Column10 「とく」「とける」の解答編(後編)

(*注意* こちらは解説の後編です。まだ前編を読んでいらっしゃらない方は、お手数ですが一つ前にお戻りになって前編をお読みになってから、改めて後編をお読み下さい)



 さて、最後の「卵を溶く」ですが、「解く」ではないかと思った方はいらっしゃいませんでしょうか。実はこれは引っ掛け問題です。


 卵は黄身と白身を混ぜるときに「ほぐす」ようなイメージがあるんじゃないでしょうか。そこから連想すると「解く」が当てはまりそうな気がしますが、「解く」の基本の意味は「ばらばらにすること(『漢字の使い分けときあかし辞典』)より」なので、この場面には当てはまらないのです。


「卵を溶く」という行為は、「溶く」という意味に含まれる「分離しているものをかき混ぜて均一の液状にする」に当てはまります。そのため「卵をとく」ときの漢字は「溶く」を使います。


 卵で「解」を使うなら、「ゆで卵をほぐす」という使い方ならできそうですよね。参考までに。



 以上、問題の回答と解説でした。長々とお付き合い下さりありがとうございます。


 また、下記にこれらの問題を作成・回答の用意をする過程で、辞書によって違った考えが記載されていたので、補足として書き記しておきます。「溶く」「融ける」を使う場面に行き当たった際、どちらを使ったらいいのか、他の漢字も当てはめられるのかということを考えるための参考になれば幸いです。



<補足1>

「片栗粉を溶く」と書きましたが、『明鏡国語辞典 第三版』では「片栗粉を解く」でも可としていました。理由は記載されていなかったのでよく分かりません。


 私が調べた限り、「解く」が「溶く」や「融ける」と同語源であることが考えられそうですが(『デジタル大辞泉』より)、そうであるならば「『卵を溶く』も

『卵を解く』と書けるのでは?」という意見が聞こえて来そうです。しかし、その使い方をしている辞書は見当たりませんでした。


 よって、「固形状・粉末状の物に液体を加えてどろどろの液状にする」という点においてのみ「解く」も使われることがあるとだけ頭の片隅にでも置いておいてくださると良いのかなと思います。


 また、念のため他の辞書を確認したところ、「片栗粉(小麦粉)を解く」というこの用法を可としているのが『明鏡国語辞典 第三版』、また『標準国語辞典 第八版』と『岩波国語辞典 第八版』も可としていそうな書きぶりがされていました。


 ただし『標準国語辞典 第八版』『岩波国語辞典 第八版』は、はっきりと可としているわけではありません。他の「溶く」や「融ける」といった漢字と一緒くたに説明がされており、厳密な使い分けは書き記されてありませんでした。

 もし「片栗粉を解く」として使うときや、それを使うときに疑問がある場合は、『標準国語辞典 第八版』『岩波国語辞典 第八版』以外の辞書を参照して検討した方がいいかもしれません。



<補足2&考察>

「卵を溶く」について、『標準国語辞典 第八版』では【溶く・解く】の項目で扱われており、どちらでも可とするような記載がありました。


 また『岩波国語辞典 第八版』では、<補足1>でも述べました通り【解く・溶く・融く・説く】の全てが一緒くたに説明されており、はっきりとした使い分けが書かれておりません。


 このことから念のため、私が所有しているその他の国語辞典10冊を全て点検し、「卵をとく」の用例があるものを調べていました。すると7冊あり、そのすべてが「卵を溶く」と記載があったことから、この書き方が一般的であると私は考えています。

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