意思を持つ戦術機⑦
足音が四人の方へ向かっていく。
薄い緑の長髪、緑の瞳。そして神庭の制服に桃色のカーディガンを着た衛士だ。
気弱さそうな印象を与える女の子だ。彼女はレギオン:シュテルンリッターの四人に向かって、声を掛ける。
「流星様」
「はい……? ってみぞれちゃん!? どうしてここに?」
みぞれは悲しそうな笑みを浮かべて頭を下げる。
「高城様からの伝言を伝えに」
と、いうことらしい。つまり彼女は高嶺からの使者なのだ。みぞれが言っていることが本当のことならば。
「みぞれちゃんはどこに所属しているの?」
神凪? G.E.H.E.N.A? 御台場? CAGE?
「衛士が見れるところに」
「うん?」
「私は正直、戦いの中で絆を育み、愛を確かめ、戦場で別れて、過去に思いを馳せる衛士の姿を見ていたい。なんの不純物なく、デストロイヤーとの戦いで何かの思惑に作用されることなく、デストロイヤーとの戦いで命を削り、生きる衛士達をみたい」
「みぞれちゃんは何がしたいの?」
「……この人と衛士同士が戦う世界の破壊を。そして今は高城様の伝言を流星様に伝えに来ました。高城様は今、CAGEのリーダーとして活躍されています。しかし高城様はCAGEすら裏切るつもりです」
「高城ちゃんは何を抱えているの? 高城ちゃんは何をするつもりなの?」
「わかりません。ですが、高城様はもう二度と流星との関係を邪魔されない力を欲している、というだけです。でも、それは流星様も一緒だと言っていました。流星も、私を欲してくれる。道は違うけど、最後に辿り着く場所は一緒だと。まるで夢見る乙女のような顔をつきで話していました」
そうみぞれは言った。
たどり着く場所は一緒。
「CAGEは裏切る。世界は滅びる。辿り着く場所は同じ、ね」
と、呟いて。
「なに、その壮大な恋物語は。本気? 高城ちゃん」
流星は頭に手をあてて、困ったような笑みを浮かべた。
「それでは、これは私が預かった招待状です」
「招待状?」
「横浜衛士訓練校のトップクラスレギオンが行っている戦術サロン。その招待状と推薦状でのメンバーの方から直接レターが頂けるなんて、本当に幸せです」
「横浜衛士訓練校の戦術サロンって高い知識がないといけなくて、それを認められた人だけが入れるやつだよね? なんでみぞれさんが持ってるの? しかも運び人も任されて」
「技術的特異点・シンギュラリティワンである戦術機ユニコーンの話を聞くためです。私は……その、衛士が最高に尊い瞬間を見るために情報収集の伝手は多くあるんです。だから、その過程で横浜衛士訓練校の衛士を探っていたところをスパイ容疑で捕まって、尋問されて、フェネクスに興味を持ったアイリスディーナ様が第一号機であるユニコーンの話を聞くために招待状を渡してほしい頼まれました。本当はフェネクスを持つ高城様宛にもあるんですが……これは流石に渡せそうにありませんしね」
「みぞれちゃん、貴方一体……」
「私は衛士を愛し、見守り、尊い成分を補充する空気です。だから、今の状況はなんとしても破壊しなくてはいけない。衛士同士、人間同士で殺し合うなんて……そんなの尊くない。可哀想な目に遭って起きる衛士の関係性は解釈違いです。解釈違いは抹殺する。全てを破壊し、新しい秩序を」
みぞれはドス黒いオーラを纏いながら低く呟く。
「そういうわけで、今回の用事は以上です。レギオン:シュテルンリッターのご活躍に期待しています。皆さんが、真っ事に尊い存在になれることを祈ります」
「ちょっ、みぞれちゃ」
みぞれはそういうと天井に張り付き、そのまま回転ドアのように天井の一部が回転して姿を消した。そのそれに思わず蒼風は突っ込んだ。
「ニンジャですか!? 貴方!? っていうかなんてそんなギミックが天井にあるの!?」
「本当になんで……?」
「皆様、この戦術サロンの招待レター開けても良いですか?」
一葉が問いかけると皆が頷く。
「では読み上げます」
◆
戦術サロン内容
・スキルの量産・体系化実験。
・戦術機の強化。
・衛士ならびに人体の後天的な強化。
・クローン技術。
・アーマードコアの大型化:機巧魔神計画。
・アーマードコアの小型化:ガーディンスーツ・ネクスト。
・対デストロイヤー細胞用のバイオ兵器。
これの中で、どれを我々が取るべき道なのか。人道的、道徳的観点からはもちろん、実利や合理性などと合わせて、様々な意見を戦わせたい。
◆
宮川高城は目を覚ました。
今まで自分が何をしていたか記憶がない。恐らく精神汚染によって記憶が破損したか、それともフェネクスに乗っ取られていたのだろう。
「ここは……私は何しようとしていたんだっけ」
『CAGEに参加した衛士達に会うためにCAGE本部に向かっている途中よ、高城ちゃん。覚えてない?』
「覚えていないわ……CAGE? ってなんだったかしら」
『国際衛士人権団体ね。衛士を兵器として扱う世論や訓練校に対して、非道な行いや、日常的な生活を送れるように活動する結社』
「そう……それとなんで私が?」
『世界の破滅後も、今流星と過ごす為に力を得る為にCAGEを利用して、G.E.H.E.N.Aと争わせて、その間にG.E.H.E.N.Aの中でも禁忌と呼ばれる技術を盗み出し、元のデータと試作機がれば破壊する』
「そうだったわ。だから私はCAGEを煽って、反乱を起こしてG.E.H.E.N.Aにぶつける……釘付けにして……私は、世界を救い、力を手に入れる」
『今は疑似太陽炉を搭載した戦術機とガーディガンスーツを直結したネクストでデストロイヤーに対抗している、けどそれは一時的なもの。零点真空エネルギーリアクターが稼働すれば世界は一変する』
「ええ、そう。あんな未来はごめんよ」
高城は顔に手を当てて思い出す。
零点真空エネルギーリアクターから溢れ出す致死ウィルスによって、機械は暴走し、人は腐敗し、デストロイヤーは強化される。
世界は赤い液体に汚染され、その液体からは見たものが一番愛しい人からの呼び声が聞こえて自ら赤い液体に沈んでいく。
赤い液体はデストロイヤーをも飲み込み、人類とデストロイヤーを含めた全ての動植物を飲み込み、そして新たな地球の生命体として誕生する。
それは人類の全滅を意味する。
人類の終わり。
衛士の終わり。
デストロイヤーの終わり。
「世界のためにも、衛士のためにも、流星のためにも」
『ええ、そうね。貴方に力を貸すわ』
「ありがとう、フェネクス」
『超高速で接近する反応を確認。戦闘準備を推奨。データ照合開始……発見。相手は』
桃色の髪が舞った。
桃色の長髪と赤い瞳と凶悪な戦術機。そして桃色の短髪と緑色の瞳。
鋭い軌道を描いて戦術機が高城に襲いかかる。
「ッ!?」
「外した!?」
「流石ですわね……不死鳥!」
『敵対者は斎藤阿頼耶、エウレカ・プッチ』
「誰? なぜ私を襲うの!?」
『両者共に標準的な強化衛士を越える魔力数値を検出。防御結界も大幅な出力を示しています。攻撃性能も特別製戦術機と思われ、高い身体能力と高火力な斬撃と銃撃が予測されます。注意してください。速やかな撃破が推奨します』
「簡単に言う!」
高城は背中から魔力を放出させても瞬時加速を行う。
「早い! ですけど、この程度ならできます!」
「っつ!?」
エウレカは高城の動きを一度見ただけで、そのプロセスを身体で理解し、更にその上を行く加速方法をその場で編み出し、実践してみせた。
「何故、貴方達は私を襲うの!?」
二人の瞬時加速と、二段瞬時加速を行った突進力が合わさり、お互いの得物の斬撃はより威力を増す。
そして――――
「答えないなら、痛い目を見てもらうわ!!」
エウレカの近接ブレードを角度を変えて受け流し、その斬撃は装甲を貫通し、防御結界すらも切り裂き
「――――え?」
エウレカの右腕が吹き飛んでいくのを中へ落ちていくのを捉えた。
(嘘、どうして……?)
真っ白な頭のまま浮かんだ疑問に答えてくれる者はいなく、そしてその暇さえもなかった。
「終わり!!」
切断面に戦術機の銃口が突きつけられる。
「――――ッ!?」
それに気付いたエウレカは顔を青ざめる。
戦術機の銃口が火を吹く。
身体の切断面に向けて連射される弾丸は、次々とエウレカの体内へと押し込まれていく。
銃口を斜め上から切断面に刺し込み、心臓に直撃しない角度で、身体全体に流し込むようにして銃弾を連射していく。
身体の中に鉛の異物を次々と押し込まれ、エウレカは苦しみに悲鳴を上げる。
「ぐがっあ!?」
強化衛士をでない状態でなかったら、これほど苦しむ暇もなく逝くことができただろう。
だが、強化衛士には超回復というものが標準搭載されており、その効力によって衛士の身体を肉体を常に安定した状態に保つのだが、今回ばかりはそれがエウレカを余計に苦しめる要因となっていた。
体内へと次々と押し込まれる弾丸、その度にそれが機能し、出血時の止血などといった応急処置が機能していた。
衛士が死ぬまで戦わせる機能は、琴陽の苦しみを余計に助長していたのだ。
「背後ががら空き、ですわよ!」
阿頼耶の戦術機による斬撃を、左腕で受け止める。魔力を集中させた防御結界によって、激しい火花が散るが、抑え込まれる。
「流石、不死鳥」
「その言い方、嫌いね」
「戦術機に飲まれた弱い女」
「貴方は斎藤阿頼耶。異世界からきたラプラスの力を簒奪していなければ弱い癖に大層な口を叩く」
「否定はしませんわ。だから!」
ガキン!! と音を立てて高城が吹き飛ばされる。
「ラプラス様にもう一度会いに行く!!」
阿頼耶の戦術機がエウレカを貫いていた戦術機を弾き飛ばす。エウレカは地面に転がり、うめき声を上げながら、再生を始める。
阿頼耶はエウレカを蹴り飛ばし、遠くへ追いやる。そして自分も一度、大きく後退する。
「大丈夫? えうえう?」
「ぐっ、エウレカです。その呼び方、嫌いです」
「可愛いじゃない。えうえう、えうえう」
「いつか殺す!!」
「なら早く再生して戦闘に参加して」
「当然、です」
耳をつんざくような独特の音と共に、エネルギーライフルの銃口から放たれた閃光が阿頼耶へと迸る。
その閃光を阿頼耶は、体をほんの少し横にずらし、紙一重で回避した。人間には標準装備されている自動姿勢制御システムに頼らず、己の意思で体を完璧に制御し切った動きでその閃光を避けていた。
「ビームマグナム!? ラプラス様と同じ武装……流石は姉妹機!! 装備も似ているってことですか!」
「行きなさい! アーマードアーマー・ディフェス・エクション!!」
巨大な黄金のひし型をした武装が、宙を舞って襲いかかる。多目的機能が搭載されたそれはビームコーティングしながら突っ込んでくる。
阿頼耶は射撃で破壊しようとするが、全て弾かれる。
それに隙を取られた阿頼耶の足をビームマグナムが消し炭にする。
「ぐあああっ!! 流石は不死鳥!!」
射撃、射撃射撃射撃射撃。
空中を飛び回るアーマードアーマー・ディフェンス・エクションの突進攻撃を、足を超速再生させながらは的確に狙いながら、その銃弾の嵐を浴びさせる。
しかし、弾かれる。
「くぅ、ならっ!! 本人を!!」
狙いをビームマグナムを撃ってくる高城にシューティングモードのCHARMを向ける。しかし、全て紙一重で躱されていく。
阿頼耶もビームマグナムとアーマードアーマー・ディフェンス・エクションのコンビーネーシヨンに慣れると、ビームマグナムを紙一重で躱すと同時、阿頼耶は戦術機をブレードモードに切り替えて斬りかかる。
「なっ!?」
咄嗟の事に驚きを隠せないながらも、マギを放出して回避行動を取る。フェネクスの支援を受けている高城にとって回避だって造作もない筈だった。予想外の攻撃がなければ。
「先程の恨み、晴らさせてもらいます!!」
しかし、回避行動を取ろうとする高城を、いつの間にか全快になったエウレカが背後から高城を突き刺した。
「これでお返し、ねッ!!」
前方からは阿頼耶がおそいかかり、腹には戦術機が突き刺さっている。
苦虫を噛み潰したような表情で、高城は自分の下半身をアーマードアーマー・ディフェンス・エクションで消滅させ、エウレカの戦術機から解放される。
時間遡行によって体を復活させ、阿頼耶をアーマードアーマー・ディフェンス・エクションで足止めし、グルンと回転して高城は戦術機をエウレカに向けて振りかぶる。
回避は不可能と判断し、防御行動を取ろうとするがエウレカに襲ってきたのは、斬撃ではなく、衝撃だった。
「くっ!?」
高城はエウレカ向けて剣を振りかぶって斬撃をお見舞いすると見せかけ、魔力を吹かしてその衝撃で、エウレカを地面へ蹴り落とした。
『頭も体も改造されてこの程度の攻撃の避けれないの!? 随分と低レベルの改造を施されてみたいね!! ハハッ!! 強化衛士といえどその程度!?』
突如聞こえてきた声に、阿頼耶とエウレカは耳を疑った。
「貴方は……」
「性格の豹変。やはり」
この声は、間違いなくあの高嶺の物だった。
しかし、今までのような凛々しくも優しさのある感じの声ではない。
その口調や態度は正に粗暴そのもの。今まで神庭で暮らしていた頃の宮川高城・の気品と礼儀を感じさせるようなあの態度とは似ても似つかなかった。
「ラプラス様のいる世界の為に!!」
「あの地獄から救い出してくれた御前の為に! その不死鳥は頂きます!!」
『はっ! 体をいじくり回された化物達が!! その御前っていうのも所詮は貴方達を利用して捨てるわ!!』
その言葉にエウレカの逆鱗に触れた。
「御前はG.E.H.E.N.Aから救い出してくれた! 大人は助けてくれなかった! 体を弄くり回され!脳内を掻き回され! 過去を捏造され! 利用され! 捨てられた!! ゴミのように!! そんな私にあの方は手を差し伸べてくれた! 御前は衛士に幸せな世界を作ろうとしている! デストロイヤーを従える能力がある! 世界は衛士に報いるべきだ! それが私達への非道な扱いをした世界が唯一贖罪する方法だ! それを侮辱するのは許せない!!」
「あー、また始まった御前信者の暴走」
『ハッ!! そんなんだから足元を救われるのよ!!』
二人の体がネジ曲がった。
アーマードアーマー・ディフェス・エクションによるビーム湾曲機能を人体に向けて使用したのだ。
「なっ!?」
「きゃ!?」
『サヨウナラ』
ハイメガランチャーモードに移行した高城は、二人に向けて照準を合わせる。体が捻じれて、崩れている二人は避けれない。
閃光が二人を包んだ。
半径30メートルをまるごと吹き飛ばした高城はフェネクスが戦闘モードを解除し、戦術機が元に戻る。
「はァ、ハァ、頭が痛い。気持ち悪い」
『敵反応、高速で離脱中。二人とも逃げたみたい』
「そう……うっ」
膝を降り、地面に手をついて体内のものを吐き出す。
『大丈夫? 高城ちゃん』
「ええ、大丈夫よ。流星。流星は大丈夫?」
『大丈夫よ。流星ちゃんが守ってくれたから』
「そう。よかった」
高城の瞳には背中を擦り、優しく心配する流星の姿が映っていた。
「行きましょう、CAGEの本部へ」
『……そうね。急ぎましょう』
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