Column3 「納れる」の問題

 前回のColumnで「いれる」について、一通り書いたのですが、新たな問題が登場しました。


 実は『明鏡国語辞典』で「入れる」を調べていたところ、そのなかに「れる」があったのです。どう使うかというと、「収納や納入の意味で使う」ということが書いてあったのですが、私はこれまでに「れる」と書いた文章を見たことがありません。


 そこで『新明解国語辞典』や『三省堂国語辞典』でも調べてみたのですが、それらには「いれる」の項目に「納れる」がありませんでした。

 一旦国語辞典から離れて、漢字辞典の『角川新字源』で「納」を引いてみたところ、確かに意味に「いれる」がありました。しかし、読み方に「『いれる』と読む」とは書かれていなかったのです。


 どうやら普段使っている辞典では太刀打ちできそうにないので、今度は『精選版 日本国語大辞典』を引いてみました。すると「いれる」の項目に幸田露伴の書いた小説が掲載されており、確かに「納れる」が使われた一文がありました。作品名は『風流仏』。下記に引用いたします。


「行末は似つかはしい御縁を求めて何れかの貴族の若君を御積り」(『精選版 日本国語大辞典』より)


(注意:筆者は幸田露伴の作品を読んだことがないので、小説の内容に関しては推測でお話することをお許しください)


 縁談の話が書かれていますが、「貴族の若君を『れる』御積り」としているところから、何やら裏がある縁談の雰囲気が漂っていますね。

 それはいいとして「納れる」はどうなのかというと、ここでは「特定の環境の中に移す」という意味で使われているのです。


 再び漢字辞典で「納」という漢字を調べてみると、「物の中へ入れる。送り込む」という意味がありました。

 そこそも「いれる」には「外部から、ある場所、環境などに移す」という意味があります。それと似通った意味があることから、「納れる」という書き方もされたのかもしれません。

 ただ、『明鏡国語辞典』の使い分けにあった「収納や納入の意味で使う」ではない意味として使われているので、正直「収納や納入の意味で使う」場面があるのかどうかは謎のままです……。


 しかし「納れる」が使われなくなっていった理由は想像できそうです。

「納れる」を「いれる」とは中々思えませんし、使い分けも難しいと思います。その上現在は「いれる」=「入れる」で全て事足りる状態になっているので、わざわざ「納れる」を使うまでもないということでしょう。


 以上、「納れる」のお話でした。

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