ギガント級ファンバオ撃破作戦②
「少し話を聞いてもらえますか?」
防衛軍の本部に戻ると、艦長に向けて、愛花が深刻そうな顔で言った。
「この新佐世保へのデストロイヤー連続襲撃事件は、わたくしの故郷が襲われた時と同じ状況なのです。何もかもが一致しています。そしてその先に待つのは、わたくしの故郷、台北市の避難区域を丸ごと焼き払った最悪のデストロイヤーの到来です」
「台北市?」
鈴夢が控えめに補足する。
「えっと、愛花さんの故郷はデストロイヤーに襲われて陥落区域に認定されて、今もその状況は続いています」
「はい、わたくしは物心つかない頃に両親に連れられて日本へ避難してきました。陥落しているとは言え台北市ではまだ戦っている人がいます。それが当時では少しマシな状況でした。人の組織する対抗組織はデストロイヤーに対して優位に立つことができていたんです」
愛花は拳を握る。
「わたくしの兄さん達は、そういった組織を導いて台北市奪還を目指す日々を送っていました」
「兄さん、達?」
「はい。私には兄が3人います。その末の兄とは中が良くて手紙のやり取りをしていました。しかし、突然、あるデストロイヤーについてかかれ始めたのです」
・トビウオもどきのような小型のデストロイヤーの群れ。
・攻撃性の無いデストロイヤー。
・最後に龍のようなデストロイヤー。
「対策をしなければ、この美しい街並みも廃墟になってしまうでしょう。その前にどうにか、対策を」
「わかった。防衛軍の準備を進めよう。君たちには迎撃のために、もうしばらくここにいてもらたいたい。どうかね? 鈴夢隊長」
「はい、構いません。僕も、みすみす新佐世保を失うような真似は避けたいですから」
「では、衛士が休める部屋を用意させた。少しでも英気を養って欲しい」
「ご配慮感謝します」
そう行ってその場は解散となった。
空母の甲板で、鎖部愛花は空を見上げていた。
(私は、鎖部愛花。デストロイヤーによって蹂躙された台北を故郷に持ち、兄達の復讐と、故郷奪還に向けて努力する衛士だ。いや、だった。
故郷を奪還するのは、無理だろう、と諦めてしまっている。兄の仇であるデストロイヤーも、誰も知らないうちにその辺の奴らと同じように処理されてしまっているだろう。
そうすると、私を支えていた精神の柱はぽっきりと折れてしまって、コーラルストリームと呼ばれる物質を服用しなければ、今にも死んでしまいそうだった。
コーラルストリーム中毒。
本来ならエネルギーとして利用される物質を向精神薬として利用・名前をエアリスという。
彼女は私が大量のコーラルストリームを服用した時の副作用で交信できるようになり、意思の疎通ができる。
戦闘でも助力をしてくれる頼れるパートナーだが、誰にも聞こえないし、誰にも信じてもらうことは出来ないだろう。
私は……客観的に見ても優れた容姿とスタイルをしている。アイドル衛士……戦意向上の一環として発売されている衛士の特集本でもモデルを努めたこともある。
強く、美しく、祖国奪還に生命を賭す衛士。
それが世間の郭神琳の評価だ。
私にもはや戦意はなく、ただ作業的に生きているだけの私は、衛士として無価値だと言われても仕方がない)
「だけど、殺す機会がやってきた。私の故郷を焼いたデストロイヤー。必ず始末する」
《愛花……やはり新佐世保の防衛軍の動きは鈍いです。様子するようです》
「不確かな情報では動けない……当然といえば当然ですが」
(エアリスは脳内のみに存在すると思っていたが、意外とそうでもない。電子ネットワークや、エネルギーを都合してパワーを与えてくれたりする)
「愛花さん、ずっと甲板にいるけど、大丈夫? 一応、これ、お茶を持っていたんだけど」
鈴夢が背後から声をかける。その手にはペットボトルが握られている。
「鈴夢さん。すみません、気を使わせてしまって」
「ううん、それは良いんだけど」
「みなさんと一緒にいたくなくて。どうしても兄たちの事を思い出してしまって。それにデストロイヤーも見逃したくなくて」
「うん。だと思う。凄い気を張っているのは見ていてわかるよ」
「そう、ですか。あまり動揺を表に出すのは良くないことだとわかってはいるんですが」
「うーん、いいじゃないかな? 不安な時は不安だって、怖い時は怖いって、そうやって言えるほうが大切だよ。一人で抱え込むのは辛いと思うから」
「鈴夢さん……ありがとう、ございます」
その時、大きな揺れがあった。
「きゃっ!?」
「鈴夢さん!?」
揺れで甲板から落ちそうになる鈴夢を、寸前のところで愛花が捕まえる。
「ありがとう!」
「それよりも、早く! 攻撃かもしれません!」
前兆の内でも感じられるのは極大の邪性。間違いなく言えるのは、これより放たれるのは邪神に類するものだということ。
その中でも恐らくは最高格。人々の善性を侵害し、悉く蹂躙する魔性の災禍が現出する。
――――瞬間、あらゆる生命の尊厳は否定された。
立ち上がる気力が萎えていく。
生存への意義を見失う。
何かされたわけではなく、ただ思考がひたすらに後ろへと向いていく。
あれほど確かだった前進の意志が揺らぎ、代わり浮かんでくるのは自己の否定。
命は無価値。希望は皆無。おまえの未来には何もない。
だから死ぬべきだ。無価値なのだから死ぬべきだ。希望がないなら死ぬべきだ。未来がないなら死ぬべきだ。
そうだ死こそ救いであり安らぎだ足掻いても苦しいだけならば疾く早く速やかに死を選べそれ以外ないだって命なんてくだらないから死んで無意味だから死んで無価値だから死んでとにかく死んでただ死んで死んで死んで死んで死んで死んで死死死死死死死死死死――――。
「愛花さん!!」
「す、ずめさ、ん?」
「凄く怖いのがやってきいるのはわかる。けど、負けない! 衛士は希望を失ったりしない! 立ち上がって! 仇を討つんでしょう! こんな訳の分からない攻撃に負けちゃ駄目だよ!!」
猛烈に沸き上がる死への欲求。
意味などない、ただ生命があるからそれを否定するという悪意の具現。
そのおぞましさは、僅かながらもそれに触れた少女には恐怖と共に刻まれた。
だが、いつまでも畏れおののいてはいられない。
なぜならそんな、少々死にたくなる程度のものなど、本領からは程遠い。
深淵より顕れる魔性の凶、その末端に触れただけ。これしきで怯んでは到底先に進めない。
まず見えたのは、天空より落ちる巨大なアギト。
鱗に被われた漆黒の巨躯。特徴的な造形は力の象徴として人々の意識に刻まれている。
最強のドラゴン。古代の世界に置き去られた上位種族が、ここに再現されていた。
畏怖の念が身体を縛る。竜種への意識はそれほど強い。
だがそんな束縛に敗れるようなら、そもそもこの場所に立っていない。
気迫が畏怖を凌駕する。恐怖を超えて正面から対峙する。敗けはしないと、自負を胸に立っていた。
……それに理解してしまうのだ、これは前哨だと。
「う、ううううう」
竜の背後に、無数に沸き出る魔性が見える。
1体の例外なく、魔に属した眷属たち。邪神の下僕が群を為し、主の到来を迎えるべく地上に惨劇の宴を開くのだ。
「殺してやる! 殺してやる!! 私から奪っていったことを後悔させてやる!!」
奮い立つ。
真昼の言葉に、萎えていた闘志がエネルギーとなる。
火をつけろ、燃え残った全てに。
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