打開策

「松村優珂、特殊任務を完了しました」


 ドアを開き、机に着いていた五人に対し、直立不動の姿勢でビシッと敬礼をして報告をする。


「……完成したようだね」

「はい」

「時雨お姉様?」


 真昼を騙すような形でことを進めた罪悪感からだろうか。時雨はどこか後ろめたそうな、くたびれた表情でそれに応えた。


「……まず、ここにいるみんなにコアユニット、ならびにオルタネイティブ計画について説明しようか」


 そして、コアユニットの解説がなし崩しに始まった。

 それを理解するには、まずオルタネイティヴ計画の全貌を知らなければならない。

 真昼は説明の記憶を掘り起こした。

 乱暴に言えば、オルタネイティヴ1はデストロイヤーに関する調査全般、2は生態の研究解明、3は人工スキルを付与した衛士を使って、デストロイヤーとのコミュニケーション。

 オルタネイティヴ2ではデストロイヤーが魔力生命体である事が判明。


 オルタネイティヴ3ではデストロイヤーには思考はあるものの、人類を生命体と認識していないという事が判明した。

 しかしデストロイヤーが人類を生命体と見なしていない以上、人工スキル発現体のコミュニケーションはそれが限界で、よってオルタネイティヴ3は頓挫。


 そして、デストロイヤーも人類も同じ生命体であるのに、デストロイヤーは人類を生命体と認識していないと言う事実を踏まえ、それまでの計画の成果を全て接収して、ある人物の提唱した案を元に始まったのが、オルタネイティヴ4である。


 さて、ここからが本題だ。

 そのオルタネイティヴ4の要、コアユニットのコアとは、生体反応ゼロ、生物的根拠ゼロ、という事を示している。

 つまり、コアユニットは人間ではない。

 デストロイヤーが炭素生命体である人類を生命体と認識しないのであれば、その逆──非炭素生命──コアユニットを作り出し、それをデストロイヤーに生命体と認識させる事で、コミュニケーションを図ろうと言うのである。


 この考えの根拠は、開戦当初、デストロイヤーが人間よりも機械に多くの反応を示した事に由来している。

 そして、コアユニットによって収集された情報を元に、デストロイヤー殲滅作戦を展開する。

 そのため、コアユニットには様々なスキルが備えられているのだが、その受け取ったイメージを言語に翻訳するためには、機械ではなく、人間の思考が必要になる。

 コアユニットの核となるのは、完成した人工脳──量子電導脳。それを非魔力元素から作り上げたボディにインストールし、人間の脳の情報をそっくり移して、人としての魂を吹き込むのだ。


「……こんなところだね」


 時雨は深く溜息をつく。

 真昼は説明を受けて、コアユニットとオルタネイティヴ4の全貌が見えてきた。しかし、まだ肝心な事が説明されていない。


「……だいたいわかりました。で、流星はどこにいるんですか?」

「……いいよ、連れてきて。優珂くん」

「はい、時雨様」


 松村優珂は手を引いて、部屋の中に人を連れてくる。それは横浜基地で凍結封印中の今流星であった。しかし瞳は暗く、ぶつぶつと言葉を繰り返している。しかしそんなことはどうでも良いとばかりに、高城は流星に抱きついた。


「流星! 流星! 流星!」

「…………」

「成果は?」

「50%ほどです」

「そうか」


 流星が呟く。


「……殺してやる…………」

「流星?」

「……皆殺しに……してやる……」

「時雨さん、これは──」

「──どう?」


 優珂は端末を見て、首を横に振った。


「……だめです」

「そう、残念ね。高城を見せれば、少しは変化も起こるかと思ったけど……」

「どういうこと?」

「そう。まあいい、改めて紹介しよう。オルタネイティヴ4の最大の目的にして成果……人類に勝利をもたらす存在──コアユニットだ。これこそがデストロイヤー殲滅の鍵となる存在──」


 その時、流星の様子が急変した。


「……デストロイヤー……ッ! ──敵だっ!! ……殺す……殺す……殺してやる!! ──皆殺しにしてやるぅッ!!!」

「流星!?」

「──あああぁッ!! デストロイヤーッ──殺してやる……殺す…………殺すッ……」

「……一度こうなると、落ち着くまでが面倒なのよ」


 松村優珂は面倒臭げに呟く。


「面倒って……なに言ってるの!?」


 暴れ始めた流星を、どこか醒めた目で見下ろす優珂と時雨。

 わざと挑発的な態度を取って、高城から平常心を奪ってコントロールしやすくしようとしているのか。或いは他に目的があるのか。

 いずれにせよ、それに乗るわけにはいかないが。

 それよりも、今は流星だ。


「……私が……殺す……デストロイヤー……殺す……」

「大丈夫よ、流星……ここにデストロイヤーはいないよ」


 高城は暴れる流星を優しく抱きとめて、落ち着いた声で語りかけた。


「あ……う、あぁ……?」

「ほら、大丈夫だから。ね?」

「うぅ……」


 むずがる子供をあやすように、優しく頭を撫でてやる。しばらくそうやって、落ち着いたかと思ったのだが……。


「──ぐあっ!」


 叶流星は突然両手で頭を抱え込んで、再び暴れ始めた。高嶺は抱きしめる力を強め、叶星を押さえつける。


「落ち着ついて。大丈夫、怖くない」

「へぇ……これは……」


 その様子を、優珂が興味深そうに見詰めている。


「……あ、ああっ…………いやあっ……!!」

「流星?」

「ううぅ……ああああ……ああぁ……い、いやああああぁ────っ!!」

「流星!!」

「──!!」

 何かが焼き切れてしまったかのように、流星はぐったりと脱力して高城にもたれかかり、気を失ってしまった。


「……今までに無い反応です。やっぱり……特別という事かもしれません」

「よくもそんな口を! 流星にこんな目に合わせて置いて!」


 流星の事をまるで実験動物でも見るかのような優珂の目つきに、高城苛立ちを抑えきれず、ほんの僅かながらそれを表面に出してしまう。

 しかし、どんなつもりなのか分からないが、迂闊に時雨や優珂の挑発に乗るわけにもいかない。高城は一度深呼吸をして、気持ちを切り替えた。


「質問、いいですか?」

「その前に……優珂くん。コアユニットを休ませてきて。それが終わったら君も休んでいいよ」

「……はい」

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