意思を持つ戦術機⑥

 キガンド級デストロイヤー4体の強襲に対して、霧ヶ谷明日那は案山子だった。

 役立たずだった。

 無能だった。

 なんの成果も上げれなかった。

 何一つ成長していない。

 目の前の犠牲を認めりず、遅滞した結果、被害は広がり、多くの人間が死んだ。戦犯だった。しかしそれを知る人すら死に、裁かれることなく生きてきた。あの時から『冷静に物事を判断できる衛士』になるように努力した。正義や理想よりも、合理性や数で割り切る努力をした。

 それでも足りない。

 霧ヶ谷明日那には決定的なまでに力が足りない。


「リボンズ・藍……仲間がああなったのは装備者の安全装置を解除したからなの?」


 明日那は目をつぶり、キリングマシーンと化した姿を思い浮かべながら語りかける。それにリボンズ・藍は冷笑を浮かべながら答える。


「そのとおりだよ、霧ヶ谷明日那。君の親友は力を求めた。代償として戦闘に関連しない思考や感情を失っていく。過ぎた力を求めるならば対価を払え、というやつさ」

「それ、私もやる」


 その言葉をリボンズ・木藍は含み笑いをしながらその意志を確認する。


「本気かい? 精神の安全装置であるリミッターを外してネクストを扱い続ければ、その莫大なパワーと比例して君の精神は人でなくなる。それは物理的な意味ではなく主観的な、精神面で人ではなく機械的な破壊マシンとなる。それを許容するのかい?」

「親友ばかりにそんな道は辿らせない。どうせやるなら、せめて二人とも生きる道を探したい。彼女は私の親友だから」


 強い視線がリボンズ・藍に向けられる。霧ヶ谷明日那のその言葉に、リボンズ・藍はやはり笑いながら頷く。


「親友……か。人間というのは、悲しい生き物だね。わかった。セッティングはこちらで行っておく」

「ありがとう」

「ところで、ウルフガンフの二人は良いのかい? 金色一葉と東雲千香留の存在は」

「あの二人は良い人達だけど、一緒には歩めない。親友のほうがずっと大切だから」

「そうか、ならウルフガンフは解散としよう。君たち二人は独立部隊特別遊撃隊として二人で動くように」

「了解」


 霧ヶ谷明日那が去って、リボンズ・藍は息を吐く。

 仲間のため。

 友人のため。

 大切な人のため。

 そのための自己犠牲。


「ふっ、友情のために人を捨てるか。美しいな、霧ヶ谷明日那。いや、それとも自分のためかな? 過去からの死神を恐れているようだが、身構えているときに死神は来ないものだよ」



 ウルフガンフの解散。

 結城霧香と霧ヶ谷明日那の離脱。

 一方的な命令。それを受けて、相澤一葉が頼ったのは流星と蒼風だった。


「私は一体、どうしたら良いのでしょう?」

「……力を求めて、友達のために、レギオンを切り捨てるか。高城ちゃんもそんな気持ちだったのかな」

「ウルフガンフは二人の離脱でレギオンとして機能しなくなり、世界もCAGEによるG.E.H.E.N.Aへの戦争で大きく荒れているわ。訓練校も、世論も、国連も、ガタガタ」


 千香留は用意したハーブティを飲みながら沈んだ声で告げる。


「秩序があり、立場を明確にした大きな訓練校は、完全なG.E.H.E.N.A支配体制へ移行したイェーガー。武力で国内の政治に関与しない立場を取り続けデストロイヤー殲滅を掲げる御台場、そして反G.E.H.E.N.A親CAGEを表明した横浜衛士訓練校。そして外征を完全にシャットアウトし、アルテミスの傘で自分の防衛地域に引きこもった神凪ですね」


 蒼風は立場上、一番下なので記録役としてホログラフで勢力図を書き込む。

 流星は蒼風に質問する。


「そういえば蒼風ちゃんは横浜衛士訓練校所属よね? ということはここで金色一葉や東雲千香留さんと話しているのはまずいんじゃない?」

「ですねぇ。でも私、ユニコーン戦術機のおかけで単独行動が許可されたんですよね。意外な事に」

「ええ?」

「それは、どうしてかしら? ユニコーンはイェーガーと敵対する横浜衛士訓練校にとっては切り札になりうる存在なのに」

「ユニコーンは可能性の獣。つまり今の真っ二つに割れた情勢をなんかうまく片付ける方法を示してくれるかもしれないから、自由に行動させよう、みたいな方針です。愛花先輩から送られてきました」

「なるほど。G.E.H.E.N.Aは認められないけど、完全にCAGEを歓迎しているわけでもないのね」

「そういうことです。だから泳がせて、上手い落とし所を探させよう、となりました」

「そう考えると私達は良い集まりね。ユニコーン戦術機を保有する親CAGE横浜衛士訓練校の蒼風、親G.E.H.E.N.Aのイェーガーに所属する金色一葉と東雲千香留さん。そしてフェネクスを御しれず暴走させて実質的な中立の神凪の私」

「そうですね。G.E.H.E.N.A、CAGE、中立とどの立場からの視点が見れます」


 流星の言葉に、一葉が同意する。

 そこで千香留は呟く。


「ねぇ、もし良ければこの四人でレギオンを作らない?」

「レギオンを……ですか?」

「ええ、みんな平和を願う気持ちは一緒で、だけどヒュージだけではなくて人間同士の様々な事に振り回されている。それはとても悲しいくて、辛いことよ。だから私達だけは団結しましょう?」


 千香留の言葉に真っ先に頷いたのは青だった。


「良いですね! そうしましょう! 名前は何にします?」

「え? そうね。みんな仲良しパーティ、とか」

「千香留様……」

「ふふ、良いじゃない一葉。凄く可愛いわ」

「もう少し威厳があった方が士気が上がります。ズバリ! レギオン:血反吐」

「威厳とは???」

「血反吐……私は絶対高城ちゃんを救うレギオンとかが良いかな?」

「それはまぁ高城様はお救いしたいですが、それだけでは少々」

「蒼風は何かある?」

「んー、そうですねぇ。むむむ」


 蒼風は悩んだ末に言う。


「シュテルンリッター、とか」


 それに一葉はうなずく。


「良いですね、語感良いです」

「星の騎士って良いわね」

「素敵だと思うわ」

「では、満場一致ということで! 金色一葉先輩! 東雲千香留先輩! 今流星先輩、そして私、青かで構成された新レギオン:シュテルンリッターを発足しましょう!」

『良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、仲間を想い、仲間に添うことを、神聖なる契約のもとに、誓いますか?』

「「「「誓います」」」」

『皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、仲間の絆によって結ばれた、この関係が、神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。

宇宙万物の造り主である父よ。

あなたはご自分にかたどって人を造り。

人の愛を祝福してくださいました。

今日の誓いをかわした上に、満ちあふれる祝福を注いでください。

彼女達が愛に生き、健全な関係を造りますように。喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、あなたに支えられて仕事に励み、困難にあっては慰めを見いだすことができますように。

また多くの友に恵まれ、友好がもたらす恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように。

レギオン:シュテルンリッターを祝福しましょう』


 その時、不思議なことが起こった。

 突然喋りだしたユニコーン戦術機が変形して、暖かな光が四人を包み込む。そして、全員の心が一つになり、相互理解を可能とした。


『自分を救ってくれたあのお姉さんのように人を守りたい』

『親友の死と戦いの恐怖はまだ心のなかにあるけれど、それでも希望があると信じていたい』

『宮川高城という最愛の人と一緒にいたい。そしてできれば笑顔があふれる造園を作りたい』

『葉風ねぇや、衛士のみんなに誇れる自分でありたい』


 不思議な感覚に戸惑いながら、目を開けるとそこには3本の戦術機が突き刺さっていた。


「これは、ユニコーンがやったのですか?」

「見て、一葉ちゃん。名前と使用者が刻まれているわ」


【戦術機:フルセイバー】

・金色一葉


【戦術機:スターゲイザー】

・今流星


【戦術機:ハルート】

・東雲千香留


「えっと、これはユニコーンさんから私達に使え、という贈り物という意味なのかしら?」

「たぶん、そうかと。けど何故今?」


 戸惑う三人に蒼風は呟く。


「ユニコーン戦術機は人の想いを形にするマシーン、人の想いを増幅するマシーンだと言われていることもあります。だから、私達の想いに応えて、それぞれの目的にあった戦術機を作り出してくれた、とか」

「な、なるほど。シンギュラリティ・ワン。技術的特異点と呼ばれるだけありますね」

「でも、シュテルンリッターってレギオンっぽくなりましたね。みんながそれぞれの想いのために団結して戦う愛の物語。そのための力。武装した華。つまり私達です!」

「過去を背負い、顔を上げ、空を見上げ、そして一歩づつ進んでいく。そんな想いが込められている気がするわね」

「皆さん! 私達シュテルンリッターは誰も死なない! 見捨てない! 悩んでいたら相談する! みんなで幸せになれる道を探すためのレギオンです! 正義や悪など両極端な黒と白ではなく、最高を目指しても未来を手に入れましょう!」

「それは、とても素敵ね。幸せ。最善の最高の未来」

「はい、頑張りましょう」


 四人は拳を合わせる。


「レギオン:シュテルンリッター結成!」

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