遺書


 遺書を書けと言われて、はい書きます、というほど、わたくしは素直な性格ではありませんわ。なので、これは戦いが終わった後に書いていることでしょう。


 あの一ノ瀬真昼様が柊シノアを連れて、深刻な表情で告げたことが始まりだった。


「みんな遺書を書いて。何か一つでも自分が生きた証を残したければ少しだけ残して、あとは整理して」


 それを聞いてまず思ったのは困惑。何故そんな必要があるのか、それが必要となる事態が起きるのであろうことはすぐにわかりました。けれど理由がわかりません。


 昔通りなら、クレスト経由で情報が伝わって来たはずだが、結梨をめぐる中で、わたくしは父に絶縁を言い渡しました。

 人造衛士なんて悍ましいものを作るなんて、お父様は間違っていると思ったからでした。そしてその保護をせず実験に使うなんて生命を冒涜しているとしか思えなかったからですわ。


 結局、特型デストロイヤーの出現によって有耶無耶になってしまいましたが、結梨は死亡したと伝えられました。当然、信じるしかありませんでした。あの腕を見せれれば、誰でも。


 しかしそこから事態は加速度的に変化していったと思います。量産型衛士や衛士爆弾、新型アーマードコアなど多くの新兵器が生み出されていきました。


 第一次東京防衛戦にて、戦線を突破したデストロイヤーが民間人を多数殺害したのを聞いて、わたくしは目が眩むような思いをしました。他の皆さんも同じような気持ちだったと思います。


 更に、量産型衛士というものが拍車をかけました。量産型にはまずプロトタイプが必要なはずです。そしてそのプロトタイプは私たち共に過ごした結梨なのだと理解しました。


 この考えは、暗黙の了解となっていました。あの量産型衛士が真昼様のシスターだというのは。それに非人道的とされるB型兵装の特効やアンチデストロイヤーウェポン、爆弾として活用するなどそれは言葉にできないものでした。それをしても死者を出し、負けたのはわたくしたちなのです。


 誰かを非難できる気力はありませんでしたわ。いや、非難することさえできないほど打ちのめされていたのです。己の無力さに。

 あれほどなりふり構わず戦力を投入した結果が、民間人の大量死衛士の死亡者数、破壊された大地。灰色の空は絶望の色をしていました。


 だから、というべきでしょうか? わたくしたちは真昼様に従うことにしたのです。どんな正論も、論理も、倫理も、純粋な暴力には敵わない。


 暴力には、それを上回る暴力を。


 真昼様は暗躍されるようになって、わたくしたちは極めて普通に過ごしました。周りから怪しまれないように、普通に。


 ですが頼られない不甲斐なさと、嫌悪感が同時に存在していたのも事実です。

 真昼様のやっていることは善ではないけど戦術価値のある行為です。ですが、お父様から教えられた人としての正しくありたい心が彼の方を否定するのです。


 シノア様、そして愛花さんもまた、真昼様についたと仰っていました。わたくしたちは手段を選んでいるほど余裕がないかもしれない。もっと被害を抑える方法があったのかもしれない。そんなもしもが頭から離れない。


 わたくしたちは正しく、胸を誇れる存在であるべきだと思います。思いますが、現実は厳しい。その暗部を一人で背負われている。お父様も、わたくしのために闇に手を染めたとわかってはいるのです。


 みんな、好きでやっているんじゃないとわかっているのです。誰もが平和を望んでいる。だけどそれを現実は許してくれない。だから平和に近づける最善策を最短で成し遂げようと努力してある誇るべきお方なのは理解しているのです。


 それは葉風さんも同意見でした。愛花さんは若干暴走気味ではありましたが、遺恨を晴らす、復讐というのは衛士としてありふれた話であり、咎める理由にはなりません。


 真昼様、そしてシノアさん。

 わたくしは、どうしてもそちら側へ行くことができません。勇気がありません。臆病者です。だけど、もし、私がそっちに行ってしまったら、誰が貴方達を引き戻すというのでしょう。


 今は戦いの時かもしれない。だから許されているのかもしれない。だけど、未来で必ず貴方は裁かれます。無能な人間によって裁かれる。

 そんな未来は、望みません。だから、わたくしの戦場はここではないのでしょう。衛士として戦うのではなく、真昼様やお父様が胸を張って生きられる人生に整えることが、私の考える戦いです。


 これを読んでいる貴方は笑いますか?

 貴方は真昼様の意見に賛成ですか? 否定的ですか? 嫌悪感を抱きますか? 常識を守るべきだと思いますか? 


 それを命懸けで成している理由が、わたくし達を守るためであっても、お前は間違っている、と言えますか?

 葉風さんなら、言うのでしょう。あのお方は変にネガティブが強いですから、危機感から連れ戻そうというのでしょう。


 わたくしは、真昼様達を放置する選択をします。そして、彼の方達が戻って来れるタイミングを作ることをベストだと考えています。


 それが、わたくしの戦い。

 わたくしの戦いです。

 お父様、軽蔑しているなんて言ってごめんなさい。

 真昼様、冷たい態度をとってごめんなさい。

 シノア様、真昼様を悪くいってごめんなさい。

 だけど、わたくしがやらないと、ヴァルキリーズはバラバラになってしまう。せっかく誰かを救うレギオンなのに、内輪揉めで解散なんて無様は晒せないでしょう?


 全く、誰もが、目的は一つなのに悪ぶって、ほんと呆れますわ。でも、正義ではないことを自覚しているところは好感が持てる、といったところですか。


 善でもない、誇りもない、正義もない、だけど、それでも成さなければならないことをやっている。正直、眩し過ぎます。どうしたらあんな人が生まれるんでしょう?


 ラプラスの力? 幾たびの戦場を渡り歩いてきた経験?


 そんなチャチなものではない。あれは、人の意思だ。負けるもんか! っていうそこが抜けるほど諦めの悪さ。醜い。みっともない。哀れ。そう憐憫の感情を向ける者も必ずいる。


 だとしても。


 私がやらなきゃ誰がやるんだ!! と叫び続けている。行動で。結果で。選択で。夕立時雨様への愛もかなりあるとは思いますが。

 そこはご愛嬌ですわ。格好良い真昼様の、可愛いところです。


 さて、作戦が始まりましたわね。スプリットの討伐。上手くいくでしょうか。それぞれ司令塔を分割して配置していることからして、分断されるのは予想済み。


 あとは衛士とデストロイヤーどっちが根を上げるかの勝負といきましょう。

 そういえば言ってませんでしたが、これでもわたくし、負けたことはないんですよ。

 不細工なデストロイヤーさん。

 エスコートのお相手には不似合いですが、弾丸を当てる的にはちょうど良いですわね。


 イェーガーの新技術、特と見させてもらいましょう!

 え? 味方を誤射し、錯乱状態で手がつけられず、新型バトルクロスが変貌して暴走した?

 更にイェーガーは内戦状態に陥り、戦闘どころではない。戦線は瓦解してコピリコ女学院が地下に取り残されている?


 部隊の撤退と再編成で現時点で動けるのはわたくしと金色一葉さんしかいない?


「ごほっ、おえっ」


 血反吐を吐かれているのですがこの方。


「必ず取り戻す。何があっても、私の選んだ仲間に間違いはない」


 あっ、知ってますわこれ。

 真昼様と同じパターン。むし真昼様より恐ろしい王道と正道を真っ直ぐひたすらに歩いていくやべーやつな感じですわ!?

 そう、いうなれば、


「まだだッ!!」


 光の亡者ってやつですわ


「まだ私は倒れていないッ!!」

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