Column16 「この親にしてこの子あり」はけなす意味?

 ――落ち着きがないなんて、この親にしてこの子ありね。


 こんな風な言い方を、どこかで聞いたことがあるでしょうか。

 大抵こういうのは、「親の態度が悪いから子どももそうなのだ」など、非難するときに使うと思いますが、「この親にしてこの子あり」は本来けなす言葉ではありません。


『三省堂国語辞典 第八版』を引いてみると、「親がりっぱだから、子どももりっぱに育った」という意味が書いてあります。本来はいい意味で使われていたことがわかりますよね。

 そのため、「親が悪いから、子どもも悪くなった」という使い方は誤用なのですが、この使い方も広がっているようなので、『三省堂国語辞典 第八版』をはじめ、『大辞泉』や『大辞林』、『精選版日本国語大辞典』にもこの意味が書かれています。


 では、いつから誤用が使われ出したのか。『精選版日本国語大辞典』を開いてみると唐木順三の『体源抄たいげんしょう』(1965年)が出てきます。どうやら、このころから広がっていったようです。


 辞書の中では、まだ「親がりっぱだから、子どももりっぱに育った」という意味が最初に出てきていますし、「親が悪いから、子どもも悪くなった」というのが誤用として捉えられています。

 しかし、実際に使ったとき、後者に捉えられることが多そうに思うのは私だけでしょうか……。

 ポジティブとネガティブ、どちらの意味も内在している言葉は使うのが難しいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る