6月

◇閑話◇ 「紅」を「くれない」と読む理由

 くれない。それは、4~5世紀の頃に日本に伝えられた植物、「紅花」から抽出される色のこと――。


 それまでは「あかね」という、つる性の多年草の根からとった染料を用いていましたが、茜で染めたものは黄色味を帯びた赤色。一方で「紅」は、鮮明な赤色です。そのため、紅花が伝えられてからというもの、日本人は「紅」の赤を求めるようになりました。


 さて、「紅」は「べに」とも読みますが、何故「くれない」と読むのかご存知でしょうか。

 元々は「呉ノアヰくれのあい」という言葉だったのですが、それがつづまって「くれない」になりました。


 紅花の原産国は、エジプト。

 日本から遠く離れた国の植物が、中国を介して伝わりました。「アヰあい」は「藍」のことですが、当時主な染料として使われていたことから、「藍」=「染料」、つまり広い意味での「染料」を表わしていました。そのため「呉から輸入したアヰ」つまり「呉から輸入した染料」という意味で「クレナ」と呼ばれるようになったのです。


「くれない」という言葉が出来た過程から考えると、「呉から輸入した染料」全てのことを「クレナ」と呼びそうですが、どういう経緯があったのか、実質的には紅花で染めた色のことを「くれない」と示すようになったようです。



<余談>

「紅花」の異称は、「末摘花」。古典を読んだり、学んだことがある方はご存知かと思います。

 何故そのように言われるのかというと、茎の先端から咲く花を順々に摘み取って紅の染料にするからです。これは『おもひでぽろぽろ』という作品をご覧になると分かると思います。

 また「紅花」という花は、一つの畑の中で最初に咲くのは一輪だけと決まっています。どうして一輪だけなのか。それはよく分かっていないようですが、緑色に広がる畑の中に、ぽつんと黄色のようなオレンジ色のような、冴えた色を放つ花は本当に目立ちます。そしてそれを皮切りに、あちこちで一斉に花を咲かせるのです。不思議な花ですよね。


「末摘花」は古典などでも登場しますし、『源氏物語』では確か人物名として出ていたかと思います。平安時代「クレナ」は色名として、「末摘花」は植物名として用いることが多かったようです。

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