ピンボケした世界

【ん〜、なんか違う】

「何がですか?」

【世界観、というか時系列? 世界がゴチャっとしている。時を巻き戻したり、平行世界を移動したり、色々してたせいだと思う。本来は先輩だった人物が後輩だったり、別の訓練校の人がいたり、変な感じ。わけわかんなくなっちゃってるんだよね。全体的にピンボケしてるっていうか】

「それで、私はどうすれば?」

【取り敢えず私の指示に従いつつ、臨機応変な対応をして】

「臨機応変な対応、ですか」

【うん、よろしく】


 鈴夢はため息を付いた。


「無責任な声だ」という



 夕方。

 赤い光が校舎を照らす。

 二年の校舎にやってきた鈴夢はシノアと出会った。


「先程ぶりね、何か用かしら?」

「シノア様、姉妹誓約の契りを結んでください」

「……それは」


 真昼は二人から視線を逸らし、腕を握る。

 姉妹誓約は特別な契りだ。上級生が下級生を守る契り。衛士の生存を望む真昼としては感情の問題を抜きにすれば結んでも問題ない筈の制度だ。


「それは無理よ」

「何故ですか?」

「姉妹誓約を結べるような相手じゃないから」


 シノアは死者に苛まれて続けていた。

 『お前だけ幸せになるのか?』『特別な関係を得るのか?』『おかしいだろ』『俺たちは』『私たちは』『お前のミスで死んだんだ』『生者に尽くせ』『個人の幸せなんて認めない』『デストロイヤーを殺せ』『衛士と防衛軍を使い潰せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』


 そんな声が常にシノアの頭には響いている。シノアはこれを正常だとは思えない。自分は狂っているのだ。そんな人物が姉妹誓約なんて結んで良いはずがない。そんな関係性を築くべきじゃない。


「無理。鈴夢さんが駄目ってわけじゃない。ただ私が駄目なんだ」

【うーん、これは無理そうだし一度出直そう】

「わかりました。また会いに来ます」


 翌日。そのまま午前は座学を受けた後、午後は実戦訓練となっていた。

 訓練場では戦術機がずらり、と並んでいる。

 訓練室の大きさの都合上、クラスを五つのグループに分けて訓練する事になっていた。また教導官だけではなく、実戦を今経験している上級生もその訓練に教える側として参加していた。


「よーし、揃ってるな? 遅刻欠員なく結構結構。訓練を担当する最上梅だぞ! よろしくな!」

「同じく訓練を担当する柊シノアよ」


 緑髪の先輩とシノアが立っていた。


「よし、まずは戦術機操作の習熟度を見るぞ! 実戦経験のあるものは前に出てきてくれ!」


 風間と赤と金のオッドアイを持つ愛花、そして大人しめな葉風が前へ出る。


「まずは五発! 標的に向かって、構え! 撃て!」


 全員が模擬標的に向かって弾丸を発射した。煙が晴れると、全ての標的が五個の穴が空いていた。全員が模擬標的に弾丸を全て命中させたことを示している。


「流石、実戦経験組、上手いもんだ」

「凄いわね」


 鈴夢はまだ戦術機に触れて短い。あんな風に当てる事はできないだろう。


「動かない的に当たるなんて訓練になりませんわ」

「感心してる場合じゃないぞ、次なら行くぞ」

「はい」


 戦術機を手に取るとずっしりとした重さが伝わってくる。銃形態へ変形させながら構える。


「構え! 撃て!」


 鈴夢はトリガーを引いた。しかし弾は出なかった。他の二人は弾丸が発射され、的に掠ったり、地面に着弾したりしている。弾が出ていないのは鈴夢だけだ。


「あら? どういうことかしら?」

「弾が出ないの?」

「は、はい」


 シノアが隣で問いかける。


「戦術機を固定したらコアに手をかざす。適正試験の時のように魔力を高めるのではなく、自分の魔力と戦術機を繋げるように意識して」

「自分の中にある魔力と戦術機を繋げる」


 言われた通りやると魔力クリスタルが輝いた。


「そして構えて」

「はい」

「トリガーを引く」

「はい」


 戦術機から弾丸が発射された。しかし的には当たらず周囲に弾痕を残した。


「初めてならこんなものだな!」

「まずは銃撃の反動に慣れる事から始めてみようね」

「わかりました。ありがとうございます」


 シノアは鈴夢から離れる。その時だった。

 練習生の一人が言う。


「ちょっとよろしくて? ここにいるのは実践経験者が半分以上です。動かない的を撃っても訓練にならないのではないでしょうか」


 本人は勿論のこと他のメンバーもベテランと言っても過言ではない。


「そこで一つ提案があります。模擬デストロイヤー戦で実力を磨くのはどうでしょうか?」


 模擬デストロイヤー戦。

 シュミレーターを使ったかなり実戦に近い訓練のことだ。当然痛みも衝撃も発生もするので手抜きはできない。

 真島真由が改良した精巧なシュミレーターがこの横浜には実装されている。


「どうする? シノア」

「そうだね、初心者は模擬デストロイヤー戦は厳しい気がするけど、いつ実践に投入されるかわからない以上経験は積ませておいた方が良いわね。やりましょう」


 第三演習シュミレーター室。


「はじめまして、鎖部愛花です。よろしくお願いたします」

「よろしく」


 ズキン、と鈴夢に強い頭痛。そして身に覚えのない記憶が脳裏を過る。


「胡蝶よ。足を引っ張らないでね」


 ズキン、と強い頭痛。そして身に覚えのない記憶が脳裏を掠める。


「よ、よろしく」


 シュミーター室の設定が変更され、戦場へ変わる。


「天気は晴れ、気流は強い、視界の晴れた平原」

「風が強いなー」

「攻撃の軌道が読みづらいから、そこが勝負所だね」

「今回は実力差のあるメンバーが入り混じっての対決だ。お互いフォローを忘れずにナ!」

「それでは、模擬デストロイヤー戦、始め!」


 仮想デストロイヤーが出現して、2チームに襲いかかった。

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