新人②


「葉風ねぇ!!」


 廊下で愛花と仲睦まじく歩いている愛花と葉風を見つけると蒼風は大声で叫んだ。大声にくわえて制服も違えば、『ねぇ』という呼び方に一気に注目が集まる。


「え!? 蒼風? なんでここに!?」

「お知り合いですか?」

「うん、私の妹」

「まぁ、それはそれは。しかし何故横浜衛士訓練校に?   今は大変な状況ですから、どの訓練校も簡単に戦力を派遣できる余力はない筈ですが」

「ふっ、ふっ、ふっ、優秀だから横浜衛士訓練校を助けるように言われてきたんですよ!」

(あ、嘘ついた)


 大好きな姉の前で、サーチアンドデストロ戦術がうまくできなくてそれを学ぶためにやってきた、とは言い辛いんだろう。


「それで、私が短期留学と滞在の申請するために案内してたんだよ」

「うん! ラプラスさんのおかけで助かっちゃった! って、違ーう! 狂犬の復讐者! 愛花……先輩! 葉風ねぇに変なことしてないですよね!?」

「今あったばかりの初対面の先輩にそんな口叩けるメンタルどうなってるの。鋼のメンタルだよ」


 ラプラスを持ってもドン引きする。

 コイツ、頭おかしい部類のやつだ。絶対それが短期留学させた原因で、サーチアンドデストロイの教育のためとか外付けのハードカバーだ。


(でも、こういうタイプに限って健全に生き残るんだよねぇ)


 ラプラスの世界ではまともなやつから発狂したり、精神を病んだり、普通に殺されていった。どこか頭のネジが外れたやつは、当然のようにそんな死地を潜り抜ける。


 当然、ラプラスもそうだ。発狂して、一周して冷静になった結果、合理性の獣と化した。時雨様は加虐趣味や暗躍ムーブが異様に上手いし、天葉は姉妹誓約の契約のくすみとドロッドロに共依存してる上に衣奈とも関係を持っているし、衣奈は初期のG.E.H.E.N.A装備の運用の結果、後遺症が響いて人間性というか喜怒哀楽が無くなりつつある。


「蒼風!! 愛花になんてこと言うの!?」

「えぇ、だって」

「だってもじゃない!! 初対面の! しかも先輩! それに私の大切な仲間に!!」

「葉風ねぇが心配で」

「だからって……!」


 今までに見たことないほど激怒している葉風を見てラプラスは笑う。蒼風は色々な意味で常識外の行動を取る。

 そう、そう、この感じ。

 ラプラスにとっては馴染み深い、時雨お姉様の過激であり暗躍であり狂気的な行動に似ていた。


「葉風さん、落ち着いてください」


 愛花が雨嘉の肩に手を置く。


「愛花! でも!」

「はい。妹さんのその行動は褒められたものではありません。しかし、核心をついているのも事實です。私の行動が……周りからどのように捉えられているか良い機会になります」

「……そんな、今のは蒼風が完全に悪いよ」

「良いのです、葉風さん。確かに家族を皆殺しにされて故郷を焼かれた衛士に、故郷から毎日連絡するレベルで家族に愛されている衛士の姿を見せつけられたら、何か悪さをするかもしれないと、考えるのは至極真っ当なことです」


 愛花は蒼風をフォローしているようで、葉風への棘が含まれていた。ラプラスは愛花の内心を見透かす。

 恐らくこれは嫉妬だ。姉のために年上の衛士に噛みつける妹の家族愛。それを見せつけられて、愛花の嫉妬の炎が発火した。


「ですが、葉風さんも言うように先程の言葉は良くありません。威勢が良いのは衛士としては美点ですが、それによって当の葉風さんに被害を与える結果になりかねません。もう少し落ち着きましょう」

「……はい」

「私は確かに復讐をしたいと思っています。しかし、仲間を巻き込むつもりはありません。自分の問題には自分で決着をつけます。これは私だけの復讐ですから」

「愛花……」


 ラプラスは目を細める。

 自分の復讐は自分で完結させる。それは確かに真っ当だ。八つ当たりしたり、仲間を復讐の為の盾するよりはよっぽど健全だろう。

 健全である。王道と言っても良い。健全で王道ではあるが、それが正しいとは限らないのが復讐の難しいところだ。


 客観的な評価としては、愛花は戦闘技能、部隊での立ち回り、副リーダーとしての指揮能力。戦術の知識と理解も高く、戦闘での性格も未来予測や自身の戦力を正確に把握できる冷静さを持つ。


 通常時の性格も、人当たりもよく、優しく、温和で、正義のためにちょっと周りが見えなくなる欠点もある。更にモデルに選ばれるレベルの容姿とスタイルに恵まれ、悲劇的な過去と、努力を怠らない姿勢から市民からの評価も高い。


 横浜衛士訓練校を代表するような高水準で纏まった衛士、と言えるだろう。


 そんな彼女が、「復讐をしたい」、と言う。

 家族を殺された。

 故郷を焼かれた。

 それを取り戻すことはできなくても、自分の気持ちに決着をつける為に復讐をしたい。故郷を奪還して、家族の墓を作ってあげたい。

 私は、人生をかけて、それを目指す。


 そんなことを聞かされて、人はどう思うだろう? 応援するのが大半だろう。デストロイヤーに大切な人を殺された人は多いし、そもそも現在進行系で人類の生存圏を脅かしている害悪だ。


 それを抹殺するのに止める理由はない。むしろ手を貸したい、と思う人間のほうが多いだろう。直接的な支援はできなくても、物資の融通などそういった方面での手助けもある。


 さて、そんな完璧超人っぽいのに欠点も持つ郭神林。本人が自分で決着をつける、といっても、周りは手を貸したいと思うのが大半だろう。

 復讐相手は都市を壊滅させるレベルの戦闘力を持ったデストロイヤーだ。一人では無謀で無茶だ。だからこそ、友達や仲間である自分を、復讐に巻き込んでほしいと彼女と共に過ごした人こそ思うのだ。


 それは葉風も例外ではない。

『仲間を頼って』『力になるよ』『貴方と一緒に敵を倒したい』『危険でも、危険だからこそ私は貴方と共に戦いたい』

 しかし葉風は言えない。

 彼女は自分が落ちこぼれで、才能のないクズ衛士だと思っているからだ。そんな自分が助けると言ったところで、なんの役にも立たない。だから言うだけ無駄だと、判断する。思考する。


「そういうのが! 愛花先輩の危ないって言われる所以でしょ!! です!」


 しかし自分の力に疑いを持たない蒼風は葉風を越えて、真っ直ぐ愛花に現実を叩きつける。


「デストロイヤー相手にデュエルは衛士の損耗が激しいからレギオンの概念が出来て! サーチアンドデストロイ戦術が生まれたんですよね!? だったら復讐だとしても一人でできるわけないじゃないですか!! どんな相手かわからないですけど、仲間がいるのに仲間を頼らないのは裏切り行為と同じだよ!!」


 蒼風の物言いに愛花は驚いたように目を見開く。愛花だけではない。蒼風も同じだ。


「仲間との信頼とか迷惑とか、仲間になった時点で戦場で命を預ける間柄なんだから、信頼して頼って、迷惑かけて謝って許す。やりたいことがあれば迷惑をかけるとわかってもお願いする!! 周囲の善意に期待して助けを待つのは甘えだし、自分が死んでも良いなんて考えているならそれは、チームで戦場に立つ資格はないです!! 生きて、殺して、誰も欠けず帰る。理想論ですけど、それを現実にしようとしない人は仲間を殺すよ!!」


 はぁ、はぁ、と蒼風は息を荒く吐き出す。そしてラプラスの手を引いて走り出した。


「え!? なんで逃げるの!?」

「怒られるの嫌だから!!」

「馬鹿!! 凄く馬鹿!! でもその真っ直ぐさは嫌いじゃない!!」


 そして、最終的にラプラスの部屋に逃げ込む事になり、そして相部屋の人もいないので、そのまま一緒に暮らすことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る