◇閑話◇ 「寂しい」と「さみしい」
今年、とある恋愛物語を読みました。
内容は高校教師と生徒の年の差のお話です。その作品のなかに、教師の恋人になった生徒が卒業する場面があります。
卒業式の後、教室の窓から外を眺める二人。生徒が「さみしい?」と聞き、教師が「寂しいよ」と返します。学校で会うことができなくなるために言った単純な会話なのですが、私はこの表記が色々なことを物語っている気がしていいなと思いました。
「さみしい?」と聞くのは高校を卒業を迎えた十代の子。
「寂しいよ」と応えるのは大人の教師。
「寂しい」と「さみしい」はどちらも同じ意味ですが、「さみしい」は『三省堂国語辞典 第八版』を開くと「『さびしい』のやわらかい言い方」とあります。普段あまり意識して使わないかもしれませんが、きっと「さみしい」の方が優しい感じがするという感覚に共感してくださる方はいらっしゃることでしょう。
そして「さみしい」と「寂しい」を並べてみると、平仮名と漢字。「さみしい」も漢字で表記することはできますが、そうすると送り仮名が一緒なので、フリガナを振らなければなりません。もし振ったならば、「
ここには「平仮名」と「漢字」、「やわらかさ」と「かたさ」、「子ども」と「大人」という対比がありながらも、二人の気持ちが「寂しい」という同じ方向を向いているという状況を上手く言葉で表しているなと感じます。
作者の方が意図してやったかどうかは分かりませんが、私はいい表現の仕方だなと思います。
*「表記を統一するべき」という意見もあるかと思いますが、理由のある表記揺れは直さなくても問題ありません。校正でも作者さんがそういう方針を取っているのであれば、直さないように指示を付けておくこともあります。
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