第8話 春⑧

・・・A・・・



「どこいく?」


「やっぱ、中コウじゃね?」


俺たちがよく遊んだ中央公園。


もう、ずっと行ってない・・・。



夜の公園なんてちょっと素敵じゃない?



ニシとは小学校まで野球クラブで一緒だったから


ずっと仲のいいままだったけど


中学に入ってからはあまり行き来しなくなってた。


だから今こうして一緒にいると


すごく楽しい。



おーちゃんとこんなに話をしたのは、小学校の低学年以来だけど


気まずい雰囲気も何もなく


一緒にいられてすごく楽しい。


クラスが離れ離れになっても、


気の合う人とは友達でいられるんだな・・・。



ニシが楽しそうにおーちゃんと話をする。


ニシが楽しいと俺も楽しい。


3人でワイワイはしゃぎながら公園に着いた。



公園は街灯がところどころあって


近くを犬の散歩をしている人や


ウォーキングをしている人が通っていくけど


遊具の周りには誰もいない。



俺たちはまずブランコにのって


3人で思い切り漕いだ。


それから遊具のトンネルに行った。


「ちょっとはいってみようか?」


腰をかがめて中に入る。


昔はこの中でならんで座ることができたのに


今、そんな体勢をとるのは無理だった。


トンネルのあまりの小ささにびっくりする。



このトンネルの中で


ニシにホワイトデーのクッキーを渡したことがあった。


なんでこんなとこで渡したんだろう・・・。



なんか、ニシと二人だけになりたかったんだっけ・・・。



俺も可愛かったな・・・。


その時のことを覚えてるかニシに聞こうとしたら


おーちゃんが


「昔、この中で泣いたよね?」


ってニシに言った。



え、泣いてた?ニシが?



そう言えば泣き虫だったニシ。



「マサユキと喧嘩したんだよね。」



え・・・原因は俺?



「いや、泣いてないと思うけど!!」


ニシが反論する。


「でも、よく覚えてるね・・・。慰めてくれたよね。あのとき」


ニシがおーちゃんを見て恥ずかしそうに笑った。


その顔がすごくかわいくて


俺はちょっと胸がギュー・・・とした。



ニシとおーちゃんに二人だけの思い出があるんだ・・・。



「雨が降ってて、その後マサユキが傘を持ってきてくれて・・・。」


「え、そうだっけ・・・。」


俺は覚えていない・・・。



俺の知らないニシをおーちゃんが見ていたことが


なんだか悔しい気がした。


3人の思い出の場所が二人の思い出の場所になっていることが


悔しかった・・・。


それで俺は負けまいと


このトンネルの中でニノにクッキーを渡した話をしようと


思って・・・


・・・・やめた・・・。



もしかして


ニシが覚えていない・・・・と言ったら


悲しいから・・・


そして


俺って昔からなんでもおーちゃんの後なんだよね・・・。


おーちゃんはゆったりしてるけど


ニシに対しては気持ちが素早く反応してる。


昔からそうなんだ。



「マサユキ?」


もやもやした俺の気持ちを見透かすように


ニシが心配そうに俺を見る。


「・・・ああ・・なんか思い出に浸っちゃった・・・。」


俺はあわててそう答える。そんな俺を見てニシが


「フフッ・・・マサキとトンネルの中で・・・。」


って言いかけて、


その後は何も言わず


俺の顔を見てにっこり笑って


「わー今日星が結構出てる!気が付かなかった!」


って話を逸らした。


「やっぱり春は 空が霞んでるね。」


おーちゃんが言った。



マサユキとトンネルの中で・・・・



今、ニシがそう言った。


そう言って俺を見て微笑んだ。


これは絶対ホワイトデーの事覚えてるんだ。



俺、


ニシにキスしてって言って


ニシが頬にキスしてくれた。



ニシは覚えていて


きっとそれをいい思い出と思ってるんだ。


だって


笑ってくれてたじゃん・・・!!



俺のもやもやは一気に晴れた!



「思い出に浸りついでに小学校にも行ってみない?」


おーちゃんが言った!


いい気分の俺は


「いいね!!」って張り切って賛成した。



俺はニシと並んで歩く。


俺はニシより背が高いから


ニシが俺の方を向いて話す時はちょっと見上げた目線になる。


その顔が


俺だけをみてるんだな・・・って感じることができて


すごく好き。


歩きながら時々ニシに触れるのがドキドキする。


このまま


小学校までの道がずっと続けばいいのに・・・。

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