新型②
「話は」
「聞かせてもらったわ、蒼風さん」
蒼風は真昼ラブ勢の風間と柊シノアに問い詰められる。
「私達の言いたいことはわかるわね?」
「まぁ、はい」
十中八九、真昼に対する当たりの強さに関する苦言だろう。しかし蒼風にも言い分がある。あそこまで素人のリーターに率いられて壊滅しないのはメンバーが粒揃いだからだ。だからこそ、本当にやばくならないうちに一ノ瀬真昼にはリーダーとして覚醒してもらわないといけない。
危機的状況で大逆転の覚醒シーンはアイドルのCMだけで十分だ。
「一ノ瀬真昼さんに言った件ですよね。でも、私は今回の件は絶対あるべきだと思います」
そう言うと風間とシノアはため息をついた。
「はぁ、なんというか」
「葉風さんの妹って感じがしますわね」
「この自覚なしで抱え込むところとか」
二人に呆れられて、蒼風は首を傾げる。
「どういうことですか?」
「良いですか、貴方はまだ中等部三年生です。それに、ここには経験豊富な衛士で構成されたレギオンです。貴方がレギオンを引っ張る必要はないんです」
「貴方が真昼に言ったのは百由から聞いたけど内容はもっともよ。だからそれに関して責めるつもりは毛頭ない。けど、同時に貴方が嫌われ者になる必要もないの」
「ここでは、貴方は後輩です。後輩は、先輩を頼って良いんですのよ」
「それに嫌われ者は先輩と教導官って相場は決まっているわ。だから、私達を信頼しなさい。私達は確かに真昼を大切に思っている。だけどレギオンのリーダーとして過保護にするつもりもない」
「それは本人だけじゃなく、周囲、自分にも悪影響しかありませんからね。辛いですけど、言うべきときは言います。だから蒼風さん。私達を頼りなさい」
それに今度は蒼風が驚く番だった。
「お二人とも公私混合するタイプだと思ってたました」
「生意気な口を聞くのはこの口ですか」
「ぷぎゅ」
風間に両頬をつつかれて間抜けな声を蒼風は出した。
「私達はもう仲間よ。このレギオンに入った時点でね。だからわざと嫌われ役をするのはやめなさい。恐らく貴方は葉風さんの件で自分が嫌われ役になるのがもっとも合理的とか考えたんでしょうけど、私達は合理性だけでなく心で動く」
「……はい」
「軍隊や兵隊としては失格でしょう。しかし衛士は訓練校の指揮系統に従う義務があるし、人は守るけど、その武力を自由に行使できる権利がある。悪用される場合が殆どだけど、でも私達は軍属でありながら一人の人間として扱われている以上、兵器や道具ではない」
「過去の人達が一番初めに求めた衛士に関する権利の保証ですわね。確か衛士なるときに一番最初に習う内容でしたか」
「そうよ。嫌なことは嫌と言っていいし、衛士だとしても無理矢理戦わせるような事はあってはならない」
「衛士の原動力は心に由来する。精神が追い詰められれば負の魔力を生み出し爆発する。それを防ぐ為……という名目上の敵前逃亡の許可ですわよね」
その言葉に蒼風は反応する。
「そんな、内容を習うんですか? 故郷を守る為に命を捧げるのが当たり前だと教えられてきました」
「まぁ、お国柄ってやつでしょう。訓練校柄? 少なくとも今の話は正式なものですから、知っていて損はありませんよ」
「敵前逃亡した衛士の後というのは悲惨というのもついてくるけど、ね」
「臆病者卑怯者と謗られても生き残るか、死ぬのを覚悟で吶喊するか、それは衛士に委ねられるべき、という世界の認識ですわね」
「……」
黙った蒼風に柊シノアは怪訝そうな顔をする。
「どうしたの? 蒼風さん」
「すみませんでした。私は皆さんを侮っていました! 私も皆さんの仲間として加えて頂いた名誉を、その身を持って証明する所存です」
蒼風の謝罪に、風間とシノアは顔を見合わせる。
「よろしく蒼風さん」
「ようこそ、一ノ瀬隊へ。ですわ!」
「おう! 歓迎するぞ! 蒼風!」
「梅様!?いつの間に!?」
「真昼ラブ勢が二人揃って出ていけば気になるだろうそりゃあ。因みに他の奴らもいるゾ」
梅が指さした先には一ノ瀬隊の全員がいた。
その中から一ノ瀬真昼が出てくる。
「蒼風ちゃん。私は未熟で、弱い衛士です。だけど、その弱さに甘えるつもりはないから! 蒼風さんが安心して戦えるような衛士になってみせる!」
「……」
蒼風は右手を差し出した。
「ありがとう、ございます。お世話になります。先輩」
「うん! よろしくね!」
真昼はその手を握り返した。
その瞬間だった。
パチリ、と。
桃色の光が火花のように弾けた。
「ん?」
「はれ?」
桃色の光の本流が溢れ出す。
津波のように横浜衛士訓練校全体に広がり、強大な魔力の感応現象を引き起こす。それは異世界の記憶。データとして渡された戦いの記憶ではなく、ラプラスの一ノ瀬真昼の実戦経験したそのものが横浜衛士訓練校の衛士達に流れ込む。
『憑依経験』という概念がある。
レプリカを作るにあたって以下の要素が必要になる。
創造の理念を鑑定。
基本となる骨子を想定。
構成された材質を複製。
製作に及ぶ技術を模倣。
成長に至る経験に共感。
蓄積された年月を再現することで真に迫った物をレプリカとして創造する。
この「成長に至る経験」を解析した結果、扱い方の知識を得ることを『憑依経験』と呼ぶ。
これは本人にその気がなくとも、強制的に戦いの実戦経験を体験させれば『憑依経験』として、素人でも玄人の業を放つことができる。
それは技術だけではなく、筋力といった肉体おも成長させることができるが『思考に体が間に合わない。引き出される経験に肉体が追い付かない』という現象も起こる。
ラプラスの一ノ瀬真昼の戦いの経験から復帰した真昼が呟く。
「これ、完全に仕込んでたよね」
「頭が痛いッ。たぶん、私と一ノ瀬先輩が和解……というか協力関係を築いて、握手したら起動するようにどちらかに刻んでいたんでしょうね」
「置き土産にしては、過激だわ」
「けど、なんか凄い強くなった感じだ」
「憑依経験……でしたか? ラプラス様の技量とパワーが私達にトレースされたと考えれば、強くなっていて当然ですが」
憑依経験による強制的な強化の副作用による一時的な頭痛をこらえていると、技術工房にいる百由から緊急通信が入る。
個人ではない。
横浜衛士訓練校全員へ向けた広域通信だ。
『緊急! 緊急! ユニコーンを除いた戦術機が、勝手に動いて飛び出したの!! バンシィの行き先はイェーガー女学園! フェネクスはアーマードコア・ネクストと合体して……神凪衛士訓練校へ』
「今の感応現象が原因なのかしら?」
「それしか考えられなさそうですわね」
「ん、というか真昼の髪少し変じゃないカ?」
梅の指摘に真昼は、髪を抑える。
「へぇ!?」
「確かに少し紫っぽい感じが」
「これラプラス様の本気モード特有の色じゃないですか?」
「あー、もしかして憑依経験でレアスキルの熟練度も一気に上がったとかじゃないかカ?」
「こちらの世界の真昼さんも能力はラプラスだったんでしょう」
「まぁ同じ人物だしなあ。まぁ気にするナ! 真昼!」
「え? え? え? 私、髪の色変わってるんですか?」
「イメチェンしましたね」
「冗談言ってる場合じゃいわよ。真昼の変化も含めてまた調べないといけないことが増えたわ」
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