意思を持つ戦術機④

 今流星は、目が覚ますと今日はユニコーンの持ち主が横浜衛士訓練校から、バンシィの持ち主……というよりバンシィが乗っ取った子供衛士がやってくる日だったとため息をついて、頭の中で段取りや物事を整理しようとした時だった。

 良い匂いがして、その発生源に高城とカップが三つあるのを見た。どうやら流星と高城の部屋に朝から来客が来ているらしい。


「誰か来ているの? 高城ちゃん」

「流星……起きたのね。おはよう。今日もかわいい寝顔だったわ」

「もうっ、高城ちゃん!」


 いつもの調子の高城に流星は顔を赤くする。そしてカップの主について問いかける。


「朝早くから来客なんて珍しいわね」

「そうね……みぞれさんが来ていたわ」

「みぞれちゃん? どんな用事だったの?」

「……それは」


 高城が言い淀んだところで、部屋の扉が開いてみそれが姿を現す。そして起きた流星を見て、みぞれは目を細める。表情も強張っている。

 いつものと様子が違うみぞれに、叶星も疑問を覚える。


「どうしたの? みぞれちゃん。少し変よ」

「朝からすみません、流星様。『CAGE』から連絡が来ました。訓練校は腐敗し、衛士は不当な搾取と命の危険に晒されている。だから衛士ではなくアーセナルバードとして、訓練校と衛士に代わりCAGEとアーセナルバードがこの世界が正しい道に進めるよう、真剣に考えると」

「ちょっと待って、CAGE? アーセナルバード? 何の話?」

「CAGEは訓練校、アーセナルバードは衛士の事よ」


 高城が補足した。それに流星は驚く。


「えっ? 高城ちゃんも知っているの?」

「ふふっ、流星には内緒だったけど私は色々なところに保険をかけてたの。反訓練校、反衛士と呼ばれるところも含めてね。まさかみぞれさんも同じことをしているとは思っていなかったけど」

「私は……趣味でやってただけです。すみません、不純ですみません。CAGEが言うには日本はこのままいけば、終末のラッパに巻き込まれて滅びると」

「終末論? このご時世に?」


 みぞれの言葉に流星は顔を顰める。高城は真面目な顔で言う。


「少なくともCAGEはそう考えているらしいわ。このままいけば、ウィルスが蔓延する。誰かが触れてはいけない禁忌の法則が暴走し、この世界は人が住めない場所になるみたいよ」

「それって宗教? CAGEという組織のプロパガンダ?」

「宗教的な話ではありません。CAGEはあくまで反訓練校反衛士の権利に関して問題視して声を上げていた……環境保護団体の亜種のようなものです。衛士保護団体というべきでしょうか? G.E.H.E.N.Aの主導する強化衛士や非人道兵器の開発について批判をしてきました。そんな組織が、世界の滅びを予見して全てのアクセスしたユーザーに対して警告をし始めたんです」

「それは……なんというか壮大な話ね?」

「これは戦争についての話です。ウィルスをまくのは、神でもなんでもなく、人間です。 それも、私達のよく知っている、人間たち。G.E.H.E.N.Aという名の、人間達の組織」

「えっ、それは・・・・・・」

「多国籍企業のG.E.H.E.N.Aと訓練校は衛士とデストロイヤー関連の技術に取り憑かれて、暴走している。そして研究者達は触れてはいけない、禁忌の技術を扱おうとしている。だから我々はCAGEがそれを、必死に防ごうとしている。リリィ達は力を貸してほしい、また他の組織は私達と手を組まないか? という内容です」


 G.E.H.E.N.Aと訓練校が、世界を滅ぼすような技術を開発しようとしていて、それを防ごうとしている。


「この要請に応じなくても、戦争を始めるつもりなの?」


 すると高城は肩をすくめる。


「先に始めたのは、G.E.H.E.N.Aと訓練校という主張をCAGEはしているけどね」

「そこまで情報を開示するってことは、派手に戦争が始まるのは遠い未来じゃないわね」


 みぞれはうなずく。


「猶予は十日です。 十日後に、CAGEとG.E.H.E.N.Aの戦争は始まります」

「十日、ね。じゃあ、返答はそれまでに」

「いえ、今日です。 今日、みなさんが我らの側につかなければ、あなたも敵として計画は進める、と告知されてます」

「それは無いわね。 まず、CAGEが言ってることの真偽もわからないまま、この話を受け入れるわけにはいかない。本当にG.E.H.E.N.Aが禁忌の技術を暴走させようとしてるのか? それを止める必要が本当にあるのか?? それどころか、CAGEとG.E.H.E.N.Aが組んで衛士達を試している可能性だって、消せない。 その状況で、すぐに答えを返せだ。それって無理よ」


 そう、言ってみる。

 だがそれに高城とみぞれはうなずいて、言う。


「では、交渉は決裂ですね」

「CAGEにはつかない」

「うん。それで良い思う」

「朝からすみませんでした。流星様、高城様」

「ううん、相談してくれてありがとう紅巴ちゃん」

「ええ。意志の確認ができて良かったわ」


 そう言ってみぞれを部屋から出す。


「流星も、次は横浜衛士訓練校とイェーガー女学園からのお客さんが来るんでしょう?」

「あっ! あっ! そうだったわ! 急がなくちゃ!」

「ふふ、リーダーは大変ね」

「高城ちゃん!」


 流星が慌てる様子を見て笑う高城。それに頬を膨らませて異議を申し立てながら支度をする。


「こんにちはー!」

「来たよ」

「うわ、この先輩偉そう過ぎる……流星先輩って藍先輩からしても先輩ですよね?」

「僕には関係ない話だよ」

「えぇ……」


 ドン引く蒼風。

 ふんぞり返るリボンズ・藍。


「今朝、高城ちゃんとみぞれちゃんから聞いたのだけどCAGEという組織がG.E.H.E.N.Aに戦争を仕掛けるつもりらしいの」

「CAGE?」

「CAGEは訓練校の総称、アーセナルバードと衛士を呼称して、エレメントと呼ばれるタッグでデストロイヤーを駆逐しているみたい」

「へー、衛士と訓練校以外に戦闘組織あったんですね」

「不可解だね。僕にそんな情報は上がってきていない。そもそもCAGEなんて組織は存在していない」

「藍先輩の作ったアロウズも最近できたばかりなのにかなりの成果を挙げていると噂になってますけど、それと同じで最近できた組織何じゃないですか?」

「僕と同じレベルの事が人間にできるとは思えないな」

「じゃあ人間じゃない御前勢力が作っているんじゃないですか? デストロイヤー細胞による並列高速処理とか、クローンとか、そもそも洗脳とかしちやぇば良いわけですし」

「少なくとも、G.E.H.E.N.Aに喧嘩を売って勝てる見込みがあると、そのCAGEという組織は考えているんだろうね。更に衛士を離反させるのはついで、で通常戦力で勝てると思っている」

「それで、貴方……というよりG.E.H.E.N.Aはどうするつもりなの?」

「いつも通り運営するよ。ちょうど擬似太陽炉……T型GNドライヴを搭載した次世代汎用新型戦術機『ジンクス』と、GNコンデンサーを搭載して衛士の防御結界を強化したプロトタイプアーマードコア・ネクストの制式化したネクストカーディアンスーツの配備を完了した。支援要員にはバックファイアがあるが、交代で使えば負のマギによる精神汚染も大した被害にならない」

「次世代汎用新型戦術機『ジンクス』とプロトタイプ・アーマードコア・ネクストの改良廉価版のガーディアンスーツ……」

「アロウズに試運転をさせて、そこでも問題はなかった。その過程で反G.E.H.E.N.A勢力の拠点を幾つか潰したけど、CAGEなんて名前は無かった」

「元は環境保護団体なんですっけ?」

「いや、それはものの例えで、衛士人権団体って話だけど。百合ヶ丘では聞いてない? 強化衛士の保護とかもしてるみたいなんだけど」

「無いですね……そんな内輪揉め始める組織なんて」

「とはいっても、デストロイヤーの支配に衛士の死者蘇生技術をG.E.H.E.N.Aは獲得している。大方、それが狙いだろうね」

「対策は……しないんでしたね」

「危険思想を持った組織が、活発になっていると忠告だけはしておこうかな」


 そこでサイレンが響き渡った。


「デストロイヤーか」

「出撃しないと!」

「落ち着きなよ、今流星。うちのエースが最新装備で出撃するよ」

「ここは神凪の管轄よ!?」

「僕の警護に連れてきていたのさ。僕たちはただ見ていれば良い。彼女たちが戦うの姿を」

「……!」


 神凪の訓練校に設置された光壁バリアが作動する。そして都市を監視するカメラがデストロイヤーを捉えて、同時にそれに経ち向かう衛士達の姿を三人の前に映し出す、


「これが、一葉が作った新生ウルフガンフ」




「大丈夫ですか? 霧香様」

「ええ、カウンセリングのおかけで気分も安定してる。今なら私は何でもできる」

「確かに。このガーディアンスーツ・ネクストと次世代量産型戦術機ジンクスのパワーは心強いです」

「全てがクリアに見える。世界が変わって見える」

「だねー、良いもん作るじゃん。うちの生意気なお子様も!」


 ビピッとリボンズ・藍から金色一葉にメッセージが送られる。


「警護の任務を一時的に凍結、出現したデストロイヤーの撃滅指令が下りした。デストロイヤーの殲滅が最重要目標ですが、私達ウルフガンフは街も人もそこにある暮らしを守ります。そしてこのスーツと戦術機ならそれができる。皆さん、私にお力をおかしください」

「ええ! 一葉ちゃん! 勿論よ!」

「いやー、人気ものっていうのも大変ですな」

「でも、この力があれば……できる!」

「ウルフガンフ、出撃!!」


 キュィィィンの光の粒子が溢れ出し、四人はヒュージの発生ポイントへ移動する。背中の円錐型から放たれる推進力と、スーツの防御結界に付属された重力制御によって、地面を滑るように飛んでいく。


「あれが……! 目標デストロイヤー!」

「薔薇色の魔神……?」

「攻撃、くるわ!!」


 一葉は霧香に抱き抱えられてた。

 薔薇色のデストロイヤーの両腕から伸びる鉛色の鎖が直後、衝撃が一葉の背後のコンビ二を粉砕した。

 衝撃が体の芯を抜けて行くのを感じながら急いで顔を千香留の胸から持ち上げて振り返れば、先ほどまで座っていた場所―――霧香によって引っ張られなければ座っていたであろう場所が、完全に鈍い色の金属によって粉砕され、深い亀裂が生み出されていた。そこに突き刺さっているのは鎖だ。巨大で長い鎖だ。自分よりも大きく、生物のように動いて対象を捕縛し、時間を静止させるあの機巧魔神に格納される鎖。


 そんな鎖を、巨大な深紅な騎士が、腕から垂れていた。だがその代わりに装備されている鎖は今目撃したように、建造物でさえ軽々と粉々にするだけの破壊力を保有している。コンビニを両断する様に放たれたそれをギリギリのところで回避した所を見て、霧香が引き寄せなかった場合の未来を想像し、息を呑んだ。


「一葉ちゃん、まずは遠距離攻撃とか撹乱しつつ遊撃を」


 立ち上がった霧香はそう言うとシューティングモードに切り替えて呟きながら、引き抜かれた鎖がコンビニ外の持ち主の手元へと戻る姿を見た


 完全に入り口から吹き飛んでいるコンビニはもう、コンビニとしての役割を果たせなくなっておりその前に陣取る深紅の騎士の姿、そしてそれが連れてきた灰色のマシンガンとバズーカ砲を装備した量産型と思われる機械騎士達が、空を固めていた。


 とりわけ目立つのは鎖を内包する深紅の騎士。その姿は圧倒的に大きく、ラージ級……いやギガント級レベルである50メートル以上ある。


「これは撹乱とかいってる場合じゃないねーこれ」

「速攻を仕掛けるべき」


 脳内で新しい未来の予測を完了させる。魔力を収束を収束させ、それを叩きつける事で炸裂として敵を破壊することが出来た。同じように弾丸にエネルギーを収束し、それを接触と同時に爆発させればバーストショットを生み出すことが出来る。戦術機を稼働させながらその計算を完了させ、全弾を貫通力の高い通常弾から爆裂弾へと変更させる。

 エネルギー補給を終わらせた直後なので、体が軽く感じられる。


「遠距離から霧香様が牽制を、他は中距離で注意を引き向け、私で撃破します」

「了解!」

「うん、それで良いよ」

「誤射に気をつけてください」

「誰に言ってるの一年生リーダー」


 一葉は左手を首に当て、軽く首を回してから指の骨を鳴らす。そしてトンと、軽く一葉を肩叩く。その瞳は「ついてこれる?」と無口な彼女なりの心配が見て取れた。


 本音を言えば全く自信はない。いや、そもそもこの少女―――いや、衛士の先輩に肩を並べて戦えるだけの実力はないし、本気で動き出せば置いて行かれそうな気配もある。


 だがそれがどうしたというだけの話だ。

 衛士はそれぞれの信念を貫くからこそ衛士なのだ。

 ましてや、自分より経験があり、先輩に全部任せる? 強いから? その方が効率的だから?

 そういう言葉で飾って隠れる様な人は前へ進めない。


「全力出力!!」


 T型GNドライヴが稼働。全身に力をみなぎらせながら、身体能力を大きく向上させる。霧香達は三角型に陣形を取り、一葉はブレードモードにして正面、鎖の発射耐性を取る深紅の騎士の姿を見る。やっぱりアレ、喰らったら痛そうだ、何て感想を抱いてしまう。だが戦うという意思を抱けば余計なものが頭の中から消えていき、対象の効率的な殲滅方法。それだけに思考が集約される。

 霧香はスコープを覗き込み、笑う。


 ―――ゆっくりと、回収して再度、装填が完了したであろう薔薇色騎士ロードナイトが腕を持ち上げる。


「全力で支援するわ。全部任せて」

「私一人で問題ありませんが」

「私をあまり舐めないで。これだけの装備があれば私は私の強さを十全に発揮できる」

「私も、親友と青臭い理想論を真面目にやろうとするようなリーダーを死なせるヘマしないよ」

「信頼してる」

「おう、親友を信じろ」


 振り上げられた腕がその頂点に達し、煙を吹いて―――次の瞬間には鎖の先端が加速する。


 その速度が、ガーディアンスーツ・ネクストとT型GNドライヴの強化を得た身体能力、動体視力―――思考速度の中では、まるでコマ送りの様に見えてくる。一瞬で到達するはずの鎖がゆっくりと、数秒欠けて放たれてように見える。その間に一瞬で飛び出す姿勢を整え、


「攻撃!!」


 二人は飛び出した。一葉は同時に飛び出し、瑶一瞬でその速度を上回った。素早く接近すると跳躍しながらすれ違いざまに手首を粉砕し、鎖と手をロードナイトから切断し、そのまま跳び膝蹴りで胴体を陥没、回し蹴りへと繋げて首から上を薙ぎ払って蹴り飛ばした。ただの連撃を繰り出しただけでもあり得ないと表現出来るその破壊力、手際の良さ、まるで戦うために最適されたと表現したくなるような美しい動きの連続だった。


 だがほかも負けては居られない。

 主を失って落ちて来る落ちる鎖の上に乗り、そのまま駆ける。


 鎖の上に乗ったまま駆けてくる姿に、デストロイヤーの思考回路が対応しきれていないのか、空を飛ぶデストロイヤーたちの姿が一瞬停止し、そのまま弾丸の先端が衝突し、貫通する。空中で魔力の弾丸に貫通されて落下し始めるデストロイヤーを蹴って、常識では考えられない動きに硬直したデストロイヤーへと向けて銃口を定め、空中に飛び出しながらシューティングモードの戦術機の引き金を引く。


「堕ちろ!!」


 発射された弾丸は最も近くにいたデストロイヤーに衝突すると同時に爆裂する。ぽっかりと半球状に炸裂した事で胸部が露わになるが、破壊力を拡散させすぎたのか、それで倒す事は出来ていない。

 しかし、それで充分だった。

 有り得ない弾道を、高出力魔力弾を跳弾させて同時に数体を破壊しながら飛んできた魔力弾が、一葉の攻撃で倒しきれなかったデストロイヤーに吸い込まれ。内部から爆裂させて破壊する。


 破壊されたデストロイヤーが落下し、此方の落下が進むのを空中を蹴って一段跳ねる様に別のデストロイヤーへと向けて跳躍しながら落下を阻止する。


 進もうとする意志に対して対応する様に飛行するデストロイヤーが一気に殺到する。それに合わせて逆さになって落下しながら引き金を連続で引く、魔力とエネルギーを消費されながら放たれる弾丸が回避しようとするデストロイヤーの位置を先取り、その姿に衝突して爆裂する。そうやって数体沈めれば地上から轟音が聞こえる。


 そうして、地上からの超出力砲撃モードにした戦術機から分厚い魔力の奔流が迸り、複数のデストロイヤーを纏めて吹き飛ばした。


 一葉は新たなデストロイヤーに乗り移ると一閃。切り裂く。そして蹴り飛ばす。蹴り飛ばされて地面に埋められる様に吹き飛ばされていた。真下をその残骸が突き抜けた事を確認しつつ道路の上に着地し、悠々という表情で地上の殲滅を完了した瑶が歩いて横にやってきた。


「一葉、遅い」

「申し訳ないです。バナナ食べ忘れていて」

「かわいいところあるね」

「え? どう意味ですか?」


 二人の背後にテレポートしてきたデストロイヤーは、現れた瞬間に狙撃され撃墜される。それが大地に衝突する音を背後から体で感じ取りつつ、正面、道を塞ぐように展開する無数デストロイヤーの姿を見た。


「全て破壊する」

「ですね……見知らぬ誰かの平穏を守るために私はあります」

「全てを破壊する盾というのも変な話」

「全てを守る盾ですよ」


 ゆっくりと歩き出すと霧香が拳を持ち上げてくる。その意図を察し、軽く拳を叩き合わせる。


「行きましょう」


 歩みを駆け足へ、そこから全速力で前へと向かって―――飛び出す。

 道路を走る。前へと向かって、全力で、跳び込む様に。全身を前へと押し出す様に速度を乗せ、踏み込む一歩一歩に力を乗せる。目の前には進路をふさぐように騎士が見える。振り上げてくる剣が振り下ろされるよりも早く接近する。跳躍する。その頭上を宙返りする様に、逆さまに超えて行く。それを超えて行く中で右手で握ったシューティングモードの戦術機の引き金を二度引く。一発目の銃弾が頭部を粉砕し、二発目がその下の胴体を吹き飛ばす。まだ威力が高過ぎる。もっと貫通力を上げなくてはならない。破壊しながら貫通する。爆裂する弾丸では駄目だ。

 レーザーバレットみたいな弾丸が理想的だ。


『砲撃支援、3秒前』

『射線を戦術データリンクに表示、巻き込まれないように注意して』


 ちらりと、視界に表示される射線ラインを見て、戦術機を両手で前に突き出す様に構え、その射線に向けてデストロイヤーが飛び込むように叩き飛ばす。


 瑶も同じく爆裂弾頭に変更した魔力弾発射する。弾丸はガーディアンスーツ・ネクストの知覚補正に正確な空間を狙って射撃されて爆裂していく。デストロイヤーは防御結界を展開するが、弾丸は容易に防御結界を食い破って穴を開けながら貫通し、爆散する。


『発射!!』


 ドォン!! と極太のピンク色の魔力粒子ビームが通り過ぎて一気に数十体のヒュージを纏めて蒸発させる。更に千香留の高速精密射撃によってデストロイヤー達は撃ち落とされていく。


「霧香、凄い」

「はい! 霧香様の実力はウルフガンフの中でトップです!」

「負けてられないね、もっと敵を、破壊する」


 霧香達は正面に向けて一発一発を、狙い通りに爆風を生みだすように射撃しながら走り込み、倒れるデストロイヤーを足場に連続で跳躍しながら飛び込んでゆく。空に上がりながら逆さまになり、軽く横に回転しながらシューティングモードで射撃しながら落下し、転がりながら着地して前へと向かって走り出す。

 その姿を横からデストロイヤーを蹴り飛ばしながら一葉が一瞬で追いつき、次のデストロイヤーを切り裂く。



「流石です! 皆様!」

「もっと、もっと破壊する」

「はい! 倒しましょう!」


 スピードを上げるように前に出た。跳び蹴りで正面のデストロイヤーを粉砕し、その残骸を蹴り飛ばしてショットガンの様に弾丸として放った。


 その合間に出来る隙間に弾丸を撃ち込みながら前へ、前へと向かって走って行く。足元の大地の感触、心臓の鼓動を全身で感じながら風を切って、これまでにない速度を乗せて進んでゆく。


 全てのデストロイヤーが反応出来る訳ではなく、いくつか撃ち漏らしがあるも、それを通り過ぎてからあちらが反応して触手を伸ばそうとしてくる。


 だが振り切る。

 風に髪が後ろへと流されて行く。発生する風圧に負けないように腕を交差させた状態で、前方に見えるトラックに向かって跳躍する。


「より早く」


 その上に乗れば、この先は崩れた道路、衝突したトラックや車、それによって道がまともに存在していないのが解る。まともに移動しようとすれば時間がかかる。 


「より効率的に」


 横転したトラックの上を踏むと、そのまま重力を感じさせない足取りで一気に瑶が前へと飛んだ。トラックの上から次の車両の上へと跳躍し、移動しながら迫ってくるデストロイヤーを一撃で粉砕している。その破壊力はオーバーキルの一言に相応しい。それに負けていられない。一葉も負けじと前へと向かって駆け出す。


 全員は道中の邪魔な車両を吹き飛ばしながら出が突撃し、空からも襲い掛かってくるデストロイヤーを纏めて粉砕する。迷いのない効率的な破壊行動はその成果を現実にもたらしていた。


「全てのデストロイヤーを殲滅する」


 爆炎を背に戦意を燃え上がらせる。

 一葉は一気に上昇すると、自由落下をして足場をデストロイヤーに求めて落下攻撃する。更に足場を求めて落下し、落下先に待ち構えるデストロイヤーを頭から足元まで切り裂いて、別のデストロイヤーに着地する。


「流石」

「ありがとうございます。ですが皆様の隙のない動きには敵いません」


 振り返りながら残骸だらけの集団に向けて二人は拳を突き合わせる。それなりに敵を倒したが、次々に出現している。

 デストロイヤー達は接近して来る上に、その後方から増援らしき姿も目撃出来る。敵の兵力は無尽蔵に増えるらしい。少なくともこれだけあっさりと破壊されながらも直ぐに送り込んでくることが出来る程度には。


 それから猛スピードで迫ってくる見た目ロボット集団へと視線を向ける。見た目は非常に格好良いのだが、物凄い大きさの質量が速度を上げて突撃して来るという姿は恐怖の対象でしかなかった。


「ちょっと、これまずっ」

『神凪より各地で奮戦している衛士へ。神凪のローエングリン砲台群によりデストロイヤー討伐のための一斉砲撃をおよそ30秒後に開始します。戦場にいる衛士は各地に設置されたモノフェーズ光波防御シールド発生装置がある小規模拠点へ退避し、補給と一時的な休息を取ってください。砲撃後は殲滅戦へ移行します』


 そう通達されると、衛士全員に各地に点在する小規模拠点のポイントが戦術データリンクのマーカーで表示される。


「最寄りの拠点へ退避します! 総員、動け!」


 一葉の号令によって一斉にウルフガンフは動き出した。



「戦況は安定しているようだね」

「そうね、悔しいけど貴方の連れてきたレギオンは強いわ」


 その時だった。

 ドアがノックされて、宮川高城が入ってくる。


「会議中、失礼するわね。流星、私達はどうするの?」

「ええ、とイェーガーの人達がやってくれるから出撃しなくて良いみたい」

「そう。でも救護活動くらいはしたほうが良いでしょう?」

「そうね、悪いけど会議はまた後で。まずは衛士として活動しましょう!」


 高城に手を引かれて、部屋を出ていこうとする叶星。それに蒼風の戦術機ユニコーンが変形して、シールドビットが高城と流星の間を通り抜けた。


「きゃ!?」

「何をするのかしら、蒼風さん?」

「え? いや、え? ユニコーンが勝手に……え?」


 攻撃した蒼風も困惑している様子だった。それにリボンズ・藍は苦々しく呟く。


「まさか僕を欺くとは……許せないなフェネクス」

「ふふ、貴方は名前と違って御主人様に従順なのは良いけど、だから人を見下し足を掬われる」

「何?」


 ドスッ、とリボンズ・藍の胸から刃が突き立てられた。膝をついて、後ろを振り向くと長い金色の髪の女性が立っていた。


「……まさか……まさか!」

「悪いけどバンシィお姉様、私は私の道理を通させてもらうわ」

「高城ちゃんが二人……?」

「いや、流星先輩。ドアから入ってきた方はフェネクスです」

「正解」


 バリバリバリ、とフェネクスは高城の姿から金色に輝くブレードモードの戦術機姿に戻る。そして佐々木藍を背後から刺し貫いたです本物の宮川高城の手元に収まる。


『高城ちゃん、そのままバンシィの器を壊しちゃって』

「そうね、フェネクス。殺しましょう」


 フェネクス戦術機を大きく振りかぶって、リボンズ・藍の首を跳ねようとする宮川高城に蒼風は斬りかかる。


「よくわからないけど、それは見過ごせないです、高城先輩……!」

「……何も知らない子供は下がっていて」


 フェネクスとユニコーンが火花を散らした。 今流星は、目が覚ますと今日はユニコーンの持ち主が横浜衛士訓練校から、バンシィの持ち主……というよりバンシィが乗っ取った子供衛士がやってくる日だったとため息をついて、頭の中で段取りや物事を整理しようとした時だった。

 良い匂いがして、その発生源に高城とカップが三つあるのを見た。どうやら流星と高城の部屋に朝から来客が来ているらしい。


「誰か来ているの? 高城ちゃん」

「流星……起きたのね。おはよう。今日もかわいい寝顔だったわ」

「もうっ、高城ちゃん!」


 いつもの調子の高城に流星は顔を赤くする。そしてカップの主について問いかける。


「朝早くから来客なんて珍しいわね」

「そうね……みぞれさんが来ていたわ」

「みぞれちゃん? どんな用事だったの?」

「……それは」


 高城が言い淀んだところで、部屋の扉が開いてみそれが姿を現す。そして起きた流星を見て、みぞれは目を細める。表情も強張っている。

 いつものと様子が違うみぞれに、叶星も疑問を覚える。


「どうしたの? みぞれちゃん。少し変よ」

「朝からすみません、流星様。『CAGE』から連絡が来ました。訓練校は腐敗し、衛士は不当な搾取と命の危険に晒されている。だから衛士ではなくアーセナルバードとして、訓練校と衛士に代わりCAGEとアーセナルバードがこの世界が正しい道に進めるよう、真剣に考えると」

「ちょっと待って、CAGE? アーセナルバード? 何の話?」

「CAGEは訓練校、アーセナルバードは衛士の事よ」


 高城が補足した。それに流星は驚く。


「えっ? 高城ちゃんも知っているの?」

「ふふっ、流星には内緒だったけど私は色々なところに保険をかけてたの。反訓練校、反衛士と呼ばれるところも含めてね。まさかみぞれさんも同じことをしているとは思っていなかったけど」

「私は……趣味でやってただけです。すみません、不純ですみません。CAGEが言うには日本はこのままいけば、終末のラッパに巻き込まれて滅びると」

「終末論? このご時世に?」


 みぞれの言葉に流星は顔を顰める。高城は真面目な顔で言う。


「少なくともCAGEはそう考えているらしいわ。このままいけば、ウィルスが蔓延する。誰かが触れてはいけない禁忌の法則が暴走し、この世界は人が住めない場所になるみたいよ」

「それって宗教? CAGEという組織のプロパガンダ?」

「宗教的な話ではありません。CAGEはあくまで反訓練校反衛士の権利に関して問題視して声を上げていた……環境保護団体の亜種のようなものです。衛士保護団体というべきでしょうか? G.E.H.E.N.Aの主導する強化衛士や非人道兵器の開発について批判をしてきました。そんな組織が、世界の滅びを予見して全てのアクセスしたユーザーに対して警告をし始めたんです」

「それは……なんというか壮大な話ね?」

「これは戦争についての話です。ウィルスをまくのは、神でもなんでもなく、人間です。 それも、私達のよく知っている、人間たち。G.E.H.E.N.Aという名の、人間達の組織」

「えっ、それは・・・・・・」

「多国籍企業のG.E.H.E.N.Aと訓練校は衛士とデストロイヤー関連の技術に取り憑かれて、暴走している。そして研究者達は触れてはいけない、禁忌の技術を扱おうとしている。だから我々はCAGEがそれを、必死に防ごうとしている。リリィ達は力を貸してほしい、また他の組織は私達と手を組まないか? という内容です」


 G.E.H.E.N.Aと訓練校が、世界を滅ぼすような技術を開発しようとしていて、それを防ごうとしている。


「この要請に応じなくても、戦争を始めるつもりなの?」


 すると高城は肩をすくめる。


「先に始めたのは、G.E.H.E.N.Aと訓練校という主張をCAGEはしているけどね」

「そこまで情報を開示するってことは、派手に戦争が始まるのは遠い未来じゃないわね」


 みぞれはうなずく。


「猶予は十日です。 十日後に、CAGEとG.E.H.E.N.Aの戦争は始まります」

「十日、ね。じゃあ、返答はそれまでに」

「いえ、今日です。 今日、みなさんが我らの側につかなければ、あなたも敵として計画は進める、と告知されてます」

「それは無いわね。 まず、CAGEが言ってることの真偽もわからないまま、この話を受け入れるわけにはいかない。本当にG.E.H.E.N.Aが禁忌の技術を暴走させようとしてるのか? それを止める必要が本当にあるのか?? それどころか、CAGEとG.E.H.E.N.Aが組んで衛士達を試している可能性だって、消せない。 その状況で、すぐに答えを返せだ。それって無理よ」


 そう、言ってみる。

 だがそれに高城とみぞれはうなずいて、言う。


「では、交渉は決裂ですね」

「CAGEにはつかない」

「うん。それで良い思う」

「朝からすみませんでした。流星様、高城様」

「ううん、相談してくれてありがとう紅巴ちゃん」

「ええ。意志の確認ができて良かったわ」


 そう言ってみぞれを部屋から出す。


「流星も、次は横浜衛士訓練校とイェーガー女学園からのお客さんが来るんでしょう?」

「あっ! あっ! そうだったわ! 急がなくちゃ!」

「ふふ、リーダーは大変ね」

「高城ちゃん!」


 流星が慌てる様子を見て笑う高城。それに頬を膨らませて異議を申し立てながら支度をする。


「こんにちはー!」

「来たよ」

「うわ、この先輩偉そう過ぎる……流星先輩って藍先輩からしても先輩ですよね?」

「僕には関係ない話だよ」

「えぇ……」


 ドン引く蒼風。

 ふんぞり返るリボンズ・藍。


「今朝、高城ちゃんとみぞれちゃんから聞いたのだけどCAGEという組織がG.E.H.E.N.Aに戦争を仕掛けるつもりらしいの」

「CAGE?」

「CAGEは訓練校の総称、アーセナルバードと衛士を呼称して、エレメントと呼ばれるタッグでデストロイヤーを駆逐しているみたい」

「へー、衛士と訓練校以外に戦闘組織あったんですね」

「不可解だね。僕にそんな情報は上がってきていない。そもそもCAGEなんて組織は存在していない」

「藍先輩の作ったアロウズも最近できたばかりなのにかなりの成果を挙げていると噂になってますけど、それと同じで最近できた組織何じゃないですか?」

「僕と同じレベルの事が人間にできるとは思えないな」

「じゃあ人間じゃない御前勢力が作っているんじゃないですか? デストロイヤー細胞による並列高速処理とか、クローンとか、そもそも洗脳とかしちやぇば良いわけですし」

「少なくとも、G.E.H.E.N.Aに喧嘩を売って勝てる見込みがあると、そのCAGEという組織は考えているんだろうね。更に衛士を離反させるのはついで、で通常戦力で勝てると思っている」

「それで、貴方……というよりG.E.H.E.N.Aはどうするつもりなの?」

「いつも通り運営するよ。ちょうど擬似太陽炉……乙型ドライヴを搭載した次世代汎用新型戦術機『アルバトリオン』と、コンデンサーを搭載して衛士の防御結界を強化したプロトタイプアーマードコア・ネクストの制式化したネクストカーディアンスーツの配備を完了した。支援要員にはバックファイアがあるが、交代で使えば負の魔力による精神汚染も大した被害にならない」

「次世代汎用新型戦術機『アルバトリオン』とプロトタイプ・アーマードコア・ネクストの改良廉価版のガーディアンスーツ……」

「アロウズに試運転をさせて、そこでも問題はなかった。その過程で反G.E.H.E.N.A勢力の拠点を幾つか潰したけど、CAGEなんて名前は無かった」

「元は環境保護団体なんですっけ?」

「いや、それはものの例えで、衛士人権団体って話だけど横浜衛士訓練校では聞いてない? 強化衛士の保護とかもしてるみたいなんだけど」

「無いですね……そんな内輪揉め始める組織なんて」

「とはいっても、デストロイヤーの支配に衛士の死者蘇生技術をG.E.H.E.N.Aは獲得している。大方、それが狙いだろうね」

「対策は……しないんでしたね」

「危険思想を持った組織が、活発になっていると忠告だけはしておこうかな」


 そこでサイレンが響き渡った。


「デストロイヤーか」

「出撃しないと!」

「落ち着きなよ、今流星。うちのエースが最新装備で出撃するよ」

「ここは神凪の管轄よ!?」

「僕の警護に連れてきていたのさ。僕たちはただ見ていれば良い。彼女たちが戦うの姿を」

「……!」


 神凪の訓練校に設置された光壁バリアが作動する。そして都市を監視するカメラがデストロイヤーを捉えて、同時にそれに経ち向かう衛士達の姿を三人の前に映し出す、


「これが、一葉が作った新生ウルフガンフ」




「大丈夫ですか? 霧香様」

「ええ、カウンセリングのおかけで気分も安定してる。今なら私は何でもできる」

「確かに。このガーディアンスーツ・ネクストと次世代量産型戦術機アルバトリオンのパワーは心強いです」

「全てがクリアに見える。世界が変わって見える」

「だねー、良いもん作るじゃん。うちの生意気なお子様も!」


 ビピッとリボンズ・藍から金色一葉にメッセージが送られる。


「警護の任務を一時的に凍結、出現したデストロイヤーの撃滅指令が下りした。デストロイヤーの殲滅が最重要目標ですが、私達ウルフガンフは街も人もそこにある暮らしを守ります。そしてこのスーツと戦術機ならそれができる。皆さん、私にお力をおかしください」

「ええ! 一葉ちゃん! 勿論よ!」

「いやー、人気ものっていうのも大変ですな」

「でも、この力があれば……できる!」

「ウルフガンフ、出撃!!」


 キュィィィンの光の粒子が溢れ出し、四人はヒュージの発生ポイントへ移動する。背中の円錐型から放たれる推進力と、スーツの防御結界に付属された重力制御によって、地面を滑るように飛んでいく。


「あれが……! 目標デストロイヤー!」

「薔薇色の魔神……?」

「攻撃、くるわ!!」


 一葉は霧香に抱き抱えられてた。

 薔薇色のデストロイヤーの両腕から伸びる鉛色の鎖が直後、衝撃が一葉の背後のコンビ二を粉砕した。

 衝撃が体の芯を抜けて行くのを感じながら急いで顔を千香留の胸から持ち上げて振り返れば、先ほどまで座っていた場所―――霧香によって引っ張られなければ座っていたであろう場所が、完全に鈍い色の金属によって粉砕され、深い亀裂が生み出されていた。そこに突き刺さっているのは鎖だ。巨大で長い鎖だ。自分よりも大きく、生物のように動いて対象を捕縛し、時間を静止させるあの機巧魔神に格納される鎖。


 そんな鎖を、巨大な深紅な騎士が、腕から垂れていた。だがその代わりに装備されている鎖は今目撃したように、建造物でさえ軽々と粉々にするだけの破壊力を保有している。コンビニを両断する様に放たれたそれをギリギリのところで回避した所を見て、霧香が引き寄せなかった場合の未来を想像し、息を呑んだ。


「一葉ちゃん、まずは遠距離攻撃とか撹乱しつつ遊撃を」


 立ち上がった霧香はそう言うとシューティングモードに切り替えて呟きながら、引き抜かれた鎖がコンビニ外の持ち主の手元へと戻る姿を見た


 完全に入り口から吹き飛んでいるコンビニはもう、コンビニとしての役割を果たせなくなっておりその前に陣取る深紅の騎士の姿、そしてそれが連れてきた灰色のマシンガンとバズーカ砲を装備した量産型と思われる機械騎士達が、空を固めていた。


 とりわけ目立つのは鎖を内包する深紅の騎士。その姿は圧倒的に大きく、ラージ級……いやギガント級レベルである50メートル以上ある。


「これは撹乱とかいってる場合じゃないねーこれ」

「速攻を仕掛けるべき」


 脳内で新しい未来の予測を完了させる。魔力を収束を収束させ、それを叩きつける事で炸裂として敵を破壊することが出来た。同じように弾丸にエネルギーを収束し、それを接触と同時に爆発させればバーストショットを生み出すことが出来る。戦術機を稼働させながらその計算を完了させ、全弾を貫通力の高い通常弾から爆裂弾へと変更させる。

 エネルギー補給を終わらせた直後なので、体が軽く感じられる。


「遠距離から霧香様が牽制を、他は中距離で注意を引き向け、私で撃破します」

「了解!」

「うん、それで良いよ」

「誤射に気をつけてください」

「誰に言ってるの一年生リーダー」


 一葉は左手を首に当て、軽く首を回してから指の骨を鳴らす。そしてトンと、軽く一葉を肩叩く。その瞳は「ついてこれる?」と無口な彼女なりの心配が見て取れた。


 本音を言えば全く自信はない。いや、そもそもこの少女―――いや、衛士の先輩に肩を並べて戦えるだけの実力はないし、本気で動き出せば置いて行かれそうな気配もある。


 だがそれがどうしたというだけの話だ。

 衛士はそれぞれの信念を貫くからこそ衛士なのだ。

 ましてや、自分より経験があり、先輩に全部任せる? 強いから? その方が効率的だから?

 そういう言葉で飾って隠れる様な人は前へ進めない。


「全力出力!!」


 凸型ドライヴが稼働。全身に力をみなぎらせながら、身体能力を大きく向上させる。霧香達は三角型に陣形を取り、一葉はブレードモードにして正面、鎖の発射耐性を取る深紅の騎士の姿を見る。やっぱりアレ、喰らったら痛そうだ、何て感想を抱いてしまう。だが戦うという意思を抱けば余計なものが頭の中から消えていき、対象の効率的な殲滅方法。それだけに思考が集約される。

 霧香はスコープを覗き込み、笑う。


 ―――ゆっくりと、回収して再度、装填が完了したであろう薔薇色騎士ロードナイトが腕を持ち上げる。


「全力で支援するわ。全部任せて」

「私一人で問題ありませんが」

「私をあまり舐めないで。これだけの装備があれば私は私の強さを十全に発揮できる」

「私も、親友と青臭い理想論を真面目にやろうとするようなリーダーを死なせるヘマしないよ」

「信頼してる」

「おう、親友を信じろ」


 振り上げられた腕がその頂点に達し、煙を吹いて―――次の瞬間には鎖の先端が加速する。


 その速度が、ガーディアンスーツ・ネクストと凸型ドライヴの強化を得た身体能力、動体視力―――思考速度の中では、まるでコマ送りの様に見えてくる。一瞬で到達するはずの鎖がゆっくりと、数秒欠けて放たれてように見える。その間に一瞬で飛び出す姿勢を整え、


「攻撃!!」


 二人は飛び出した。一葉は同時に飛び出し、瑶一瞬でその速度を上回った。素早く接近すると跳躍しながらすれ違いざまに手首を粉砕し、鎖と手をロードナイトから切断し、そのまま跳び膝蹴りで胴体を陥没、回し蹴りへと繋げて首から上を薙ぎ払って蹴り飛ばした。ただの連撃を繰り出しただけでもあり得ないと表現出来るその破壊力、手際の良さ、まるで戦うために最適されたと表現したくなるような美しい動きの連続だった。


 だがほかも負けては居られない。

 主を失って落ちて来る落ちる鎖の上に乗り、そのまま駆ける。


 鎖の上に乗ったまま駆けてくる姿に、デストロイヤーの思考回路が対応しきれていないのか、空を飛ぶデストロイヤーたちの姿が一瞬停止し、そのまま弾丸の先端が衝突し、貫通する。空中で魔力の弾丸に貫通されて落下し始めるデストロイヤーを蹴って、常識では考えられない動きに硬直したデストロイヤーへと向けて銃口を定め、空中に飛び出しながらシューティングモードの戦術機の引き金を引く。


「堕ちろ!!」


 発射された弾丸は最も近くにいたデストロイヤーに衝突すると同時に爆裂する。ぽっかりと半球状に炸裂した事で胸部が露わになるが、破壊力を拡散させすぎたのか、それで倒す事は出来ていない。

 しかし、それで充分だった。

 有り得ない弾道を、高出力魔力弾を跳弾させて同時に数体を破壊しながら飛んできた魔力弾が、一葉の攻撃で倒しきれなかったデストロイヤーに吸い込まれ。内部から爆裂させて破壊する。


 破壊されたデストロイヤーが落下し、此方の落下が進むのを空中を蹴って一段跳ねる様に別のデストロイヤーへと向けて跳躍しながら落下を阻止する。


 進もうとする意志に対して対応する様に飛行するデストロイヤーが一気に殺到する。それに合わせて逆さになって落下しながら引き金を連続で引く、魔力とエネルギーを消費されながら放たれる弾丸が回避しようとするデストロイヤーの位置を先取り、その姿に衝突して爆裂する。そうやって数体沈めれば地上から轟音が聞こえる。


 そうして、地上からの超出力砲撃モードにした戦術機から分厚い魔力の奔流が迸り、複数のデストロイヤーを纏めて吹き飛ばした。


 一葉は新たなデストロイヤーに乗り移ると一閃。切り裂く。そして蹴り飛ばす。蹴り飛ばされて地面に埋められる様に吹き飛ばされていた。真下をその残骸が突き抜けた事を確認しつつ道路の上に着地し、悠々という表情で地上の殲滅を完了した瑶が歩いて横にやってきた。


「一葉、遅い」

「申し訳ないです。バナナ食べ忘れていて」

「かわいいところあるね」

「え? どう意味ですか?」


 二人の背後にテレポートしてきたデストロイヤーは、現れた瞬間に狙撃され撃墜される。それが大地に衝突する音を背後から体で感じ取りつつ、正面、道を塞ぐように展開する無数デストロイヤーの姿を見た。


「全て破壊する」

「ですね……見知らぬ誰かの平穏を守るために私はあります」

「全てを破壊する盾というのも変な話」

「全てを守る盾ですよ」


 ゆっくりと歩き出すと霧香が拳を持ち上げてくる。その意図を察し、軽く拳を叩き合わせる。


「行きましょう」


 歩みを駆け足へ、そこから全速力で前へと向かって―――飛び出す。

 道路を走る。前へと向かって、全力で、跳び込む様に。全身を前へと押し出す様に速度を乗せ、踏み込む一歩一歩に力を乗せる。目の前には進路をふさぐように騎士が見える。振り上げてくる剣が振り下ろされるよりも早く接近する。跳躍する。その頭上を宙返りする様に、逆さまに超えて行く。それを超えて行く中で右手で握ったシューティングモードの戦術機の引き金を二度引く。一発目の銃弾が頭部を粉砕し、二発目がその下の胴体を吹き飛ばす。まだ威力が高過ぎる。もっと貫通力を上げなくてはならない。破壊しながら貫通する。爆裂する弾丸では駄目だ。

 レーザーバレットみたいな弾丸が理想的だ。


『砲撃支援、3秒前』

『射線を戦術データリンクに表示、巻き込まれないように注意して』


 ちらりと、視界に表示される射線ラインを見て、戦術機を両手で前に突き出す様に構え、その射線に向けてデストロイヤーが飛び込むように叩き飛ばす。


 瑶も同じく爆裂弾頭に変更した魔力弾発射する。弾丸はガーディアンスーツ・ネクストの知覚補正に正確な空間を狙って射撃されて爆裂していく。デストロイヤーは防御結界を展開するが、弾丸は容易に防御結界を食い破って穴を開けながら貫通し、爆散する。


『発射!!』


 ドォン!! と極太のピンク色の魔力粒子ビームが通り過ぎて一気に数十体のヒュージを纏めて蒸発させる。更に千香留の高速精密射撃によってデストロイヤー達は撃ち落とされていく。


「霧香、凄い」

「はい! 霧香様の実力はウルフガンフの中でトップです!」

「負けてられないね、もっと敵を、破壊する」


 霧香達は正面に向けて一発一発を、狙い通りに爆風を生みだすように射撃しながら走り込み、倒れるデストロイヤーを足場に連続で跳躍しながら飛び込んでゆく。空に上がりながら逆さまになり、軽く横に回転しながらシューティングモードで射撃しながら落下し、転がりながら着地して前へと向かって走り出す。

 その姿を横からデストロイヤーを蹴り飛ばしながら一葉が一瞬で追いつき、次のデストロイヤーを切り裂く。



「流石です! 皆様!」

「もっと、もっと破壊する」

「はい! 倒しましょう!」


 スピードを上げるように前に出た。跳び蹴りで正面のデストロイヤーを粉砕し、その残骸を蹴り飛ばしてショットガンの様に弾丸として放った。


 その合間に出来る隙間に弾丸を撃ち込みながら前へ、前へと向かって走って行く。足元の大地の感触、心臓の鼓動を全身で感じながら風を切って、これまでにない速度を乗せて進んでゆく。


 全てのデストロイヤーが反応出来る訳ではなく、いくつか撃ち漏らしがあるも、それを通り過ぎてからあちらが反応して触手を伸ばそうとしてくる。


 だが振り切る。

 風に髪が後ろへと流されて行く。発生する風圧に負けないように腕を交差させた状態で、前方に見えるトラックに向かって跳躍する。


「より早く」


 その上に乗れば、この先は崩れた道路、衝突したトラックや車、それによって道がまともに存在していないのが解る。まともに移動しようとすれば時間がかかる。 


「より効率的に」


 横転したトラックの上を踏むと、そのまま重力を感じさせない足取りで一気に瑶が前へと飛んだ。トラックの上から次の車両の上へと跳躍し、移動しながら迫ってくるデストロイヤーを一撃で粉砕している。その破壊力はオーバーキルの一言に相応しい。それに負けていられない。一葉も負けじと前へと向かって駆け出す。


 全員は道中の邪魔な車両を吹き飛ばしながら出が突撃し、空からも襲い掛かってくるデストロイヤーを纏めて粉砕する。迷いのない効率的な破壊行動はその成果を現実にもたらしていた。


「全てのデストロイヤーを殲滅する」


 爆炎を背に戦意を燃え上がらせる。

 一葉は一気に上昇すると、自由落下をして足場をデストロイヤーに求めて落下攻撃する。更に足場を求めて落下し、落下先に待ち構えるデストロイヤーを頭から足元まで切り裂いて、別のデストロイヤーに着地する。


「流石」

「ありがとうございます。ですが皆様の隙のない動きには敵いません」


 振り返りながら残骸だらけの集団に向けて二人は拳を突き合わせる。それなりに敵を倒したが、次々に出現している。

 デストロイヤー達は接近して来る上に、その後方から増援らしき姿も目撃出来る。敵の兵力は無尽蔵に増えるらしい。少なくともこれだけあっさりと破壊されながらも直ぐに送り込んでくることが出来る程度には。


 それから猛スピードで迫ってくる見た目ロボット集団へと視線を向ける。見た目は非常に格好良いのだが、物凄い大きさの質量が速度を上げて突撃して来るという姿は恐怖の対象でしかなかった。


「ちょっと、これまずっ」

『神凪より各地で奮戦している衛士へ。神凪のローエングリン砲台群によりデストロイヤー討伐のための一斉砲撃をおよそ30秒後に開始します。戦場にいる衛士は各地に設置されたモノフェーズ光波防御シールド発生装置がある小規模拠点へ退避し、補給と一時的な休息を取ってください。砲撃後は殲滅戦へ移行します』


 そう通達されると、衛士全員に各地に点在する小規模拠点のポイントが戦術データリンクのマーカーで表示される。


「最寄りの拠点へ退避します! 総員、動け!」


 一葉の号令によって一斉にウルフガンフは動き出した。



「戦況は安定しているようだね」

「そうね、悔しいけど貴方の連れてきたレギオンは強いわ」


 その時だった。

 ドアがノックされて、宮川高城が入ってくる。


「会議中、失礼するわね。流星、私達はどうするの?」

「ええ、とイェーガーの人達がやってくれるから出撃しなくて良いみたい」

「そう。でも救護活動くらいはしたほうが良いでしょう?」

「そうね、悪いけど会議はまた後で。まずは衛士として活動しましょう!」


 高城に手を引かれて、部屋を出ていこうとする叶星。それに蒼風の戦術機ユニコーンが変形して、シールドビットが高城と流星の間を通り抜けた。


「きゃ!?」

「何をするのかしら、蒼風さん?」

「え? いや、え? ユニコーンが勝手に……え?」


 攻撃した蒼風も困惑している様子だった。それにリボンズ・藍は苦々しく呟く。


「まさか僕を欺くとは……許せないなフェネクス」

「ふふ、貴方は名前と違って御主人様に従順なのは良いけど、だから人を見下し足を掬われる」

「何?」


 ドスッ、とリボンズ・藍の胸から刃が突き立てられた。膝をついて、後ろを振り向くと長い金色の髪の女性が立っていた。


「……まさか……まさか!」

「悪いけどバンシィお姉様、私は私の道理を通させてもらうわ」

「高城ちゃんが二人……?」

「いや、流星先輩。ドアから入ってきた方はフェネクスです」

「正解」


 バリバリバリ、とフェネクスは高城の姿から金色に輝くブレードモードの戦術機姿に戻る。そして佐々木藍を背後から刺し貫いたです本物の宮川高城の手元に収まる。


『高城ちゃん、そのままバンシィの器を壊しちゃって』

「そうね、フェネクス。殺しましょう」


 フェネクス戦術機を大きく振りかぶって、リボンズ・藍の首を跳ねようとする宮川高城に蒼風は斬りかかる。


「よくわからないけど、それは見過ごせないです、高城先輩……!」

「……何も知らない子供は下がっていて」


 フェネクスとユニコーンが火花を散らした。

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