Column8 そもそも「死語」と「廃語」とは何ぞや。

◇リクエストがあったので◆

 以前、『NIHONGO』を連載している際に、「日本語の話のなかで、特にどんな内容を読みたいですか?」と質問したことがあったのですが、そのとき「流行語や死語について」取り上げて欲しいというリクエストがありました。


 私は「なるほど」と思い、それを書くための資料を探したのですが、すぐにはいいものが見つからず、それっぽい資料を見つけたころには、要望をいただいてから1年近く経ってしまいました。すみません……(泣)


 もしかするともう忘れていらっしゃるかもしれませんが、折角いただいた要望ですし、今読んでいらっしゃる方にも気になっている方もいるかもしれないので、今後はちらほらと死語や廃語、流行語について取り上げていこうと思います。良かったら、読んでみてください。

 まず今回は、タイトルにもあるとおり「死語」の定義について考えてみます。読み終えたら、もしかすると「死語」に対する印象が変わるかもしれません。



◇本文◆


 ――自分が普段使っている言葉の中で、「死語」を使っていないだろうか?


 と、気にしている方、いらっしゃると思います。


 ネットの中でも、「マジ卍はもう死語だ」とか「花金はとっくに廃語だ」などと書いてある記事があるのですが、今回このColumnを書くにあたり、「死語」(もしくは「廃語」)の意味について辞書で改めて調べてみると、世間一般で言われているものとは少し違うことがわかりました。


 きっと皆さんもその意味を知ったら、「『死語』と言わなくてもいいんじゃない?」とか、今まで「死語である」と思っていた言葉に対して、寛容になったり気が楽になるのではないかと思います。ということで、今回もまずは辞書で調べるところから始めましょう。


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【死語】『新明解国語辞典 第八版』

㊀古代使用されていた言語で、現在では日常言語としては一般にしようされなくなったもの。例、ラテン語。

㊁その語によって表される事物がなくなったりした関係で、現在は用いられなくなった言葉。廃語。→古語

㊂若い世代の間ではその用法・存在がすでに忘れられかかっている単語。例、「蚊帳」など。

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 まず『新明解国語辞典 第八版』の内容を引用させてもらいましたが、上記の内容を読む限り、「死語」というのは「現代日常言語として使われなくなった言葉」、「一般に通用しなくなった古語」、「若い世代の間で忘れかかっている単語」などということが分かります。


 そして、多くの人が気になっている「死語」とは「若い世代の間で忘れかかっている単語」に当てはまるような気がしますが、例が「蚊帳」ということでどうもしっくりこなったんじゃないかなと想像します。何故なら、「『死語』とは昔からあるような言葉が無くなりかけているとかではなく、流行語だったものが廃れたものではないか」と思っているから。

 では、その疑問にお答えするために、もう一つの辞書を引いてみましょう。


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【死語】『三省堂国語辞典 第八版』

①昔[=だいたい明治時代以降]の流行語など、現在は使われなくなった単語。廃語。例、サイノロ[=妻にあまい男]

②現在の日常生活では使われなくなった言語。例、古代ギリシャ語・ラテン語。

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 今回は『三省堂国語辞典 第八版』を取り上げてみました。いかがでしょう。①を見てみると分かると思いますが、これこそが皆さんが日常でよく使う意味に近い「死語」ではないでしょうか。

 しかし、よく見て下さい。用例に出ている「サイノロ」について、すぐに意味が分かる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。きっとそれほど多くないはずです。何故なら、この言葉を日常の中で聞くことがほとんどないから。


 つまり、「死語」というのは単に「流行語が廃れた」という意味ではなくて、「その言葉を発したり使っても、日常会話の中で使われなくなったために意味が通じないこと」を意味しているのです。


『三省堂国語辞典』の辞書編纂者である、飯間浩明氏が大学生と対談したものがネット上に載っていているのですが、そこに「『死語』ってどういう状況のことをいうんでしょうか?」という質問が出てきます。飯間氏はそれに対し「みんなに『え、なにそれ』って言われるようになると、それは死語です」と仰っていました。つまり、誰かが何となくでも意味が分かるものは「死語」ではないんです。


 念のため書いておきますが、辞書によってもこれに対する捉え方や、扱い方については様々です。上記に挙げた辞書はどちらも株式会社三省堂から出ているので、傾向としては、丁寧で一歩踏み込んだ語釈が書かれていますが、『岩波国語辞典』や『旺文社標準国語辞典』などはもっとあっさりしています。そのため「流行から遅れた言葉」のようなものも、「死語」として捉えられても無理はないと思います。


 ここまでの過程でいえることは、「マジ卍」も通じる間は「死語」ではないということです。

 それよりも多くの人が気にしているのは、その言葉が流行に後れているか否かとか、ダサくないか、廃れた言葉になっていないかという点ではないでしょうか。

「時代に遅れた言葉を使うこと」で「古い人間」、「時代についていけない人」と思われたくないという心理から、そんな風に思うのだと思います。


 しかし、一度流行した言葉はすぐには消えません。

 飯間氏も、大学生との対談で「少しずつ浸透した言葉が、急に使われなくなることはありません。たとえピークを過ぎて、使われる機会が減っていくとしても、そのペースは緩やかなんです」と仰っていました。


 そのため、もし「死語」や「廃語」で悩んでいても、「相手に伝わるかどうか」を考えて使っていれば、まずは大丈夫だと思います。それに、流行語には流行語にしかないニュアンスもありますから、相手に通じるようでしたら使っていいのではないかと私は思います。対談で語られていた「ぴえん」も、そういう言葉の一つのようですしね。


 とはいえ、やはり「古い言葉なのかどうか」「今時ではない言葉なのかどうか」というところか気になるところかとは思います。そのため、次回以降のColumnで言葉を一つずつ見て考えていくつもりです。

 もしかすると、死語や廃語とは少し別の角度からのアプローチになるかもしれませんが、良かったら読んでみてください。ちなみに、最初は「花金」を取り上げる予定です。


*補足*

 今回取り上げた辞書の中で「廃語」の意味は下記のようになっています。

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【廃語】『新明解国語辞典 第八版』

 死語。

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【廃語】『三省堂国語辞典 第八版』

 制度や流行の移り変わりなどにつれて、今では使われなくなったことば。

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『新明解国語辞典 第八版』はあっさりしていますね~。『三省堂国語辞典 第八版』は、やはり「死語」と同じように「今では使われなくなったことば」だということが分かります。


*おまけ*

『三省堂国語辞典 第八版』の「死語」の項目にあった「サイノロ」について補足しておきます。

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【サイノロ】『デジタル大辞泉』

「サイノロジー」の略。(補説)多く、「妻のろ」と書く。

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【サイノロジー】『デジタル大辞泉』

 さいに甘いこと。また、そのような男。「サイコロジー(心理学)」をもじってできた語。

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*参考URL*

「ぴえん」はもう死語? 飯間浩明さんをうならせたZ世代の答え

https://withnews.jp/article/f0220802001qq000000000000000W07n10101qq000024978A 

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