表現が三通りあります。辞書では「やばい」を標準にしていたようですが、人によってそれらを使いわけるのも面白そうです。
以上で説明は終わりです。「やばい」が、悪い意味から良い意味として使われるようになった経緯を調べてみましたがいかがだったでしょうか。何かしらのお役に立てていたら幸いです。
ご質問ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます