スプリット撃滅戦①
相棒となる金色一葉の評価はあまり知らないというのが正直なところだ。イェーガーで改革するとかなんとか。
しかし目立った戦績は無く、イェーガーのただのレギオンの隊長といった印象だ。血反吐を吐いても仲間を救うと言うのは良いものの具体案はないだろう。だが、撤退するのに耐えられないだけだ。
「時雨様、わたくしはどうしたら良いでしょう?」
端末を使って時雨に連絡を取る。
『もう作戦は瓦解した。航空爆撃で根こそぎ破壊する。全衛士に撤退命令を出した。君達も早く撤退を』
「待って、ください。私の仲間が、まだ!」
『君だけしか残ってないよ。コピリコは全滅してるだろうし、イェーガーは同士討ち、助ける価値がない。風間くん、君が彼女を連れて帰ってくるように』
「わかりました」
「待ってください! まだ戦っています! だから増援を!」
『却下だ。撤退するように』
それで通信は途切れた。
「ああ、あああっ!」
「一葉さん、撤退しましょう」
「そんな、見捨てて逃げるなんて」
「悔しいですが、このままだとわたくし達まで爆撃に巻き込まれてしまいます」
「くっ」
わたくしは一葉さんを支えながら拠点まで撤退しました。その途中のことでした。爆撃機と思われる飛行機が通り過ぎていったのです。
そして爆弾を投下して、その衝撃に備えましたがそれはきませんでした。なんと爆撃機が爆発したのです。ラージ級デストロイヤーによるレーザー攻撃ではなく、まるで自爆したような、内部からの破壊でした。
一葉さんの仲間は助かりましたが、同時に恐怖が襲いました。今回の作戦は未知のことが多すぎます。千香留の狂乱、結城霧香の暴走、ルドピコの分断、これには一つ共通点がありますわ。
そう、全てGE.HE.NA.が関わっている、という事です。イェーガーは親GE.HE.NA.ですし、コピリコは先日の東京防衛構想会議で話された時は衛士訓練校が壊滅するのにGE.HE.NA.が関わってると明言と謝罪していたのは記憶に新しいですわ。
真昼様がGE.HE.NA.と深い関わりがある以上、酷いことをしないとは思っていましたが、これはGE.HE.NA.と認定しても違いないでしょう。
かといって眞晝様の意思と考えるとそれも違うと思います。旧GE.HE.NA.、過激派残党、そういった存在の暗躍があるのでは、と予想します。
夕立時雨様は……正直、何を考えているのかわからないところが大きいですわ。真昼様を愛しているのは間違い無いですが、理性的であり、狂気的な、執念、そう言ったものを感じます。
シノア様は可愛い。あのクールなところや、お姉さまに尽くす姿はなんとも初々しくて……。
なんというか、面倒な事態になってしまいましたわね。さて、このお方を拠点まで運んだ事ですし、レギオンの方々と合流をしなければ。
とそこで端末に召集命令が下さられる。
わたくしはそれに従って、部屋に集まります。そこには梅様、胡蝶さん、葉風さんがいました。
「よー風間、お前も呼ばれたのか?」
「はい、梅様。皆さんもですか?」
「うん、そう」
「いきなり撤退命令が来て」
「ふーみんさんやミリアムさんがいないのが気になりますが、ヴァルキリーズのメンバーですわね」
「その通り、揃ったね」
部屋の奥に座っていた時雨が上品に飲みながら言う。
「まずは状況を説明しよう。第一の作戦、デストロイヤー誘引して撃滅する作戦は失敗した。という事で次の作戦になる。航空爆撃で地表ごとデストロイヤーを吹き飛ばす方法だ。しかしこれも謎の爆発事故によって爆撃機が大破。飛んでいるものも予備のものも全て破壊された。明らかに敵は人間だ」
しかし、と、時雨は言う。
「妨害があろうと無かろうとデストロイヤーを倒すのがぼくたち衛士の役割だ。犯罪者の相手は防衛軍に任せれば良い。という事で第三の作戦、少数精鋭による突撃を行い、コピリコとイェーガーを救出してデストロイヤーを破壊する」
「我々だけで勝てる戦力なのでしょうか? 他に適任がいるんじゃ」
「適任はいないよ、正直君達にも手が余ると思っている。しかし君達しか駒がない。お台場は戦術機が壊れ、他の衛士訓練校はデストロイヤーの殲滅で疲労困憊だ」
「それでは具体的な作戦を教えてもらえますか?」
「コピリコからの最後の通信でスプリットはダメージを受けると小型のスプリットを吸収して強くなると情報を手に入れた。そして今、小型のスプリットは全て駆除した。回収できる子機がないスプリットは容易く屠れるだろう。問題はその後だ」
「問題、というのは?」
「イェーガー」
端的に時雨様は言った。
「結城霧香と霧ヶ谷明日那の同士討ち。これをボクはデストロイヤーによる幻覚や催眠によるものだと思っている。それを前提で話を続けていく」
時雨様は優雅にお茶を飲む。
飲んでる場合ですの!?
「端的に言おう、対処法はない。各員の臨機応変な対応に期待する」
「は、はぁ!? 本気ですか!?」
「仕方ない、状況が全くわからないんだ。何故同士討ちになったのか、何故、金色一葉だけ逃げられたのか、そもそも敵はデストロイヤーなのか」
「そんなところに行かせるなんて」
「君達ならできるさ。頑張るように。以上、解散。リーダー兼司令塔は風間くんにやってもらうからそのつもりで」
「わかりましたわ」
「では、風間特務隊。無事の帰還を期待する」
部屋を出て、胡蝶はため息をついた。
「最悪」
「同意しますわ」
「だが、やらないとな。東京を落とさせるわけには行かない」
「他の衛士訓練校の人たちも助けたいです」
この任務はかなり危険だ。だからといって引くわけにはいかない。自分達の肩には東京と衛士訓練校の人々の命が乗っているのだ。
それぞれが戦術機や物資、装備品のチェックをしているところでガラリと扉が開いた。
そこには全身に包帯を巻いて、片目を隠した金色一葉が立っていた。
「風間さん、話は聞きました。私も連れて行ってください」
「足手纏いですわ。全身ボロボロ、片目は封じられている。そんな衛士を連れていったらわたくし達が迷惑を被ります」
「だとしても、です。涙を笑顔に変えんがため、衛士は大志を抱くのです。宿業は重いが、しかしそれを誇りへ変えます。私は必ずこの選択が世界を拓くと信じています。人々の幸福を、希望を未来を輝きを――守り抜かんと願う限り、私は無敵です」
「そんな精神論で」
バッと包帯を引っ張る。するとしゅるしゅる、しゅるしゅると包帯が解けていく。そして片目のガーゼを引き剥がす。そこには無傷の体があった。
「もう傷は治りました。これで、連れて行ってくれますよね」
「わかりました。ただしわたくしの命令には絶対従ってくださいな」
「ええ! 勿論!」
そうして、風間特務隊はデストロイヤーが潜む戦場へ突入した
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