ゼロからの始まり


 一人の女の子がいる。

 ピンク色の髪を持つ血濡れの女の子だ。

 周囲は白い空間で、他に何も無い。


「貴方は、何者?」

【一ノ瀬真昼の集合体。簡単に言えば、幽霊みたいなもの】

「なんで、ここに? ここはどこ?」

【ここは貴方の精神の部屋。外から干渉して話しかけている。これから貴方には『時間が巻き戻った世界』が待ち受ける。なにか理由はわからないけど時間が巻き戻った。その『世界の運命』は現時点で決まっているだけで幾らでも変えられる】

「じゃあ問題ない……と思うけど」

【運命は決まっている。しかし貴方の行動で変えられる次第で変えられる。それがどんな結果になるか、わからないけど。私は貴方のサポートをする】

「サポートする理由は?」

【貴方が死ねば、私も死ぬ。それは困る。だから貴方が生き残れるように力も貸すし、アドバイスもする】

「わかった。宜しくお願いします一ノ瀬真昼さん」

【よろしく、黒崎鈴夢】



 気がついたら電車の中だった。

 電車の中には『警報が鳴ったら高台へ』など書かれた広告が張られている。

 電車の窓の外から海を見ると、巨大な柱があった。魔力が渦巻いている巨大な塔だ。


【デストロイヤーネスト。あれがデストロイヤーを生み出し、修理している。あれを攻略しない限り人類に勝利はない】

「……」 


 ズキン、ズキン、と頭痛がする。

 何か大切なことを忘れているような感覚があった。


「私は……?」

【貴方の名前は黒崎鈴夢。戦術機ストライクイーグルを持っていて、これから横浜衛士訓練校へ入学する】

「入学……? もう既にそれは終わっているはず……いや、気の所為?」

【……昔の記憶は忘れて、今から起こることだけが現実。私の助言だけが真実】

「はい、わかりました」

【貴方はG.E.H.E.N.Aと呼ばれる組織に体を改造されていて、デストロイヤーを呼び寄せる体質の代わりに強化されている。貴方は強い。私も力を貸す。大丈夫、自信を持っていて】

「はい」


 電車を降りて、【声】の言う通りに道を進んでいく。その間にも【声】は色々と説明してくれる。


【デストロイヤーは、人類の敵。様々なタイプがいて、大きさごとに区分けがされている。特型と呼ばれる個体は特殊な能力を持っているから極めて危険】

「他の人は……?」

【もう既に横浜衛士訓練校の寮に入っている。私達は出遅れ組ということ】


 学園が見えてくる。そこには数十の防壁が折り重なり、巨大な敷地が荘厳な雰囲気を発しながらそこにある。


【あれは全てはデストロイヤーの攻撃を耐えるための防御壁。無数の防御壁には魔力が宿っていて結界、バリアのような役割を果たしている】


 一歩、前を進むと、タッタッタッと走ってくる女子生徒がいる。ちょうど彼女と対面する形になる。


「ごきげんよう」

「ごきげんよう。ふぅ、何とか辿り着けました」

「そっちも出遅れ組?」


 鈴夢が笑いかけると、彼女は恥ずかしそうに頭をかく。


「はは、実はその通りで。本来ならば予定通りに辿り着ける筈だったのですが手違いがあったのか遅れてしまいました。私は金色一葉。貴方は?」

「私は黒崎鈴夢。よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 金色一葉と談笑しながら進んでいると、人集りに出会った。

 その中心地には、黒髪の冷静そうな少女とピンク色の挑発的な少女が立っている。


「中等部以来お久しぶりです。シノア様」

「何かご用ですか? 斎藤さん」

「阿頼耶と呼んでいただけませんか? そして入学のお祝いに戦術機を交えていただきたいんです」


 阿頼耶の戦術機がケースから抜刀され、戦闘出力に上昇する。阿頼耶の戦術機ストライクイーグルが獰猛な獣のようなヴヴヴヴと唸り声を上げる。


【あっちの桃色髪は斎藤阿頼耶。中等部時代からその名を馳せる実力派。もう一方はどのレギオンにも属さない孤高の衛士、柊シノア】


 柊シノアは面倒臭そうに言う。


「おどきなさい。時間の無駄よ」

「あら残念。なら、その気になってもらいます」


 戦術機のボルテージが上昇していく。既に撃発する寸前といった様子だ。


「手加減はしないわよ」


 コキッ、と柊シノアは首を鳴らしていつの間にか取り出していた戦術機・不知火が刃を見せていた。


「あら怖~い。ゾクゾクしちゃう」


 不知火に火が灯り、魔力が循環する。パリパリ、と雷光を散らしていた。

 ストライクイーグルは2.5世代と呼ばれる、第2世代の傑作機イーグルを火力方面に改修したもので、反対に不知火はイーグルを機動力方面に改修していた。

 同じ2.5世代機ではあるが、その性質や性能は全く違う。


【止めよう。あれは戦ってはいけない】

(何故? 別に戦っても……)

【その後に出てくるデストロイヤーとの戦力が足りなくなる】

(わかった。どうやって止めよう……)

【間に挟まって、掴んで止めて】

(えっ、痛くない?)

【我慢して】


 鈴夢はため息について、柊シノアと斎藤阿頼耶が戦う瞬間に間にたった。そして左手と右手を使ってストライクイーグルと不知火の刃を止めた。

 両手が魔力の籠もった斬撃によって血飛沫が舞った。


「校内での戦いはいけませんよ」

「貴方……っ!」

「素手で掴むなんて!」


 勢いが止まった戦術機を手放すと、ずちゃ、と血を引いた。しかしすぐに両手が再生される。


「超速再生……!」


 鐘がなる。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン、と。

 敵襲を告げる鐘の音だ。


「皆さん、ここで何をなさっていますの?」

「どうかされたんですか?」

「研究用のデストロイヤーが逃げ出しました。二人一組で殲滅してください」


 すると、即座にベテランの衛士達はバディを組んで研究用のデストロイヤーを殲滅するために飛び出していく。


「えっと」

【一葉ちゃんと一緒に組めば良いんじゃない?】

「そうか、一葉ちゃん。一緒に組まない?」

「はい! 大丈夫ですよ。一緒に行きましょう」


 二人は他のチームと同じように校内を走り出した。



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