Column5 「追試」と「再試」の違い
学生が主役の小説や漫画を読んでいると、登場人物のなかにちょっとお勉強が苦手な子がいた場合、大抵出てくる「追試」という言葉。
主に漫画で出てくる「追試」といえば、「赤点(「落第点」もしくは「不合格」)になった者が再び受けるテスト」のことを指すことが多い印象があるのですが、皆さんはこの認識でしょうか。
実はこの件についてネットで調べてみると、現在の教育現場では「赤点(「落第点」もしくは「不合格」)になった者が再び受けるテスト」は「再試(再試験)」としています。では、今までの「追試」の認識が間違っているのかというとそうでもありません。ほどんどの辞書では下記のような語釈が掲載されています。
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【追試験】『明鏡国語辞典 第三版』より
定期試験を受けられなかった者や不合格者に対して、後で行う試験。追試。
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辞書ではこのような内容になっていますが、学校側では「定期試験を受けられなかった者に対して、後で行う試験」と「不合格者に対して、後で行う試験」は、全く別物として捉えています。それもそうですよね。もう一度受ける試験の事情によって評価が変わるのですから、別にしておく必要があります。
よって学校や教育現場では下記のように区別しています。
「追試」=「定期試験を受けられなかった者に対して、後で行う試験」
「再試」=「不合格者に対して、後で行う試験」
これは「大学入学共通テスト」でも同じ認識です。
この影響を受けてか、小説や漫画の世界でも少しずつ変化しています。
近年出版(2018年以降)された作品のなかでは、「再試験」という言葉を見たことがありますし(学科のテストではなくスポーツテストですが)、赤点(「落第」や「不合格」、「点数不足」など)をとったら「補習を受ける」という流れになっているものも見かけます。
しかし、全ての作品が現実と同じ方向を向いているわけではありません。
2020年以降に出版された青春物語のなかでも「不合格者に対して、後で行う試験」=「追試」という認識で使われていた作品を一つ見つけました。想像するに、作り手や校閲のほうでは、どの辞書を引いても二つの意味を提示しているので気にしていない(問題にしていない)のかもしれません。
また、物語の世界では、これまでの小説や漫画が作って来た歴史のなかで、「追試」=「不合格者に対して、後で行う試験」という印象が根強く植え付けられ読み手だけではなく、今の作り手もそれらの作品の影響を受けているのも一つの要因として考えられると推察します。
ただ、学校や教育の場では明確に区別して使っています。
「定期試験を受けられなかった者に対して、後で行う試験」と「不合格者に対して、後で行う試験」は似て非なる物です。「テスト」や「試験」が厳密になればなるほど、この二つは明確に分ける必要があるでしょう。よって、学校ものの物語を書く場合は、注意した方が良い点かもしれません。
もちろん、「追試」や「再試」の言葉が学校現場だけではない場所でも使われていると思うので、辞書では二つの意味を載せているのだと思います。しかし、これから先十年(辞書改定まで)の事情によって、辞書の内容が変わっていくかもしれないなぁと思います。
*注意*
2018年、2020年と具体的な数字を上げていますが、これは私の手元にある書籍や試し読みなどで確認できたものがそれくらいの出版時期だったため、このように記載しています。
☆補足★
<大学共通テストの追試験の意味>
やむを得ない事情で試験を受けられなくなった学生を対象に、後日実施される試験のこと。2021年度入試は、COVID-19感染拡大を鑑み、試験日・追試日程が組まれていた。
<大学共通テストの再試験の意味>
試験の本部や会場側に何らかの不手際があり、受験生が本来のコンディションで受験できなかった場合に実施されるもの。英語のリスニングで使用されるICプレイヤーの誤作動や、問題冊子の印刷ミスなどがこれらに含まれる。
また、雪や地震などの自然災害の影響で試験が受けられなかった場合も、再試験の対象である。
<参考URL>
「オープンキャンパス・体験入学を探そう よくある質問 大学生活について 大学共通テストの追試験ってなに?」より
https://opencampus-guide.jp/faq/cat06/%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%A5%E5%AD%A6%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%AE%E8%BF%BD%E8%A9%A6%E9%A8%93%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%AB%EF%BC%9F.html
「周南公立大学 再試験・追試験について」
https://www.shunan-u.ac.jp/campus/notification_of_absence/
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