意思を持つ戦術機⑤

「ここにいるのは私達、5人だけ。あれだけ派手に魔力を散らしたのに様子を見にくる気配もない」

「それって、人払の結界でも発生させてるって事ですか? 流星先輩」

「正解よ、流星。流石、私の流星ね。頭がよく回る。素晴らしいわ」

「結界って……そんな魔法みたいな」

「フェネクスがいればそういうことも可能なのよ。ユニコーンはそんなことも教えてくれないの?」

「残念ながらユニコーンは喋らないんです」

「信用されてないのね。前任者は以心伝心のようなものだったと聞いているけど」

「ラプラスさんと比べるのは勘弁してください。辛いですから」


 ギャリッ、と戦術機から火花が散る。


「僕を差し置いて、話を進めないで欲しいな」


 声がした。

 少女の声がした。

 その瞬間、高城は力任さに戦術機を振り回して蒼風を吹き飛ばす。そのまま大きく、後ろに下がった。

 理由は、すぐ目の前に、異常なほど大きな殺気が生まれたから。下がらなければダメージを負うと、そう感じたから。

 だが、その殺気はついてきた。後退した高嶺についてきた。だから高城は戦術機を振るう。目の前の殺気に向けて剣撃を放った。

 ギィン!! と甲高い、金属と金属がぶつかり合うような音をした。

 それに高城は、目の前に睨む。

 そこには全身を黒い装甲で覆い、金色のフレームが露出する鎧を纏ったような禍々しいリボンズ・藍がいた。


「僕が人より弱く見られるのは、我慢ならないな」

「戦術機は使われるもの。衛士を乗っ取った貴方は万全な力を出せていない。器が衛士の姫だろうと、それは変わらない」

「……」


 リボンズ・藍は憎々しげに高城を睨む。


「高城ちゃん! どういうことなの? 何が起きているの!? 説明をして!!」

「流星……そうね、貴方には嘘偽りなく、私の目的を話さないといけないものね。乙型と呼ばれる戦術機の量産計画を完成させるつもりなの。リボンズ・藍が作った戦術機とアーマードコアの技術をガーディアンスーツに落とし込み一体化させたネクストシリーズとは別の技術系統」

「凸型……!? まさかG.E.H.E.N.A……?」

「ふふ、乙型ときけばまずはG.E.H.E.N.Aよね。私が目指しているのはG.E.H.E.N.AとCAGEの魔力技術をハイブリットさせて作り出す戦術機型の機巧魔神。燃料となる魂を戦術機に封じ込め、そして人知を超越した力を扱う。そして殺した分だけ相手の魂を回収する。それは相手が人間だろうがデストロイヤーだろうが関係ない。全てを喰らい、己の力にする」

「それが、高城ちゃんの目指すもの?」

「ええ。フェネクスは完成形と言っても良いわ。最初から完成形があるのだから、後は何故そうなっているかを答え合わせして行けば良いだけ」

「そんな……そんなもの!」

「流星。これがアレばもう何も怖がる事はないわ。全ての敵を薙ぎ払える。G.E.H.E.N.Aもデストロイヤーも怖がる必要はなくなる」

「その為に、何人犠牲にするつもりなの。高城ちゃん。正しくない強さなんて破滅を呼ぶだけよ」

「私達は一緒に知ったじゃない。あの日、あの空の下で。力がなければ何も守れない。好きな人と一緒にいることもできない。だから力を求める。私も、貴方も、ねぇ……流星」


 そう言って高城は、流星に手を伸ばす。

 ゆっくりと、柔和な笑みを浮かべて。


「私と一緒に来ない? そうすれば力をあげる。この力で全てを……ッ駄目、よ。来ては、駄目。私は、私の言葉を聞いては、いけない」


 高城の言葉が途切れる。

 彼女は急に苦しげに、制服の胸の部分を抑える。そして突然声のトーンが変わる。

 もっと幼い、泣きそうな声音で。


「来ては、いけない。私の意識は崩壊……喰われて、バラバラな……このフェネクスを使った実験は失敗……暴走して……わ、わ、私はいな……黙れ黙れ。私は取り憑かれてなんていない。私にはもっと力がいるんだ、もっと、もっと力が」


 などと言う。

 そこで高城の右腕が震える。

 ガクガクと震える。

 そして禍々しい光が金色の戦術機から高城に移っていく。まるで呪うように、高城を呪うように、戦術機が高城の腕を侵食していく。


「恨まないで欲しいな! 宮川高城!!」


 リボンズ・藍が宮川高城の腕に刃を向ける。しかし大きく弾かれてしまう。しかし距離が離れればシューティングモードにした戦術機から砲撃が放たれる。


『ここまでね、高城ちゃん。まだそれ以上は私を使えない』


 戦術機から声がする。その言葉に高城の表情が戻る。

 冷静な顔に。


「ええ、そうね。戻りましょう」


 その時、蒼風は心の底から怒った人の叫び声というものを知った。 


「フェネクス!! 貴方、高城ちゃんに何をしたの!?」


 するとフェネクスが答える。


『気になる? なら一緒にCAGEへ』

「何をしたか、聞いているの!!」


 流星が鬼のような形相で、フェネクスに向けて戦術機を振るっていた。しかしあっさりと弾かれる。そして高城は戦術機を掴むと地面に叩きつけて、踏み壊す。

 パラパラと破片が散らばった。


「流星、私と一緒に来ない?」

「…………」

「力が手に入るよ。全てを圧倒する力が」

「……私は、誰かを犠牲にして力を得ようとは思わないわ、高城ちゃん」

「そう」


 高城は、目をつむる。


「流星、大好きよ」

「そんなのっ、私だって!」

「だから良いことを教えてあげる。今年のクリスマスに、一度世界は滅ぶの」

「え?」

「黙示録のラッパが鳴って、致死性ウィルスが蔓延する。 そしたらきっと、いまよりもっと力が

必要な世界に変わっちゃう。そしたらきっと…きっと、あなたは私のことを、欲しがってくれる。だからそのときまた、会いましょう」


 その言葉の意味がわからなかった。

 いやもちろん、言っていることは、わかる。

 ――ウィルスが蔓延し、世界が滅ぶ。

 言っている言葉の内容は、ひどくシンプルだ。

だが


「ウィルスで、滅ぶ? つまりCAGE……いや、G.E.H.E.N.Aがウィルステロでもやるってこと?」


 だが、その必要性流星達はまるで理解できなかった。G.E.H.E.N.Aはすでに、この国の中で最大規模の多国籍組織なのだ。国家権力の中枢に入り込み、むしろいまの世界を政治体制を壊したくいのは、G.E.H.E.N.Aのはずだった。


 仮にウィルスのワクチンをG.E.H.E.N.Aだけが持っていて、そのウィルスをまいたことによって、 世界すべての権利を握れるという欲望に取り憑かれた誰かがいたとしても、あまりに不可解だった。


 しかし彼女はなにか、確信がありそうな顔で、そう言った。


 世界はウィルスで、滅ぶ。

 人が欲望を暴走させて。

 神が欲深い人間に裁きを下す。


「そんな馬鹿げた絵空事が本当に起きるの?」

「起こる。世界はクリスマスに滅ぶ」


 だが、高城はそう言った。

 なにか、確信がありそうな顔で、そう言った。

 世界はウィルスで、滅ぶ。

 それも、今年のクリスマスに。

 いまは4月なので、その破滅までもう、たった8ヶ月しかないことになるが。


 それに、黙示録のラッパというのも、それが有名な宗教の経典の一つ《ヨハネの黙示録》に出てくる、 滅びのラッパ吹き 《七天使》のことなのか、それともなにか別の何かなのか、それすらわからない。


「本当にこの世界がたった半年と少しないなんて……そんな、そんなことが」


 と、頭の中に不穏なキーワードを並べる。

 終わりになる。だが、あの世界を相手に秘密を維持するのはおそらく、それくらいが限界。それに高城のあの言葉もある。


『今年のクリスマスに、一度世界が滅ぶ』


 そしたらきっと、いまよりもっと力が必要になる。黙示録のラッパが鳴って、ウィルスが蔓延する。

 ウィルス つまり、生物兵器がまかれる可能性がある、ということだ。 それも世界が滅ぶほどの規模ということは、世界中同時にまかれる、ということだ。


 どういうつもりでそんなことをG.E.H.E.N.Aがするのかはわからないが、常識的に考えればG.E.H.E.N.Aは抗ウィルス薬をすでに持っているのだろう。

 そして世界中を脅す。

 自分たちに従わなければ、全員、死ぬぞ――そういう展開は、あるかもしれない。G.E.H.E.N.Aは、世界的にかなり大きな組織だから、その計画は成功する可能性もある。


 だからこそ、CAGEは戦争を始めた。

 もう、世界滅亡まで時間がないから、力の削り合いを気にせず、 G.E.H.E.N.Aと戦争を始めた。

「……クリスマスに天使が舞い降りて、ラッパ片手に世界を滅ぼすって? ここは日本ですよ」


 と、蒼風は小さく呟き、薄く笑う。なら、手遅れになる前に、自分たちも力を手に入れる必要がある。

 時間がない。

 時間はない。

 それは、なんの時間か。

 彼女が人でいられる時間。

 それとも、世界が滅亡するまでの時間。

 流星は問いかける。


「クリスマスにいったい、なにが起きる?」


 高城はそれに、あっさり答えた。


「前も言ったけど、文字通りの、 破滅が 最初の滅びは、欲望が多い、醜い大人たちに訪れる。 具体的に言うと、世界中の、十三歳以上の人間は全員死ぬ」

「……え?」

「神がお怒りになるのよ。欲深い私たちに。汚い研究ばかりをして、欲望を膨らませる人間たちの、あまりの醜さに。だから大地は腐る。魔物が徘徊する。空から毒が降る。終わりの天使がラッパを吹き鳴らし、 この世界は、崩壊する。そこではきっと、人間は生き残れない。か弱い人間はそんな世界じゃ生き残れない」


 高城の言葉に、流星は思い出す。

 クリスマス。破滅。ウィルス。


「……テロ? G.E.H.E.N.Aがウィルスをまくの?」


 が、高城はやはり悲しげに、それでいて妖しく笑う。


「流星……大好き。だから待ってる。私に追いつくその日まで」

「待っ……!」


 衝撃が周囲を吹き飛ばし、煙が晴れると高城では姿を消していた。

 校舎の上層部が吹き飛び、青い空が見えた。

 青い、青い空だ。

 穏やかに流れる風が硝煙の匂いを運んでくる。


「戦争が始まった」


 リボンズ・藍はつまらそうに呟いた。

 襲撃してきた組織は名前も聞いたこともないテロ組織ということになった。襲われた、そして勧誘を受けたのは神凪だけではなく横浜衛士訓練校、イェーガー、御台場と幅広かった。


 そして何より問題だったのは、一部の衛士がテロ組織の勧誘に乗ってしまった、元々潜伏していて反旗を翻した事だった。

 その大半は強化衛士や、G.E.H.E.N.Aに嫌悪感を持つ衛士が多く『悪のG.E.H.E.N.Aに正義の鉄槌を!』『大切な人をG.E.H.E.N.Aに奪われないように!』という大義を与えられ寝返ったそうだ。


 それに親G.E.H.E.N.Aのイェーガー女学園のトップであるリボンズ・藍は渋い顔をした。強化リ衛士や、G.E.H.E.N.Aの悪評は有名だ。事実として何人も犠牲になっている。

 リボンズ・藍の支配体制になってから、薬物によるコントロールはしているものの装備の方面を強化し、生体強化は避けてきた。しかし過去の事例を掘り起こされてしまえば言い訳のしようがない。

 高城と反旗と、CAGEの攻撃から一ヶ月が経過していた。

 リボンズ・藍はより熱心にアロウズを動かし、暗躍している。蒼風と流星は密に連絡を取り合ってお互いの近況を報告する仲になっていた。


「流星先輩、最近どうです?」

「どうもこうも、何も。しいていえばイェーガーの外征がかなり無茶してるくらいね」

「アロウズ?」

「いいえ、ウルフガンフ。何が目的なのか、異様に私達の管轄に派遣されることが多いの。一葉とも話し合ったんだけど上層部が何らかの意図を持って配置しているのは間違いないみたい」

「流星先輩は高嶺先輩の大好きな相手ですからね。監視しておく意味があるんじゃないですか? 接触があったらすぐわかるように」

「はぁ、それで外征させられる一葉達が可哀想ね」

「ウルフガンフといえば、ガーディアンスーツと戦術機が合体しているっていうネクストシリーズ、強さはどうなんですか?」

「かなり強いみたいよ。負の魔力が発生するのが難点みたいだけど……そういえば気になることを一葉が言ってたわね」

「何があったんですか?」

「ネクストにはリミッターが何重にも付いてるみたいなんだけど、それをどれだけ外して行動できるかテストしている最中にレギオンのメンバーに変化が起きたらしいの。今まで気にしていた趣味や行動を捨てて、戦闘のみに特化した思考回路になっているらしくて」

「それ悪影響ででるじゃないですか」

「でも身体スキャンでも、メンタルテストでも正常な数値らしいから困っているらしいわ」

「それ絶対いつか暴走しますよ」


 二人は時々ブラックジョークを交えながら雑談をしつつ、自分に与えられた校外学習の課題を進めていた。しかし、平穏な時間は長くは続かない。突如、隊室に警報が鳴り響いた。首都防衛県内に出動要請がかけられたことを示すサイレンだ。


 デストロイヤーの使うワープホール、『ケイブ』を発生させない妨害装置がある筈なのだが、最近は『ケイブ』ではなく別の空間歪曲型ワープ『フォールド航法』で出現するようになって抑制が困難となっていた。


「敵は?」

「ええと」


 直後、流星の端末に通信が入った。流星は通信相手と二、三言葉を交わして立ち上がり、全体を見回す。


「東京。イェーガー女学院を囲むように特型ギガント級が4体出現。周囲にいる衛士は至急救援に向かうべし」

「ギガント級4体とか滅ぶ滅ぶ」

「イェーガーって今、アロウズいなし壊滅しちゃうわ!?」

「ウルフガンフと藍先輩じゃ物理的に手が足りないですよね。うわ、うわうわデストロイヤーからのビーム弾いてる光壁が凄いエグい光り方してる……」

『ウルフガンフの金色一葉より付近にいる衛士達へ通達します。現在イェーガー女学院は4体のギガント級デストロイヤーに攻撃を受けています。そこで私達ウルフガンフとリボンズ・藍さん率いる部隊に戦力を集中させて二匹を速やかに撃破、そして次のギガント級へ向かいます。その間は攻撃するギガント級周辺のエネルギーをシャットアウトし、後回しにしている地点のエネルギー光防御壁に回して耐え凌ぎます』


 相澤一葉の端末から全ての周辺に衛士全てに戦術データリンクと同期と作戦の目標のマーカーがセッティングされたデータが送られてくる。


『衛士と支援要員の皆さん。どうか、力を貸してください!』


 一葉の通信が切れるのと同時に周辺の人達が一斉に動き出す。先程までの安穏とした雰囲気はなく、緊張感が漂っていた。デストロイヤーが赤い雨による進化でケイブ以外の移動法を会得した時点で、衛士、支援要員の戦闘訓練はもちろん、住民のシェルターへの避難するのも徹底して行わせていた。

 それがこの成果だ。この切り替えはさすがだと蒼風も感心する。


「一番近い地点は……ウルフガンフか。指揮は私が取るから蒼風ちゃんは私の補佐で」

「わかりました」


 二人はウルフガンフの戦っている戦場へ向かった。

 その戦場で驚愕に言葉を失うというのは、こういう事か。流星は目の前の敵にただ圧倒されていた。油断をしていた訳じゃなかった。士気が低くある筈もなかった。ギガント級4匹相手が出現したと聞かされた言葉を思い出すに、手を抜けるはずもない。

 

 感情に振り回されて操縦の精度が落ちるほど未熟ではなく。流星と蒼風は慎重に慎重を重ねて挑んだつもりだった。

 ウルフガンフを中心に、支援砲撃をして敵を切り崩す。誰もがこの東京ではトップクラスの衛士であり、ギガント級の戦闘力が格上でも戦えるだろうと思っていた。


 だが、その推測は最初の接敵で蹴散らされた。発見したのはウルフガンフの方が先だった。狙い定め、斉射したのも同様に。だが、その全てが避けられた。

 50メートルを越える巨体が、周囲のビルディングを破壊しながら、大きく回避運動を取った。

 そう思った次の瞬間、全員が相手の姿を数秒だけ見失っていた。ビルディング崩壊の煙や、デストロイヤーの動きの速度に圧倒され、どこへ行ったのか分からなかったのだ。


 動いている相手に射撃を成功させるためには、ある程度の予測が必要となる。機動の先を読んで、次に相手が行くであろう地点を絞り、そこにシューティングモードで弾丸を斉射する。

 最近の戦術機の性能は高く、デストロイヤーの装甲は防御結界の上からでも、一撃でも当てれば十分なダメージは与えられる。


(なのに―――この動きは)


 予測し、照準を絞り、撃つのがセオリー。だというのにウルフガンフと援軍に来た衛士達は、接敵からただの一発も撃てないでいた。次に動くであろうという予想。その尽くが外れたのだ。


(奇妙としか思えないわ。何を考えているのか分からない動きで、予測の全てを上回ってくる………いや、それだけじゃ説明がつかない)


 流星は落ち着いて観察した後で気づいた。あまりにも隔絶した性能に。

 回避行動やその事前の行動など、それらを大雑把に分ければ方向転換という言葉で表現できる。敵手はその方向転換に要する時間が短過ぎた。機体が受ける風、動く事によって生じる重心移動と慣性力、その全てを把握していると言われれば納得してしまいそうな程に、方向転換が鮮やかなのだ。そのキレも相まって、まるで視界から消えたような錯覚に落とされる。見失った後に必死で眼で追ってもその繰り返しだ。


 1対10だというのに、主導権を根こそぎ奪われている。このままでは、冷や汗が流れると同時に悪夢は形となった。


無造作としか思えない、高速移動しながら放たれたレーザービームの数発が吸い込まれるようにウルフガンフに直撃したのだ。

 途端に報告される撃墜判定と意識消失を示すバイタルサイン。まるで冗談のように思えて仕方がなかった。どこの誰があんな状態で撃った数発を当ててくるのだ。


 このままでは拙い。そう思った叶星は隊長である一葉に態勢の立て直しを進言しようとしたが、先に通信越しの声を聞いた。



『くっ、誰か避難をお願いします! 私達はデストロイヤーの注意を引き付けます』

『……よくも私の親友を、許さない』

『待って! 前に出過ぎよ!!』


 突出する瑶を諫める霧香の声。一葉も前へ出てサポートする。一人だけネクスト・ガーディアンスーツの複数ある装着者保護機能を切っているメンバーなのでギガントヒュージと対等に戦えていた。


『そんな出力を上げれば体が!』

『一度、体制を整えましょう!』


 しかし一葉と霧香の言葉を無視して攻撃に移る。そうして、流星は見た。彼女の動きには応じるように、レーザーブレードを出現させて2,3振り回して構える相手のデストロイヤーとその動きを。同時に、その一連の動作の滑らかさに鳥肌を覚えた。


―――どれほどの学習と経験すれば、コレほどの。人間と言われれば納得してしまえそうな程に、デストロイヤー特有のぎこちなさが無い。


『一葉……! 援護するわ!』

『流星様!? それに蒼風さんも! 助かります!!』

『私は狙撃と牽制を続けるわ! 一葉ちゃん達三人は前衛で支援して!』

『わかりました!』


 返答した一葉は真正面から突っ込んでいく。背中の円錐型の推進ユニットの出力も全開に、体を少し左右に振りながらシューティングモードにして、弾丸を繰り出した。


 一方でデストロイヤーも動き出した。手足からビームサーベルを吹かせると、上下左右に機体を走らせる。一葉は高機動下の射撃を駆使して退路を断とうとするが、先ほどと同じで全く追いついていない。急な方向転換にワンテンポ遅れて反応し、更なる方向転換に遅れ。


 流星がフォローに入るも、同じだ。ヒュージは体にかかるGなど存在しないとばかりに動きまわる。そして、追いきれなくなって動きが止まった直後だった。


 まるで予測していたかのように、急激な方向転換。背後から迫ったかと思うと、背面越しの射撃を全て回避した上でレーザーブレードが横一閃に振りぬいた。

 防御結界とヒュージのブレードが火花が散らして、地面にめり込む。


 ―――だが、それは罠だった。デストロイヤーが抜けたその先には、待ち伏せの用意ができていた。即席で編んだ、一人の犠牲を前提とした囮作戦。言葉にせずとも、動きで報せる。その程度の練度は保っていた。

 コンビネーション攻撃をせず、目の前の敵に向かって突撃する。それを想定した動きだった。


 稀に意思疎通がズレるが、今回は最高のタイミングで嵌ったと流星は内心で勝機を悟る。後は引き金を引けば、一葉、叶星、蒼風の十字砲火でヒュージは撃墜される。


 そう思っていた流星の視界に映ったのは、回転したままこちらに向かってくるレーザーブーメランだった。


「なっ!?」


 胴体に直撃する軌道。瞬時に悟った叶星はこのままでは、と攻撃動作を入力仕切る直前に、回避行動を選択した。予想外過ぎる事態に驚愕の声を発するも、回避行動に移ったのは瞬きほどの後。即座に体勢を立て直す動作も、それに至るまでの判断の早さも、見る者が見れば練度の高さに感嘆の声を発するだろう。紛れも無くベテランでも精鋭と呼ばれる域であり。


 だが、この戦場にはそれすらも越える理不尽が存在した。ぞくり、と流星が背筋に寒気を覚え、その直後に受けた強い衝撃に、意識が砕け散る。


「ぐふっ」

「流星様!」

「ちょっ、ちょっ、やば」


 デストロイヤーの体の一部が変形して、鋭い槍となって一葉と蒼風に向かって放たれる。二人共なんとか弾き飛ばすが、触手の槍は形を変形させて細い糸のような剣となって二人の体を貫く。


「いったい!」

「つっッ」


 このままでは全滅する、そう悟った蒼風だったが、それを覆す存在がいた。

 東雲千香留だ。

 彼女は、ネクスト・ガーディアンスーツの装着者保護機能を全てカットして、本来の力を取り戻してした。


『クアンタム、発動』


 全身が赤く発光して、分厚い魔力を纏ってデストロイヤーに向けてと突撃する。それはまるで一筋の流星のようだった。

 デストロイヤーから放たれるレーザービームを全て避けて、まずは足を切り落とし、続いて両腕を切り落とす。そして背後から刃を貫き、そのまま回転斬りで真っ二つに切り裂いた。

 デストロイヤーは形を保てなくなり、爆散する。


『目標の破壊を確認。次の目標へ向けて移動する』

「千香留……様、その力は」

「東雲千香留、敵勢力を破壊する』


 そう呟き、赤い光を残して別のギガント級デストロイヤーの元へ去っていった。


「あれが、すべての力を解放したネクストの力」


 一葉が呟く。ギガントデストロイヤーの掃討が完了した、と報告があったのは、それから20分後のことだった。

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