Column2 「敷居が高い」の本当の意味

 ——高級レストランは、敷居が高くて入りづらい。


「敷居が高い」という慣用句は、「高級なものを扱っていたり、マナーをきちんと守らなくてはいけないような場所で入りづらい」というときに使うことがあるかと思います。

 しかし、これは本来の使い方ではありません。


「敷居が高い」というのは、元々「不義理や面目のないことをしているので、その家に行きにくい」(『明鏡国語辞典 第三版』より)という意味で使われていました。

「敷居」とは、戸や障子を乗せて、開け閉めするための溝のある横木のことです。家や部屋に入るときにそれをまたぐわけですが、その家の人に対して自分が悪いところがあると思うと、引け目を感じて入りにくくなりますよね。それが「敷居が高く感じる」という感覚に繋がり、「敷居が高い」という慣用句が生まれたようです。


 しかし、「高級なものを扱っていたり、マナーをきちんと守らなくてはいけないような場所で入りづらい」という誤用の方ががどんどん広まっていたため、辞書でもこの使い方を認めるものが増えてきました。その歴史を少しだけ振り返ってみましょう。


 まず、2015年投稿の『毎日ことば』では、「敷居が高い」について「辞書の傾向を見る限り『不義理~』の意味で捉えるべきである」ということが書いてありました。この当時の辞書には、「敷居が高い」=「ハードルが高い」として扱っているものが少なかったようです。

 しかし2020年~2022年にあった辞書改定ラッシュによって、「『ハードルが高い』という意味としても捉えられる」とするようになってきました。


 新しい言葉や使い方をいち早く察知して、辞書に取り入れる『三省堂国語辞典』はもちろん、『新明解国語辞典』『明鏡国語辞典』の最新の版も容認しています。

 

 また、『デジタル大辞泉』には面白い調査結果が掲載されていました。下記に引用いたします。



【敷居】『デジタル大辞泉』

・敷居が高い

 不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくい。


<補説>文化庁が発表した「国語に関する世論調査」で、「相手に不義理などをしてしまい、行きにくい」と「高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい」の、どちらの意味だと思うかを尋ねたところ、次のような結果が出た。


「相手に不義理などをしてしまい、行きにくい(本来の意味とされる)」

 平成20年度調査……42.1%

 令和元年度調査……29.0%


「高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい(本来の意味ではない)」

 平成20年度調査……45.6%

 令和元年度調査……56.4%



 いかがでしょう。

 上記の調査結果を見る限り、「本来の意味ではない」方の認識が高まり、本来の意味を認識している人の方が少なくなっていることが分かります。


 ちなみに、『三省堂国語辞典』は第七版の時点で「本来の意味ではない」方を、語釈として載せており、現在は①義理をかいたりして、その人の家に行きにくい、②近寄りにくい、③気軽に体験できない、と記載があります。

 さらに面白いのが、①は江戸時代から、②は戦前から、③は1980年代あった用法だと書いてありました。

 ②、③が「本来の意味ではない」ものではありますが、そうはいってもかなり長い歴史がありますよね。実際、私の周囲の人たちは②、③の意味で「敷居が高い」を使っている人の方が多い印象です。


 皆さんは、どちらの意味として使うでしょうか。

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