愛する人の絶望④



「ツイン魔力エンジンシステムが、自分だけのものと思っては困るな」


 瓦礫の中からようやく浮き上がったフルセイバー一葉に向かってリボンズ・藍・バンシィは言った。


「そうとも、この戦術機ネクストタイプこそ…………」


 左手の大型魔力サーベルを振り上げ、フルセイバー一葉に向けて、体を走らせる。


「人類を導く存在だッ!!」


 思い切り振り下ろした光剣は、しかしフルセイバー戦術機に受けとめられた。だが、急迫したとき戦術機に乗せたスピードと勢いは、そう簡単に殺しきれるものではない。 なおも魔力ビームサーベルを押し込むと、フルセイバー一葉は不利を察してか、剣をいなして体退かせた。おそらく動揺を禁じえないのだろう、フルセイバー一葉の動きが精彩さを欠いているようにリボンズ・藍・バンシィの目に映る。

 それを見逃すほどリボンズ・藍・バンシィは甘くなかった。敵機の右脚が溶解し、爆散する。


「遅いっ!」


すばやくキャノンモードに再変形し、四連魔力キャノンを乱射する。


 数発目まではかわされたが、立て続けに送らせた魔力ビームの一発がフルセイバー一葉の右脚を捕らえた。

 防御結界が悲鳴を上げて、魔力を噴きあげているが、その程度の戦果でリボンズ・藍・バンシィが満足するはずはなかった。

 フルセイバー一葉は魔力ビームを連射すると、リボンズ・藍・バンシィから距離を取るように逃げていく。

 無論、リボンズ・藍・バンシィはそれを見逃しなどしない。

 都市部を滑るように飛翔していくフルセイバー一葉を追って、リボンズ・藍・バンシィは四連魔力キャノンを浴びせかけた。

 フルセイバー一葉は懸命に背後からアスファルトに突き刺さる光の槍をかわし続けていたが、右脚にダメージを受けてバランスが損なわれたのだろう、体を左右に動かすたび、ふらふらと傾いている。 すると、突然フルセイバー一葉が急上昇し、弧を描いてへと急速に接近してきた。

 その右腕には、魔力が漲った戦術機か構えられている。

 当然リボンズ・藍・バンシィは迎え撃った。

 交錯する。

 一瞬の接触だった。

 フルセイバーは近接戦の戦術機で、無論ショートレンジでの戦いには自信があったのであろうが、しかし軍配はリボンズ・藍・バンシィに上がった。


 キャノンのマギビームサーベルが、フルセイバーの右部にあるある大きな翼部の先端を斬り落としたのだ。離れていくフルセイバー一葉を追って砲撃を再開する。


 その一撃がフルセイバー一葉をかすめたようだが、するまでには至らない。とそれは見慣れぬマギビームの発射を見ると、そこには戦術機ネクストをまとった結城霧香と霧ヶ谷明日那がいた。



「援護する」

「負けてもらっちゃ困るのよ……!」


 二人の声がリボンズ・藍・バンシィに届き、彼女は「余計なことを」と小さく笑った。 だが、ここまで従順に働いてきた彼ら二人を無下にすることもない。

 それに、結城霧香は戦いたがっている。その証拠に、彼女は、両手で戦術機をひらめかせてフルセイバー一葉に急迫し ていた。

 誰がフルセイバー一葉の首を取ろうとも構わない。

 これは援護されるというより、援護する方かな、と思いつつ、リボンズ・藍・バンシィは戦場の流れに行動を任せることにする。ようするに、敵を倒せればいいのだ。

 そこにある勝利を自らの手で掴んだ、などという種類の高揚などに、リボンズ・藍・バンシィはこだわりを抱かなかった。

 効率的に確実に目的を達せられればそれでよい。三対一で敵を挟撃するこの状況は、彼の思考と合致するものであった。


 霧ヶ谷明日那とリボンズ・藍・バンシィの砲撃によって、著しく移動範囲を狭められたフルセイバー一葉に結城霧香が迫る。


「終わり。死んで」


 そう呟く結城霧香がフルセイバー一葉襲いかかる。 援護の砲火を加えながら見ていたリボンズ・藍・バンシィは、霧ヶ谷明日那と結城霧香の連携の巧さに、わず かならず感心の念を抱いた。


 結城霧香両手の光剣を振り回して挑みかかり、 フルセイバー一葉がそれから距離を取っ て離れようとする。と、すかさず霧ヶ谷明日那が遠距離から魔力メガランチャーを放つ。 敵に息をつく暇を与えないのである。

 むろんキャノンからの砲撃もフルセイバー一葉の動きを封じ込めている。 そして、霧香と明日那の連携が幾度かを数えたとき大きなチャンスが訪れた。


 フルセイバー一葉が結城霧香の蹴りを受けて大きくバランスを崩し、そこに霧ヶ谷明日那の魔力ビーム砲が襲いかかったのだ。もはや逃げられるタイミングではない。


 ついに獲ったか、と思われたが、霧ヶ谷明日那の魔力ビーム砲はフルセイバー一葉に到達しなかった。



空間が切り裂かれて白い刃が割り込みフルセイバー一葉を移動させたのだ。それが何であるか、その形状と強度から、リボンズ・藍・バンシィは察した。

 その隙にフルセイバー一葉は射線から逃れてる。 リボンズ・藍・バンシィは、電子警告音の報せる宙域に目を向けていた。


「あれは……白銀と黒鐵? 動力は……宮川高城か!」


 白と黒が入り混じった機械仕掛けの神がいるのが目に入る。重力を操る黒鐵と、空間を操る白銀が、お互いの壊れた部分を補い合って融合し、《鋼》と同じ能力を得て突進していく

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