Column2 「ボール」と「ボウル」

 今日は外来語の表記について取り上げようと思います。

 皆さんは、「ball」と「bowl」の日本語表記をどのように使い分けているでしょうか。

 ご存知だとは思いますが、「ball」は「球状のもの(『明鏡国語辞典 第三版』)」のこと、「bowl」は「料理などに使う深い鉢(『明鏡国語辞典 第三版』)」のことを示しています。


 先日、カクヨムで投稿されているある作品で、「ボール」という言葉を見つけました。その作者さんは、「料理などに使う深い鉢(『明鏡国語辞典 第三版』)」のことをそのように示していたのですが、私は「料理で使う鉢」のことは「ボウル」と表記するものだと思っていたため、辞書で調べてみました。すると「料理で使う鉢」は「ボウル」と「ボール」、どちらの表記を使っても良いことが書かれていました。


*****

【ボウル】『新明解国語辞典 第八版』

 [料理の材料を混ぜたり洗い物をしたりする時に使う]深い(金属製の)鉢。ボールとも。「サラダ――・フィンガー――」

*****


 ちなみに、「ball」は「ボール」と表記するのが一般的です。


 つい思い込みで「こうだ」と思ってしまいがちですが、外来語は表記の仕方が複数あることもあるので(ものによっては書き方が決まっていないものもあります)、気を付けないといけませんね。



◇本文よりも長い補足◆

「bowl」を「ボウル」「ボール」の表記でもよいということを上記で記載しましたが、辞書によってはもう一歩踏み込んだ解説をしている辞書があったので、ここに補足します。


『新選国語辞典 第十版』では、外来語表記について「標準的な書き表し方」「慣用的な表し方」「標準的な語形ではないもの、ごく似た言葉でほかにいっそう一般的なものがある場合、古語で歴史的仮名遣いによる表し方として見出しに出したもの」の三つに分けて表記しています。


 例えば「welcome」であれば、「ウエルカム」が「標準的な書き表し方」、「ウェルカム」が「慣用的な表し方」という風に表すことができます。では、「標準的な語形ではないもの、ごく似た言葉でほかにいっそう一般的なものがある場合、古語で歴史的仮名遣いによる表し方として見出しに出したもの」はどうかというと、「ハンケチ」などが当てはまります。


 では、「bowl」の「ボウル」「ボール」はどのように当てはまるのかと申しますと、「ボウル」が「標準的な書き表し方」なのに対し、「ボール」は「標準的な語形ではないもの、(~中略~)歴史的仮名遣いによる表し方として見出しに出したもの」に当てはまります。そのため、現在は「ボール」と書くのは一般的ではないと考えることもできるでしょう。


 本文では「bowlは『ボウル』でも『ボール』でも構わない」と書きましたが、外来語の扱い方としてもう少し慣れたいというのであれば、この補足についての内容も知っていて損はないと思います。


 ちなみに外来語の表記については、辞書によって見解が異なります。それは各辞書編纂者が何に重きを置いて辞書を作っているかによるため、外来語表記に関して熱を入れている辞書もあればそうでないものもあるのです。

 これは私個人の意見ですが、外来語表記を調べるならば、『新選国語辞典 第十版』が頼りになると思います。何故なら、内閣告示「外来語の表記」に基づいて標準的な書き表し方を示しているだけでなく、慣用的な使い方や歴史的仮名遣いなどによる表し方にも精通していると感じるからです。

 参考までに。



◇補足の補足◆

 内閣告示「外来語の表記」とは?

 法令や公用文書、新聞といった、一般的の社会生活において、現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころを示すもの。


*参考書籍*

日本エディタースクール『標準 校正必携 第八版』(日本エディタースクール出版部/2011.5.30)

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