封印議論

 今流星は冷凍処置をされ、堅牢な地下室に封印された。高城は反発したが、優珂によって叩き潰されて封殺された。

 一ノ瀬真昼、夕立時雨、宮川高城。

 三人が案内された場所には、シノアと金色一葉がいた。彼女は真昼達に気付くと立ち上がって、不安そうな様子を見せた。しかしその前に松村優珂が銃口を向ける。

 背後には量産型衛士達が銃口を構えて、彼女達の動向を牽制している。


「全員、手を机の上について座ってください。話し合いに争いは不要です」

「し、しかしこれは」

「いいから黙っていうことを聞きなさい序列一位」

「優珂さん……」

「どういうこと? 優珂ちゃん」

「それは、今からお話しします、真昼様」


 優珂は端末を操作して、机に置いた。するとそこに男性が投影される。真昼にはその男性に見覚えがあった。クレスト社社長、風間の父親だ。


『このような形で会話することになってすまないと思っている。しかし事態はとても深刻で、早急な対応が求められる』

「一体何があるんですか?」

『特型デストロイヤー・スプリットと特型デストロイヤー・エヴォルヴ幼体の出現が加速度的に増えている』

「スプリットというのはどのような個体なのでしょうか?」

『分裂する個体だ。分裂と成長を繰り返して総数を増やしていく。こうして表に出た以上、その推定量は東京の地下を埋め尽くしていると考えて良いだろう』

「何故、そんな事態になるまで放置されていたんですか」


 重々しく優珂が口を開く。


「少し前の巨大デストロイヤーを覚えていますか。ステルス機能を備え、また島のように大きなデストロイヤーです」

「確か真昼さんのラプラス自壊プログラムで倒した……筈よね」

「はい。どうやら今回も、そのステルス機能を有していたようです。だから見つからず、目視で確認できるまではヒュージサーチャーに引っ掛からなかった」

「つまり東京はいつ大惨事にになってもおかしくない、と」

『その通りだ。復興祭の前に行った音によるデストロイヤーの撃滅で安心してしまったのが今回の結果に繋がった。もっと調べていれば……もしもを考えても仕方がない。君たちを呼び出したのはある目的がある。それを話そう』

「私達、衛士による統一東京防衛構想連合と、クレスト社を筆頭とした企業連合による意見の対立が起きています」


 真昼は問う。


「どんな対立なの?」

「東京を陥落地域に認定するかどうか、です」


 そこで一葉が手を上げる。


「すみません、陥落地域に認定するかどうかの何が問題なのでしょう? 東京は重要な拠点の一つです。どのような決定であれ、取り戻す方針が取られると思いますが」

『陥落地域に認定した場合のメリットは、全ての兵器が解禁になることだ。これにより速やかなデストロイヤーへの対策が可能となる』

「デメリットは?」

『出身の衛士達の反発と士気の低下。復興祭が行われたばかりだからな。これは響くだろう。避難民の誘導や避難を拒む者達への対処、衣食住、それらを賄うのも難しい問題だ』

「陥落地域だと認定しない場合は?」

『この現状を秘匿したままの殲滅作戦。しかしこちらも現実的ではない。メリットは避難民関係がなくなることだが、相手が物量という作戦を取っている以上、必ず被害は起こる。それを一つ一つ隠匿し、全てのデストロイヤーを殲滅するなどとても無理な話だ』

「どちらも無理筋、相応の被害が予想される、というんけですね」


 高城が確認する。


『ああ』


 それ以降話は続かない。

 時雨は問いかける。


「企業連合はどちらを?」

『当然、陥落地域の認定だ』

「ということは衛士は陥落地域の否定か。禍根が残りますね。この話は」

『ああ、どちらに転んでも私たちは恨まれるだろう。しかしそれでもやらなければいけないのが、大人というものだ。子供だから従え、という言葉は君達衛士には不適切だろうがね』


 優珂は言葉を引き継ぐ。


「お台場を筆頭した東京の衛士訓練校は徹底抗戦を唱えています。なんとしても東京を守ると。これを説得しようとすれば時間がかかります」

「その間にデストロイヤーによって東京は壊滅」

「その通りです。しかし衛士に従えば、賭けになることになります。堅実なのは企業連合の陥落地域指定しての、全ての火力を投入した電撃的作戦による奪還でしょう」

「……」

「……」

「……」

『……』


 沈黙が場を支配する。

 そして時雨が口火を切った。


「それで? 私達に何を求めているのかな?」

『君達には東京からの撤退を強く支持してほしい。亡霊にラプラスの英雄、神凪のトップレギオンの片割れ、それに盾の乙女。それが撤退するというのならそれに続く勢力も多くなるだろう』

「さて、どうしようか。真昼」

「今考えています。けど、状況があまりにも」


 そこに端末の着信音が響き渡った。

 金色一葉の端末からだった。


「す、すみません。皆様……少し失礼します」


 そいって離席する。そしてすぐに帰ってきた。


「上から命令が下りました」

『内容は?』

「東京に巣食うデストロイヤー、スプリットを殲滅しろ、と」

『なんだと。上層部とてこの状況は知っているはず。こんな無茶な命令を出すとは』

「また、特注のパワーアップ装備、バトルクロスを着用するように言われました」

「パワーアシストアタッチメントとは違うの?」

「はい、何でもパワーアシストアタッチメントとは違った方向性の強化装備だとか」

「そうなんだ。じゃあ、決まりかな」

「何がですか? 真昼様」

「徹底抗戦だよ。東京はデストロイヤーは退いたりしない」

『待ってほしい。それはあまりにも無謀だ』


 その言葉に真昼は笑顔で応える。


「流石に全部衛士でどうにかしようとは思いません。折衷案でいきましょう。避難誘導を南に、デストロイヤーを北に集めて、航空爆撃で吹き飛ばすプランはどうでしょう?」

『取り逃がしは衛士が狩る、という前提がつくが、可能だ』

「じゃそうしましょう」

『わかった。航空部隊には話をつけておく。弾頭は?』

「量産型衛士弾で」

『わかった……こうして、頼める立場でないのはわかっているが、風間のやつを気にかけてやってほしい。頼む』

「はい! 風間さんは大切な友達です! 必ず一緒に生き残ります」


 シノアが言う。


『ありがとう。こうなった以上クレストは全力で支援する。東京を頼んだ』

「「「頼まれました」」」


 通信が切れる。


「それで指揮官は誰が?」

「時雨お姉様にお願いしようと思います」

「ボクがかい?」

「お姉様なら細かい気配りができると思うので。私は前線で味方の英紙達を鼓舞します」

「私は……流星の側にいるわ」


 その言葉に真昼に目が細まる。


「守れない、戦えない、立てない、戦術機を使えないかな?」

「私に戦闘意欲を掻き立てようとさせても無駄よ、流星の側にいるって決めたの」

「もし、流星ちゃんを生き残らせたいなら戦うべきだ。今流星はほぼデストロイヤー化している。人の手に負える領域を離れた。だから殺処分される」

「そんなこと! 絶対させない!さ」

「そのためにも、戦え! 罪なき人を守るために! デストロイヤーではなく衛士であることを他ならぬ同じ心臓を持つ高城ちゃんが証明するんだ」

「ッッッッ」

「これは、あなたの選択の末路だ。それが嫌な選択なら、抗え。戦え」


 宮川高城は戦術機を握って立ち上がった。

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