173話:決死防衛線③
そして、戦いは司令部でも行われていた。通信が入り乱れている。声を出しすぎて、声が枯れるものも多い。そんな中で、司令は笑みを浮かべた。
「よし、間に合ったか!」
レーダーには更なる増援部隊が映っていた。これは追撃戦が始まって間もなく要請して、それに答えて送られた部隊。横浜衛士訓練校の更に後方、東にある基地から派遣された部隊だ。練度はさほどでもないが、数は多い。戦闘を続けている部隊と合流すれば、殲滅も可能となるだろう。これ以上進ませることは罷りならん。司令の心は、デストロイヤーの進路の先に向いていた。
進路上には――――まだ避難が完了していない村が、いくつかある。
『増援部隊よりHQへ! こちら防衛軍。要請を受け参上した。データリンクと報告を要請する』
送られてきた大隊。規模は連隊だ。その連隊長よりCPへと通信が入る。事前に情報が得られているとはいえ、最後の確認を怠る理由もない。念入りに情報が交換され、すぐさま連隊は動いた。大隊がみっつ。
108機のアーマードキャバリアが、今も戦闘が行われている戦域へと移動をはじめた。壊滅した部隊のCPの引継ぎが始まる。まさかCP将校を移動させるわけにもいかないので、この戦闘の特例としてだが、CP将校を転用させるのだ。他愛もない冗談が飛びかう。一部は自分の部隊が壊滅したせいか、涙声になっているが、それでもへこたれているだけの者は少ない。
そうして、増援部隊のレーダーが赤の群れへと近づいていった。編隊は崩れず、整然と移動ができているようだ。そのまま進むと、当然の如く距離は順調に詰まっていく。
彼らは匍匐飛行して移動していた。此度のBETA群の中で確認された光線級は、すでに追撃部隊の手により殲滅されている。それならば、移動速度が落ちる跳躍のみの飛行を行う必要はない。そのまま順調に、青と赤が入り乱れる戦場へ、ひとかたまりの青が近づいていく。
そして、戦闘域近くまで移動した青から、通信が入る。
『戦闘を肉眼で確認した………暗いが、言っている場合でもないか』
頼もしい言葉に、司令は頷いた。
『HQよりアーマードキャバリア部隊へ。増援が到着した。位置はレーダーで確認』
増援の知らせに、戦闘中の衛士達の空気が緩む。やっと来てくれたか、と。
『よし、目標捕捉! フェザー大隊はこれより戦闘にはい―――――』
―――言葉が、不自然に途切れた。
レーダーは健在。なのに、連隊長の声は凍りついたように止まっていた。
『け、警報だと!? まさか………っ、各機きんきゅう――――』
―――回避、とすら命令できないまま。
次に司令部から聞こえたのは、レーザー特有の音と耳をつんざくような悲鳴だった。
光というものは、夜暗において最も映える。それに例外はなく。
幾重にも放たれた光線は、美しく。夜の闇を切り裂いた。爆裂の音が、連呼する。命が消える音も添えられて。爆音の華花の輝きが、夜空を幾度も引き裂いた。
『そ、んな。そんな――――馬鹿な!』
鈴夢にしては珍しい、焦った声が通信に響く。他のメンバーの動揺はそれ以上だった。
「全滅させたよな? ああ、光線級は小さいのも含めて全滅させたはずだよな!」
一部反転してきたミドル級とスモール級とミディアム級。それを乗り越えた後、ラージ級は殲滅した。
鈴夢はそこまで考えた後、戦慄した。
「一部を反転…………っ、まさか!?」
さきほど交戦したギガント級。その数は、この規模にしては少なかった。
それがどういったことなのか。ターラーはギガント級の脅威となる点と共に、思い出していた。
ギガント級がもつ武器として、その一つは巨体と耐久力があげられる。激突と同時に溶解性の液を撒き散らす衝角の一撃も侮れない。まともに受ければ耐え様もなく天に召されるだろう。管制ユニットに直撃でも受ければ、骨も残らない。
そして、最後のひとつ。それは、ギガント級は胎内に別種のデストロイヤーを格納できるということだ。
『今更気づいても遅いが…………黒崎鈴夢より司令部へ! 増援部隊の数は!』
『さきほどの攻撃で、2割が戦闘不能! 残る衛士も混乱してるようです!』
咄嗟に回避した機体も、突然の状況の変化に対応しきれていないようだ。そして混乱は伝搬する。士気の低下も、また。
『追撃部隊は前方に移動! デストロイヤーの進路を割り出します! その後に増援部隊と合流して、回り込めとの指示です!』
司令部からの指示だ。部隊は傾聴した。
『出ました、市街地の前に防衛線を築、き――――――――――――え?』
唖然としたような声が響く。それに察しの良い者だけではなく、全員が嫌な予感を覚えた。
『デストロイヤーの進行位置と予想を送ります』
震える声で伝えられること同時にデータリンクでデストロイヤーの情報が表示される。本来なら防衛線を築く場所には既にデストロイヤーの先頭集団が到達していた。
「市街地へ、到達」
「嘘……」
「最悪だ」
「そんな……そんな!」
由比ヶ浜から侵入してきたデストロイヤーは、市街地の前に置かれた三つの防衛戦を突破し、無防備な市民へその凶刃を突き刺していた。
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