愛する人の絶望②

【宮川高城のレポート】

・この世界には『運命』があった。物語のストーリーや、アニメや舞台の脚本でも良いが、とにかく決められたレールがあった。


・しかしそれに不純物が混じった。それは『基準世界』であるこの世界の運命を強引に歪めて、破綻させようとしている。


・一言でいえば『ラプラスの悪魔の介入』だ。これによってこの世界の歯車は狂い、世界の秩序は乱れて、基準世界ではなく平行世界、しかも世界の破滅する世界線へ向かっている。


・G.E.H.E.N.Aの地下にある零点リアクターエンジンや、ラプラス細胞を多用した兵器と衛士、過去の創作物を模倣したアルトラ級デストロイヤー。


・この世界に希望はない。零点リアクターエンジンは世界に破滅のウィルスを撒き散らし、デストロイヤーとは別の敵を作り出す。


・ラプラス細胞を使用したものは『ラプラスの悪魔の狂気』に蝕まれて精神崩壊する。


・アルトラ級デストロイヤーは強すぎる。


・だから私はこの世界を捨てる事にした。全てゼロへ戻して、再構築する。再現なく加速させることで、ある地点(特異点)でこれまでの世界に上書きするように全宇宙を『一巡』させる。ある意味新世界の創造だ。イメージは時計の針が一周すると同じ位置に戻ってきてまた時を刻み新しい一周をする感じね。

一度世界を終焉させてもう一度新たな世界をスタート。いわば世界を『一巡』させる。しかし『一巡を完遂させてはならない』なぜならば今の時点まで時間を進めると結局、破滅から逃れられないからだ。


・だから途中まで。具体的には今年の春まで世界を加速させて、全ての人も星も新生させて不純物が混じる前からやり直す。


・これは宇宙と人類をやり直す計画だ。途轍も無いエネルギーを必要する。しかしユニコーンシリーズの戦術機があれば可能だ。あれば無限の可能性を秘めている。


・フェネクスはもう動力源にした。あとはユニコーンとリボンズ・藍と同化したバンシィを動力源に繋げれば、空間を制御する機械仕掛けの白銀と重力を制御する機械仕掛けの黒鐵、更に完成された機械仕掛けの神である《鋼》の同時使用によってによって、無限のエネルギーが世界を破壊して創生するだろう。運命さえも切り裂き、砕き、集めて、潰して目的は完遂される。


・エンジェルラダー作戦と名付けた。


・しかし私はこの計画を、どこから考えて、どこから始めたのかを覚えていない。私の行動は既に制御下を離れている。


・だから、私を『装置』として利用する存在がいて、私が『世界を滅ぼす側』だと貴方が判断するなら、私を殺して欲しい。


・今流星。私の愛しい人。会いたい。私は正気なの? それとも世界を救うつもりで破滅へ時間を進める道化なの?


・流星。会いたい。助けて。誰か、この地獄から救い出して。


・あれ? このレポートはなんだっけ。大切な名前。だった気がする。大好きな人。でも顔が思い出せない。


・、さん、貴方に届いて。私は貴方が好き。


・世界で一番、愛して……



「本当に、馬鹿ね。宮川高城」

「やぁ、フェネクス。いや、宮川高城といった方が良いかな?」

「バンシィ……」


 イェーガー女学院の屋上に立つ宮川高城フェネクスもとにリボンズ・藍バンシィが降り立った。

 東京……いや日本は地獄と化していた。G.E.H.E.N.A上層部が全て首を物理的に飛ばされ、完全に掌握されたG.E.H.E.N.Aは研究用デストロイヤーを含めた改造デストロイヤーや兵器が無差別に開放されて暴れ回っている。


 CAGEもそれを率いていた筈の人物達が姿を暗まして混乱状態にある。乱れきった指揮系統と勢力図はまさにカオスだ。


 更に東京に向けて2体のアストラ級デストロイヤーと、デストロイヤーの群れが向かっている。もう日本は完全に終わりだと判断するしかないだろう。


「多くの生命が消えていく……」

「仕方ないのさ、人類はデストロイヤーに勝てない。なら勝てる人類を作るしか無い。そのためには燃料と時間が必要だ」

「そのために必要な工程……というのはわかるけどね」

「感傷かい? らしいといえばらしいけどね。君は少し入れ込み過ぎる。人類を個人で見るからそうなるのさ」

「貴方は心が傷まないの? この光景に」

「僕たちの使命は人類の存続と進化の誘導だ。そもそも達成不可能な今の人類を使うより、新世界の進化が約束された人類を生み出す方が効率だろう? どうせ似た流れは生まれる。原初の開闢から始まるデストロイヤーとの戦争と、衛士の出現と横浜衛士訓練校の設立。戦術機とデストロイヤー細胞といったものも生まれる。やり直すだけだ」

「そう……そうね。貴方は人類を人類種として見ているのだから、人類滅亡が約束されたこの世界こそ敵よね」

「ああ。しかしラプラスの悪魔には困ったものだ。アレのせいで我々は生み出されたし、好きに行動できるが、それに故に未来が決まらない。確率は99%で停止する。どれだけ演算を重ねてねもね」

「確率操作……しかも不確定にする存在。しかも能力ではなく概念だから、この世からラプラス細胞が存在したのを観測された瞬間、ラプラスの悪魔が存在したという事実が証明され未来が確定しない。ほんと勘弁して欲しい……って感じ?」

「いや……それを言ったら僕たちの存在自体がもうアレだからね。それ言ったらおしまい案件だよ。でもラプラスの悪魔は嫌なものだね!! 未来は観測されるまで不確定って、ブラックボックスで遙か未来から人類を滅ぼす『この世に存在してはいけない特異点』と同じくらい嫌い」

「ああ、《有機体が永きをかけて辿り着いた究極の柔軟性をもつ【人型】を、ただ機械的な性能を追い求めるためだけに捨て去った、人間の知恵の傲慢の存在》と同じレベルですか。そういえば私達に対する世界カウンターの迎撃用はしてるんですか?」

「東京に向かわせている2体のアルトラ級デストロイヤーをカスタマイズしてある」

「2体? ユニコーン、バンシィ、フェネクスで3体必要じゃない?」

「最後の一つに関しては機械仕掛けの神の製造にリソースを割いて足りなかったのさ。最悪、零点リアクターを起動させて破滅ウィルスと爆発的なエネルギー撒き散らして潰すさ。白銀と黒鐵はサブプランで、《機械仕掛けの神・鋼》と我々ユニコーンシリーズの一人がいればエンジェルラダー計画は完遂される」


 と、そこに大型トラックほどの戦術機を背負った二人の少女が現れた。


「ラプラス様のいる世界へいける準備をありがとう。私への最高のプレゼントだわ」

「無駄話はせず奇襲すれば良いのに。せっかく他のみんながアルトラ級の足止めしてくれているのに」


 それに宮川高城フェネクスは目を細める


「……あれは」

「誰だい?」


 桃色髪の少女はにやり、と笑って言う。


「斎藤阿頼耶」

「僕はリボンズ・藍とバンシィだよ」

「私は、宮川高城よ」

「じゃあ、喰らうわ。無機物風情が、世界を滅ぶすとは良い度胸と褒めて上げる。そしてそれは私がラプラス様の世界へ行くために使わせてもらうわ! 戦術機融合型アーマードコア・ネクスト《ネオ・ノア》、起動」

「《ネオ・ノア》、我々という特異点に対する破壊殲滅撃滅特化の世界カウンターか。なるほど、分が悪い」

「でも、やるんでしょう?」

「勿論」

「白銀、抜刀」

「来い、黒鐵」


 白と黒の巨人と、全身を戦術機で包んだ少女が激突した。


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