新型①
横浜衛士訓練校の決定がした内容は『非人道的な情報』以外の開示だった。
主に『赤い雨』、『衛士を襲撃するデストロイヤーと融合した女性』、『衛士の負担にならない量産型の第4世代から第4.5世代の戦術機技術』『異世界型デストロイヤーの情報』を公表した。逆に情報を封じたのは『強化衛士手術』関連のものだ。
地下工房総合評価実験室21号室。
中央には異世界型戦術機の一つ、ユニコーン。
厳重に封印措置され、柄のみの形の戦術機。
それの前には技術者の他に複数の衛士が立ち会っていた。
「遅れました〜。一ノ瀬隊の蒼風です」
「はじめまして、蒼風さん。技術者兼衛士の百由よ」
「ああ、噂のマッドサイエンティスト。それで、何でここに呼ばれたんですか?」
「……まぁ私のことは置いておいて。この異世界型戦術機ユニコーンの起動実験に付き合ってほしいの。阿頼耶さん、貴方、そして真昼さんは適正があった。阿頼耶さんは三種のうち2号機のバンシィとマッチングした。あとは貴方達に起動できるか試したいの」
「わかりました」
まずは真昼が柄を掴む。そして起動する。しかし形態変化などは起こらず、シューティングモードとブレードモードに切り替わるだけだ。
確かに起動できて扱うには問題ないが、ラプラスのような通常の戦術機を超えた出力は出ていない。
「じゃあ、次」
蒼風は戦術機を持つ。すると柄を持った手から結晶のようなものが生えて、ユニコーン全体を覆い尽くす。そして全ての拘束が結晶と共に砕け散る。
起動したユニコーン戦術機は、緑色の光を放ちながら、ビームサーベルとビームマグナムの二つに分離していた。
ラプラスが使っていた高出力モードだ。
「わぉ、これは凄いわね! 適正数値が357まで上昇してる。根本的に考え方が間違っていたのね。エネルギー数値が高いから高出力モードになるのではなく、高出力モードを扱える衛士が使うからエネルギー数値も上がる。つまりこのこの戦術機は強い衛士が扱う武器のではなく、弱くても適正のある衛士を強化する増幅器ってこと」
「じゃあ私は駄目だったのでしょうか」
真昼は落ち込む仕草を見せる。
異世界の存在といえ自分が使っていた武器だ。しかも適性があり、弱いものを強化する機能ということは高等部から衛士になり、経験も技能も知識もない真昼にとって安易に強くなれるパーツに見えたのだろう。
それが見えたから、蒼風は少し強めに言った。
「一ノ瀬先輩、これは年齢関係なく衛士としての考え方を伝えるよ。私は葉風ねぇのことは今でも好きだけど、衛士としては失望してる。葉風ねぇは大好きで、憧れだったけど、どんな事情であれ状況であれ世界を守る剣と盾の衛士であるならば逃げちゃいけなかった」
厳しい言葉に誰も反論しない。衛士としてもベテランの域にある百由も、そこは何も言わなかった。
「問題があれば解決し、不満があれば解消しようと立ち向かわないと行けなかった。その責任から逃げた葉風ねぇは衛士として落第だ。でも、好き。二律背反は存在する。嫌いな相手でも尊敬尊重して良いし、好きな相手でも失望軽蔑するものなんだよ、私達は」
続けて、葉風は言葉を、紡ぐ。
「柊シノア先輩に憧れて衛士なり、その過程で自身がリーダーとなる一ノ瀬隊を結成した。そこまでは良いと思う。問題は、この一柳隊のレギオンにはどんな要素が必要か理解してるリーダーかどうか、です」
下準備はしています、と断りを入れる。
「一柳隊は強い人メンバーで構成されています。横浜衛士訓練校の至宝の風間さんを筆頭にお台場迎撃戦を生き残った二年生コンビ、諦観しつつも努力と最後まで戦う愛花先輩、強化衛士の先輩、技術屋と衛士を兼任する先輩、情報獲得できる二水先輩。そして、何もないリーダーの貴方」
それは自覚していたのか、梨璃は目をそらす。その場にいた技術屋や衛士達も、それ以上の言葉を言わせるべき、それとも止めるべきか迷った素振りを見せる。
「アールヴヘイムみたいな司令塔を味方に任せて火力で押し切るリーダーもいれば、ローエングリーンみたいな自身が司令塔となりレギオンメンバーを手足のように動かすスタイルもある。一ノ瀬隊のメンバー能力と自身の能力を鑑みて、どうなスタイルのレギオンにするか考えていますか?」
しかし、周囲は葉風の言葉を容認した。これは一ノ瀬真昼にとって避けられない問題だと判断したからだ。もし真昼を贔屓する人がいれば批判するような葉風の言葉を咎めただろう。しかしこの場にいるのは『未知の存在に対して対処、もしくは解析できる』と判断された大人の対応ができる人達だ。
それ故に、ラプラスと似ている一ノ瀬真昼には刺激や発破が必要だと考え、葉風の分不相応な物言いを許容した。
「レギオンメンバーの過失責任はリーダーの責任になります。それは上に立つ者の義務です。それ故に貴方は個人で敵を圧倒するタイプの強さを求めるのか、それともレギオン単位での運用を据えた司令塔として頭脳タイプのスタイルにするのか、それとも別のタイプのリーダーになるのか」
目をそらそうする真昼を捕まえて、葉風は止まらない。
「よく考えてください。貴方の仲間と自分の力。なぜ貴方はリーダーになったのか。なぜ貴方はリーダーとして認められたのか、貴方の力の方向性を示してほしい。それができない限り、この異世界型戦術機ユニコーンは、私が武力制圧用として使った方が良いでしょう」
葉風は戦術機ユニコーンを見せつける。
「少なくとも、方向性をわかっていない衛士に、これ以上重荷を背負わせるべきではない。ラプラスさんが別世界の貴方だから、一ノ瀬真昼が相性が良いのは認めますが、しかし性能を発揮出来るかどうかは別問題です。少なくとも一ノ瀬真昼とラプラス様では経験と精神性がまるで違うことを考慮するべきです。親和性が私にもあるなら、私のほうが上手く扱えるし、役に立てる」
一気呵成に言葉を言い尽くして、今度は優しく葉風は真昼に問いかける。
「そもそも、一ノ瀬隊のレギオンは何を目的としているんですか?」
「それは、お姉様がレギオンを作れって」
「言われたから作ったっこと? でもそれが出来たということは、それぞれに貴方のレギオンに魅力を感じたということ。じゃあ、その魅力って何? どうやってメンバーを勧誘したの?」
「普通に、お姉様の約に立ちたいって」
「なら、柊シノア先輩に魅力を感じたか、柊シノア先輩の為に頑張る一ノ瀬先輩に魅力を感じたんでしょう」
「私の、頑張る姿」
「自分より弱いやつが必死になってたら、頑張る気力が湧いてくる。そんなこともありますよね、先輩方」
それに百由は答えた。
「そうね。噂の疑問にはなっていのよ。何で一ノ瀬真昼なんていう初心者に大物が揃って入るのかってね。でも、他の衛士から聞いてると貴方は頑張る人なのよ。初心を忘れた人ほど眩しく映るでしょうね。ひたむきに諦めず愚直に努力する姿っていうのはね」
「つまり、それが先輩が一ノ瀬隊を作れた、一ノ瀬真昼の魅力の一つです。弱音を吐かず、弱気にならず、前を見て、踏ん張って、困難に立ち向かう無鉄砲な姿。それを応援したい、支えてあけたいから、貴方の仲間になったんでしょう」
「じゃあ、私はどうしたら良いのかな」
「それは……」
葉風は答えを言いかけたが、飲み込んだ。
「自分で考えてください。取り込ずこの戦術機私が使います」
そう言って、葉風は部屋を出ていった。
どうしたら良い?
そんなのはキマっている。自分に足りない部分を仲間に頼って教えてもらうなり、文旦するのが正解だ。しかしそれは本人が選ばなければ、気が付かなければ意味がない。
「さて、シノア先輩と風間先輩にボコボコにされるかな、こりゃあ」
真昼にラブな二人を想像して、葉風は苦笑いした。
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