第9話 春⑨

・・・O・・・



ニシを真ん中に


俺たちは3人で歩いた。


一緒にいると


びっくりする位昔の思い出がよみがえってくる。



ニシとマサユキが楽しそうに話す。


それを聞くと俺の頭の中の奥底の記憶がふわっと浮かび上がって


思い出したことがまた楽しくて


こんなに楽しい気持ちになったのは


すごく久しぶりのような気がする。



小学校が近づくと


ニシがだんだん無口になった。


「夜の小学校って、幽霊でるかな・・・。」


と小さい声で言った。



「そう言えばトイレの花子さんがいたよね。暗ーいトイレのドアの向こうに・・・。」


ってマサユキが脅かすから


ニシがぴくっとなって俺の腕にしがみついた。


「脅かすなよ!」


「ニシちゃん恐いの?」


「お前だって怖いだろ?」


「俺はもうこわくないさ。子供じゃないんだから。」


「お、俺だって・・・・。」


そう言いながらも俺にぴったりくっつくニシが


かわいい・・・。



「幽霊が出たら俺が守ってやるから。」



そんな言葉がつい出てしまった。


「あ、ありがとう・・・。やっぱりおーちゃんは頼りになる。」


そう言って俺に笑顔を向けたニシは


マサユキに怒った顔をしてみせた。





小学校は


思った以上に明るくてにぎやかだった。


駐車場には街灯があったし車がたくさん停まっていた。


体育館でバレーボールの練習をしていたからだ。



もっと暗くて


ひっそりしていると思った。


もう少し


ニシのヒーローでいられると思たけど・・・。



少し残念に思っていると


ニシが


「人が大勢いて良かった!」と元気な声で言った。


ニシの元気な声を聞いてマサユキが


「花見する?明るいから花見できそうだよ!」と提案した。


確かに体育館からの明かりで


グランドの桜がきれいにみえそうだ。


だけど


確かニシは


桜が怖かったんじゃなかったっけ。



「基次郎?安吾?」


ニシがいう。


何のことかわからない俺とマサユキが顔を見合わせる。


「さとちゃんが、桜の下には屍体が埋まってるって言ったから。


俺、両方読んだ。」



俺は


なんだっけ


誰かに聞いたんだっけ。


それとも俺が想像したんだっけ?


3人で


桜の下の屍体を探そうとしたんだ。



モトジロー?アンゴ?そんなものは知らないけど


桜の木の根元を掘ろうとしたことだけは覚えている。



「さとちゃん?」


ニノが俺のことをさとちゃんって呼んだことをマサユキがツッコむ。


ああ、久しぶりにさとちゃんって呼ばれた。


ニシはずっと俺のことをさとちゃんって呼んでて、いつからだろう


皆と同じようにおーちゃんって呼ぶようになったのは。


俺たちがだんだん遊ばなくなった頃からだ。



「俺が守ってやるから、花見しようか?」


さとちゃんてよばれて嬉しかったからか


今日がとても楽しかったからか


夜でテンションが上がってるからか


こんな、恥ずかしいセリフがよく言えたもんだ。


しかも、2回も・・・。


ニシに向かって


いや・・・・ニシだからか・・・。



「うん。」


ニシが俺の腕をギュッとつかむ。


「木の下を掘った理由なんて忘れてたな~。3人で掘ったことは覚えてる。園芸用のちっちゃいスコップだったよね。あんなので掘ろうなんて、やっぱガキだったね。」


マサユキが俺たちの隣でいう。


「おー。夜桜。いいね~。」


満開を少し過ぎて


ハラハラと散った花びらが舞う。



願わくば


花の下にて


ニシと・・・・



ニシの腕の力が抜け


俺の腕からするりと抜けた。



「きれいだね・・・。夜桜・・・。」


ニシはマサユキの隣に行って


桜を見上げる。


「こんなきれいなのに俺怖かったなんてね。」


そう言って笑った。


恐怖が消えて


俺から離れて言ったニシが


ふわっと泳ぐように進む。



「あ・・・」



今、


ニシが


桜に連れ去られる。


こんなに美しい少年を


桜がほっておくはずないんだ


そして ニシの美しさを吸い上げて


おまえは毎年美しい花を咲かせるんだろう?



そんな恐怖が


俺を襲った。



そんなことはさせない。



「かずくん!」


俺は大きな声でニシを呼んだ。


そしてニシを強く引っ張って


ギュッと抱きしめた。

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