第4話 3番の愚痴
「ご清聴ありがとうございました」
平田は会釈して、「スッキリされて何よりです」。
「お次は3番の方ですね。心の準備はよろしいでしょうか?」
「あ、はい。私ですね」平田の正面の若い男が発言した。
「僕の話は少し重いものかと思われますが、よろしいでしょうか?幼馴染が殺されて、僕が犯人扱いされた話なんですが」
4番の男が、「殺された」というワードに反応した。3番の男は周囲の顔を伺って話を続けた。
「順を追って話します。つい先日、私の幼馴染が惨殺されました。理由は分かりません。包丁で滅多刺しだったらしいです。
彼とは保育所時代から今までずっと友人でした。家が近所だったので家族ぐるみで仲が良かったです。休日とかよく二つの家族でバーベキューに行ったり、遊園地に行ったり。お互い一人っ子だったので、一応ここではH君としたます、H君とはすぐに兄弟のようになりました。
中学、高校では部活が別々になり少し疎遠になってしまったのですが、大学は同じところにいって一緒にバンドを組んだりしてました。彼がギターで僕がボーカルです。その時のメンバーで僕はデビューを望んでいたのですが、彼は親に心配はかけられないと言って最後は解散。結局、僕たちは普通に就職して、今でも音楽はやってますが趣味程度です。
社会人になっちゃうとまたH君とは疎遠になっちゃいましてね。まあそれでも僕は仲良くしていたかったんで休日は出来るだけ会えるように時間を合わせていたんです。でもね、H君もH君で彼女がいたんで、徐々に会えない日が増えていきました。なんか結婚とか考えていたみたいでしてね、そっちの方に時間を取られていたようです。まあ、いつまでも昔の友人と一緒にいるのもおかしいですよね。
で、そんな時にH君が突然殺されましてね。一人暮らしの彼の部屋でめちゃくちゃに刺されていたらしいんですよ。玄関は開けっぱなしで、誰も中にはいなかったって警察が。使われた包丁は残っていましたよ。ただ、指紋は全くついていなかったって。だから計画的犯行だろうって。
僕は通り魔みたいなもんだろうと想うんですけどねー。だって、Hを恨む人なんてこの世にいませんよ。めちゃくちゃ優しい人でしたから。あ、でもちょっと厚かましいところはあったかな。それが勘違いされて恨まれたって可能性はある」
「何笑ってんだよ」4番の男が若い男を急に咎めた。平田は咄嗟に若い男の様子を伺う。たしかに、友人が死んだ話をしているとは思えないほど元気に見えた。
「なんですか。僕はとっても苦しみましたよ。僕もH君の家族もみんな何日間も泣き続けていましたよ。H君の母親は自殺未遂まで起こしましたし、僕は殺人の濡れ衣をきせられました。その理由もなんとH君が殺された昨晩一緒にいた人だからってだけで。誰が言いふらしたのか、とんでもないでたらめです。きっと、僕が変わり者だからみんな信じちゃうんでしょうね。
僕はね、辛いことがあると笑っちゃうんです。あー、そうそう今日はここでこのことを愚痴りにきたのでした。よく誤解されるんです。
昔からそうなんです。笑っちゃうんよね。イジメにあった時も、笑っちゃってそれがさらにいじめられる原因になったりとか。そういう時は、いつもH君が僕を助けてくれました。H君は僕の一番の理解者でした。だから、僕を理解してくれる人が多かった中高では、彼は僕のそばにいませんでした。でも、ちょっと困ったことがあったら大抵助けにきてくれたんです。
さっきも言ったように彼は厚かましいです。その厚かましさが僕には合ってました。ただ、鬱陶しがっている人も結構いたのは事実ですけどね。よく、お前には関係ないだろ!とか怒鳴られていたのを覚えています。彼は優しかったんで、そう言われるとそれ以上は干渉しないようにしていましたけど。
話を戻しますね。それで僕はご近所さん達に濡れ衣を着せられているんですけど、どうやら警察の方から犯人に目星がついたとかで、僕の疑いが晴れつつあります。犯人は女の人ですって。あと言っておきますけど、H君の彼女じゃないですからね。別の女性らしいです。監視カメラに映っていたらしいです。それとね、H君とその謎の女性、前日に手を繋いでHの部屋に入っていくところを監視カメラが捉えてたみたいです。多分、彼がまた厚かましいことをしたんでしょうね。
あー、またH君の話になっちゃった。つまり僕が言いたいことは、ゴミ安藤、クソ樋口、アホ森井死ねクソコラカスってことです。あいつら、調子に乗りやがって。絶対謝罪しませんからね、どうせ」
「匿名でお願いします」
平田の忠告に3番の若い男は「すみません」と謝罪を一つ入れた。
「むしろ彼らがH君をやったんじゃないかとか思ってます、僕は。まあいいんですけど、いつか復讐してやります」若い男は握り拳を突き合わせた。
「僕の話は以上です。H君の話ばかりになってしまいましたが、ご清聴ありがとうございました」
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