第3話 2番の女性の愚痴

 聞いていた4人は、覆面の穴から見開かせた目を1番の男に送り、驚きの感情を上半身で表した。1番の男は目線を蝋燭の炎の上に浮かべた。しんみりしたように、瞬きする。一息吐いて、再び話し始めた。

 「婚姻届はもう市役所に出しています。なので、私と彼女は夫婦です。

 彼女がいなくなってから、もう1ヶ月近くが経ちました。警察に捜索届けを出して半月になりますが、未だに手がかりがいっこうに見つかりません。なんなら、偽名を使っていたのでは?とも思ってます。

 少し暗い話になりましたね。この話は何人かの親友には話しました。だけどあまり心配を掛けたくないので多少脚色して話してます。

 やっぱり心の内を吐き出すのは気分がいいですね。少しスッキリしました」

 沈黙がしばらく流れた後、平田は全員に目配せをして口を動かし始めた。

 「はい、1番さんありがとうございます。奥さんが連れ去られて、そのまま失踪はなかなかショッキングな話ですね。この場でスッキリされて良かったです。

 では続きまして2番さんにお話ししてもらいましょうか。準備が出来次第、お願いします」

 平田は2番のネームプレートを探した。入室前の先頭を歩いていた女性の胸元にかかっていた。平田は彼女に目配せした。それに気付いて、彼女も合図を返した。

 「えっと、私ですね。司会さんご指名ありがとうございます。早速話しましょうか。さっきの方より、くだらないお話ですが」

 女性の声は、想像よりも年を重ねていた。50や60の年嵩の声音だ。

 平田が「どうぞ」と言うと、彼女は話し始めた。

 「私には3人の子供がいます。長女、長男、次女。長女はしっかり者でした。長男は大人しく。次女は自由人って感じです。

 長女は20歳になってすぐに結婚しました。お相手は一流のビジネスマン。彼女はお金は俺が稼ぐからと言われて、専業主婦になりました。最初は良かったらしいのですが、3年経つと、専業主婦が性に合ってないことに気付き、喧嘩して離婚しました。今はうちにいます。実家暮らしでまあまあな企業に勤めてます。だけど結局、独身のまま30を迎えてしまいました。未だにお相手は見つかっていないみたいです。

 長男は大学時代に友達と上手くいかず、中退しました。一度就職しましたが、そこがブラック企業で1年半で退職しました。大人しく内に溜め込んでしまう性格の彼にとって不幸の連続は耐えきれなかったのでしょう。今はうちにいて、ニート生活を送っています。ニートといっても、たまにバイトはしてますよ。ただ、あまり続いていないみたいだけど。

 次に、次女ですね。彼女は上二つがあんなだから小さい頃から自分本意な生き方を好んでいましたね。母親の私が言うのもなんですが、特に男遊びが凄かったです。高校生時代は友達の男だろうが誰かの夫だろうが、二股を持ちかけて一夜を共にしていたようです。どこかで小耳に挟んだのだけど、裏で有名なビッチだったらしいですね。

 彼女は高校を出た後、大学に行かずフリーターになりました。学校という縛りが無くなった後、彼女のふしだらさは一気に増しました。露出した服装をやめ清純な服装を着るようになったと思えば、同時に複数の男性と付き合い始めました。よくバレないなと思っていたら、彼女どうやらお金を彼氏達からせびって、それを本性を知っている人たちに配って回っていたらしいです。それでもバレないのは凄いですが。

 そんな彼女も25になりました。そろそろ結婚したら?と提案したら、あっさり賛成してくれました。多分彼女自身、男遊びには飽き飽きしていたのでしょう。その頃の彼女はあまり日々の生活が楽しくなさそうでした。

 彼女は真面目そうな男性を探すと突然言い出して、その半年後、相手が見つかったと言ってきました。お互い結婚願望があるから、多分ゴールインするとのこと。その頃になると、彼女はとても人生が楽しそうに見えました。

 私は上の2人がちょっと上手くいかなかった分、彼女には幸せを掴んで欲しいと願っていました。だけど、ある日突然「分かれた」と。彼女は自室にこもって、食事もあまり摂らなくなりました。私が「どうしたの?男なんて星の数ほどいるわよ」と励まそうとしたら、「もう男はいい」と。

 何が合ったのでしょうね。母親の勘としては、以前遊んでいた男に恨まれて痛い目にあったとかだと思うんだけど。教えてくれませんでした。あの子はあの子で上の2人がああなってから、あまり私たち親には心配かけないようにと、自分の悪い話を話さなくなったから。

 今は彼女もニートしています。今まで騙してきた男達からの復讐に怯えて、家に引きこもっているのよ。きっと。まあ、自業自得っちゃ自業自得だからね。彼女の場合は。

 で、私の全ての子供達はみんな晴れて実家暮らし。しかも、そのうち2人がニート。

 でも、昔と変わらず、5人で朝晩一緒に笑い合って食事できるのは不幸中の幸いってことよね。心も体も元気なのよ。なんやかんや。夫に似たのかしらね、彼は風邪とか全く引かない人だから。

 あ〜、でもやっぱり腹立つな〜。長女はいいわ。でも、次女は自業自得よ。親に迷惑しかかけてないんだから。長男も本当は働けるのよ。それを言い訳していっつも逃げてる。

 は!た!ら!け!よ〜!」

 

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