Column15 「弱冠」は何歳まで示す? そして女子には使えないのは何故?

 ――弱冠二十歳で社長になる。


「弱冠」という言葉は、上記の例文のように使うことができますね。


 さて、「弱冠」は「年が若いこと」という意味として使いますが、大体どれくらいの年齢まで示すことができるでしょうか。

 上記の例文では「二十歳」としましたが、「十八歳」は使えるでしょうか。また超高齢社会になってきていて、「三十歳」でも若い方に入りますが、「弱冠三十歳で社長になる」は表現として正しいと言えるでしょうか。

 さらに、「弱冠」には「女子に使えない」という意見もあります。それが何故なのか……。ということで、今回は「弱冠」について考えていこうと思います。


「弱冠」という言葉は元々、「古代中国で、男子二〇歳を『弱』と称し、元服して冠をかぶったことから(『明鏡国語辞典 第三版』より)」「弱冠」と書くようになりました。そのため「弱冠」には「年が若いこと」という意味よりも、「二十歳の男子」という意味が最初にありました。


 そのため、『明鏡国語辞典 第三版』『岩波国語辞典 第八版』『デジタル大辞泉』などの最初の語釈には、「男子二十歳の称」と書かれています。

 しかし近年、「弱冠」を「年が若いこと」として扱うようになってきています。辞書の用例では、「十八歳」や「二十四歳」、「二十七歳」もあったので、そのあたりまでは使ってよさそうです。


 また、中には三十代前半にも使うことがあるようです。

 思うに、職人など時間を掛けて一人前になるような世界では三十代でも若いからということ、あとは平均寿命が延びてきているのが影響しているのかもしれません。今は働ける人は「七十歳まで働きましょう」なんて言われていますもんね……。老後の悠々自適な生活を夢見ていた人は、まさかこんな時代になるとは思っていなかったことでしょう。


 話が逸れたので、戻しまして。

 その一方で「毎日ことば」という毎日新聞の校閲部の方が、「弱冠」の年齢についてアンケートをとった結果があるのですが、そこでは「弱冠」=「二十歳」と捉えている方が多くいらっしゃったようです。

 どうやら「弱冠」という言葉の成り立ちを考えるに、あまり広い範囲で「年が若いこと」として捉えることに違和感を持つ人も多いようですが、皆さんはいかがでしょう。


 さて、ここまで「弱冠」が使える年齢の範囲を話してきましたが、「女子に使えない」ということも冒頭に書きました。

 それは、「弱冠」が「古代中国の二十歳を迎えた男子が元服を受けた」のが由来だからです。そのため、「弱冠」を女子に使うのは失礼であるという意見があります。

 私は、漢字の成り立ちから考えてそのように主張することに反対する気持ちはありませんが、その一方で男女平等を強く訴えている人たちにとってはどのように捉えられているのだろうかと、気になるところではあります。


 歴史の中で生まれた言葉は、将来のことなど考えて誕生しているわけではありません。私はその言葉そのものに時代背景などがあってこそ面白いと思うのですが、それによって誰かを苦しめていることになるのではないかと少し懸念しています。実際にそれによって不愉快な思いをされている方の話は、まだ聞いたことはないのですが……皆さんはどう思われるでしょうか。


 それと「『弱冠』を『若冠』と書きなさい!」「『弱冠』と書くなんて失礼だ!」という意見もあるようです。それは特に新聞社に来る意見のようですが、どうも「弱」という漢字が「弱さ」を強調するように思えるようなのですね。


 しかし、前述した通り、歴史的にも古代中国では「弱」が「二十歳を迎えた男子」を示していましたし、歴史的な文献にはそういう使い方はないようです。気持ちは分からないでもないですが、一部の方の意見を通して「若冠」にしてしまったら、それこそ混乱してしまうでしょう。


 私が思うに「弱冠」は、弱かった子ども(昔は流行り病などで亡くなる子が多かったことから)が、冠を被ることによって、大人になることを示している言葉のように思います。もし「若冠」にしてしまったら、「若い人が冠を被ること」を指すわけで、その「若い人」はすでに成人した青年も示すような気がするのです。

 弱かった子が冠を被るというのは、一線を越えるということ。それはつまり「大人になる」ということであって、だからこそ「元服」の意味を示したのではないかと想像します。……想像ですけどね(笑)


 ですから「弱冠」に引け目を感じずに、そのままの形で使って欲しいなと思います。


*参考URL*

「ライフコラム ことばオンライン」

https://style.nikkei.com/article/DGXZZO06312200V20C10A4000000/


「毎日ことば」

https://mainichi-kotoba.jp/enq-002








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