5月

Column1 「温かい」と「暖かい」の使い分け

 ——心があたたまるようなお手紙をありがとうございます。


 さて、上記の例文で平仮名になっている「あたたまる」ですが、「温」と「暖」のどちらの漢字が入るでしょうか。


 答えは「温まる」です。こちらを使うのが一般的なのですが、この二つの漢字の使い分けは案外難しいものがあります。


「温かい」と「暖かい」の使い分けは、きっと学校で習ったと思います。

「温」は、「さんずい」が付くので、液体や固体などの触れて温度感が分かるものに使います。「お風呂が温かい」「温かい料理」はよく使う例でしょう。


 一方で「暖」は、「ひへん」が付きますので、日差しや空気の温度感を示すときに使われ、例えば「暖かな日差し」「暖かい気候」などが挙げられます。

 特に「暖」は、「触れることのできないあたたかさ」に対して使われることが多いので、人柄や心の機微に対しても使えそう……と思いませんか? つまり、例文に当てはまるのは「暖」の方ではないか、と。

 しかし辞書では、「温」を使うのが正しいとされています。

 それは「温和おんわ」「温厚おんこう」といった、性格のあたたかさを表わす熟語があるから、と言われています。


 しかし、それでも理解するのは難しいかもしれません。

 ということで、この二つの使い分けが上手く書かれている辞書がありましたので、下記に引用いたします。


*****

【あたたか・い】『旺文社 標準国語辞典 第八版』

〇学習使い分け「暖かい」「温かい」

暖かい……日が当たって温度が高く気持ちのいいようす。気温が暑すぎず、ちょうどよい状態。

温かい……水などがほどよい温度で気持ちのいいようす。転じて、気持ちがやわらいでいるようす。

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*****

【あたたかい】『角川必携国語辞典 第六版』

▼「温」と「暖」の厳密な使い分けはむずかしいが、料理や水など、からだの一部で感じるものや愛情の表現には「温」。気候・ふとんなど、からだ全体でぬくもりを感じる場合は「暖」を使う。

*****


 上記の引用で、辞書でもこの説明は難しいことが伺えますが、「心が温かい」というようなときに「『温』の方を使うことが一般的」という考え方について、少しでも理解が深まれば幸いです。


 それでも「『温』と『暖』の区別をつけるのが難しい!」というときは、「温かい」の反対である「冷たい」が当てはまるか、「暖かい」の反対である「寒い」が当てはまるかを比べます。必殺技ほどの効果があるかは分かりませんが、これに従えば大抵は解決するとのこと。

 もし悩んでいらしたら、試してみてはいかがでしょうか。


 ちなみに、世には沢山の辞書が出版されていますが、全てのそれが「温」と「暖」の書き分けを示しているわけではありません。

 私の手元にある辞書を確認したところ、書き分けがされているのは『明鏡国語辞典』『旺文社 標準国語辞典』『三省堂 現代新国語辞典』『新選国語辞典』『角川必携国語辞典』の5冊。

 一方で『岩波国語辞典』『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』の3冊には使い分けについて言及されていませんでした。辞書のなかに「使い分けをはっきりと示さないものもある」ということは意外でしたが、辞書のコンセプトも影響しているのかもしれませんね。

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