007

「ただいまー」

「お帰りなさいませマスター」


 あの後、いくら考えたところで亜里沙さんの考えは分からないということで話題が終わり、後日粟花さん防具のメンテナンスを請け負うことを約束した。今はVtuberのデビュー前と言うことで忙しいだろうという気遣いをしてくれた。


「さて動画の編集をってあれ?」

「それに関しては私たちが終わらせておきました」

 ``グッ!! ``


 そして午後の授業を終え帰ってきて昨日の作業の様子を撮った動画を編集しようとしたら何故か既にできていた。自分で声当てをするつもりだったのだが、確認したところ昨日の装備創りの間や就寝中にシェルファとジェリーで動画の声当てをしていたらしい。立ち絵やジェリーの声はどうやったと疑問に思ったが、ジェリーが僕のペンタブを使って静止画の立ち絵を作り、声は解説動画でおなじみのゆったりボイスを使ったようだ。その立ち絵を見せて貰ったがなかなか素晴らしい出来だ。

 シェルファのデフォルメの立ち絵はもちろんジェリーの立ち絵の光沢感の表し方は素晴らしい物だった。

 それから3人で話し合った結果僕は装備制作とライブ配信に集中して、切り抜きや動画作成はボクの睡眠時間を考えてジェリーとシェルファが担当することになった。

 普段の装備制作の時でも何日か徹夜で作業することも有るのにこれ以上睡眠を削るのは許容できない、なので睡眠の必要の無い私たちが行うとのシェルファの談だ。


「一応確認のため動画の確認もお願いしますね」

「了解だよ」


 二人の事は信頼しているので心配はないと思っているが、確認は必要なので動画を見ることにしよう。


 ────────────────────────────────────


 動画が始まるとそこは赤い垂れ幕で閉じられている。そこに『○○○○と○○○○○の解説動画』とロゴが書いておりそこには二人の名前が入るのだろう。そこにゆったりとした声とシェルファの機械的な声が重なり、幕が開くとロゴの両脇に二人のデフォルメされた姿が現れ動画が始まる。


「『我らが主、天結らいじゅの動画にようこそ』」

『ん? うちらが何者だ? らいじゅを出せだって?』

「私たちのマスターは放っておくと無限に睡眠時間を減らす癖がございます。装備の開発か迷宮探索以外での睡眠時間の確保のため動画の作成及び編集は基本的には私たちが担当することにしました」

『そんでもってうちはマスターの従魔のジュエルスライムのジェリー』

「私は機械人形のシェルファと申します」


 二人が名乗ることで下の部分にあったロゴが光り丸で隠れていた部分が明らかになる。そのロゴが真ん中から右下に移動した。


「私たちの詳しい紹介は後ほどマスターが行ってくれると思います」

『楽しみにしててくれよな』

「それでは今回は皆さんも一度は利用した事が有ると思われます」

『火炎石の作り方の紹介だ』


 二人は今回紹介するものの名前を言うとそこには透き通った赤い石の写真が映し出される。


「火炎石は昔で言うライター代わりの魔道具ですね。似たようなもので水流石、風来石、土生石の所謂属性石がございます」

『品質の高い長持ちする火炎石は今やIHの変わりのコンロ、水流石は水道の代わりとして一般家庭に普及され始めているな』 

「逆に品質の低い物はキャンプや魔法を覚えていない人用の魔法攻撃道具として幅広く使われています」

『魔法を覚えるための起点としての需要も有るな』

「低品質の各種石の作り方はギルドでも公開されていますし納品は常設で行われていますね」

『個人で作れば冒険者は経費も浮くし魔力を鍛えることもできるから一石二鳥だぞ?』

「学生にはちょっとしたお小遣い稼ぎにもいいかもしれませんね」

『ただし高ランクの冒険者がギルドに納品するには数を揃えないといけないから注意が必要だぞ』

「ギルドで確認ですね」


 火炎石等は動画の通りとても使用率が高く汎用性が高い魔道具だ。他にもギルドで作り方が公開されているよく使われている魔道具は有るが、公開されていること自体があまり知られておらず作り手が少ない。そこで多少買い手が減ることになるだろうが如何にか作り手手を増やすことが出来ないかとギルドの受付のお姉さんが言っていた。これなら作り手を増やせるかもしれない。


『じゃあ火炎石をよく観察してみよう』

「よく見てみると石の中に何か書いてありますね。何か石の中に書いてありますね。三角形の中に何か文字が……」


 ジェリーの言葉に反応するかの如く火炎石の写真がズームされる。それをよく見るとシェルファの言う通り【△】の中に【〈】のような形の記号が掛かれている。その後あらゆる方向から写した写真が出てきたがそのどれも記号は正面を向いているように見える。


『三角形は錬金術とかで言う四大元素の火を表す形だ。中の文字は作成者の適正によって変わるらしいがこれはルーン文字で同じく火や始まりの意味を持つ【カイ】の文字が刻まれているな。今回の意味合い的には始まりの方が強いらしいが。また、どの方向から見ても同じ様に見える現象は解明されていないがな』

「中には梵字やヘブライ文字、珍しい物は惑星記号が刻まれていたりするものも有るらしいですね」

『惑星記号は宇宙系ダンジョンでしか排出されない上にレアドロップだからな』

「以前倉庫の整理をした際に今発見されている属性石が丁寧にしまわれていた記憶もございますが……」

『コレクター気質というものだな。マスター曰く中々に苦労して競り落としたそうだぞ』


 その言葉と同時に赤青緑茶のそれぞれの石の三角形の中の文字か違うものを映した写真が画面に現れる。確かに僕は自分の作った失敗作でさえ一つは手元に置いておくし物を集めるのが好きで倉庫を作ったり拡張もしているのでコレクター気質なのは間違いないだろうと思いながら画像を眺める。惑星記号の属性石をオークションで競り落とした時はついガッツポーズをしたものだ。


『そろそろ話を戻してまず材料の紹介からだな』

「最低限火炎石の作成に必要なものは火属性か無属性の魔石となります。マスターが使うのは基本的に無属性の魔石ですね」

『魔石と言うの知ってるとは思うが、魔物からドロップした魔核から不純物を除いた魔力の塊のことだ』

「魔核は魔物を倒した時に必ずドロップするものですね。不純物は従魔の餌や、ある方法で低レアのスキルオーブにもなるからな勘違いなさらないようにお願いいたしますね」

『不純物の取り除き方は数種類あるが、それの説明はまた今度だ』

「あと必要なものは魔法陣を書くためのものですね。これは魔力を通せるものなら何でもいいでしょう」

『うちの主人様は簡単なものなら魔力のみで魔法陣を構築するが、今回は書き方の説明のために手書きをしているぞ』

「因みに無属性の魔石で作る火炎石の作成は付与魔法の部類に入ります。形の無い魔力を炎に変換する効果を付与しています」

『剣に魔力を通して炎を纏わせるのと原理は一緒だぞ』

「では魔法陣の書き方を見ていきましょう」


 そこで中心の写真は消え中心に動画が映り始める。そこに移っているのは白紙の紙に魔法陣を書いていくボクの手の動きだった。円を描きその円の間に正方形を描く、そしてその中には十字のひし形が掛かれてそれが交差するところにもう一つ正方形が出来るような形に描かれる。ここまでは適正に関係なく同じ方法で描かれる。二人の説明も同じような発言をここでしている。

 ここから先は各自の適正になるが僕の場合は魔法陣の基本に使われるラテン語ヘブライ語以外にルーン文字、梵字を魔法陣に組み込む適性が有る。難しい物を作る時なら混ぜて組み込むが、今回は基本的な魔法陣なのでラテン語だ。まずは円と外の正方形には四大元素の意味になる言葉を書く。今回作るのは火炎石なので中心の正方形の中には火星の惑星文字を書く。他にも火を着火や発動者がやけどしないための効果をもたらす言葉を書き連ねて完成だ。


 ──────────────────────────────────


 魔法陣を書いた後はその魔法陣を使って火炎石を作って終わらせている。その後、ちょっとした余談も有るがパット見た感じだと問題は無いだろう。後はこれを公開していいかギルドに確認するくらいで済みそうだ。

 これからは作業するところを視点カメラで撮っておけばいいから、特別なもの以外の作成の時は忘れないようにしよう。


 余談だがこの動画を公開してもいいかの確認をするためにギルドに行ったところ、生産者か少なくいつもギリギリしか準備できない事が中央でも問題になっていたらしくこの動画が広まって自分でも作る用になれば冒険者の生存率も上がるということで、作り方を公開しているアイテムならシリーズ化して欲しいといわれてしまった。

 広告料の受け渡しまで話が進んで、まだ自己紹介動画しかアップしていない無名のVtuberなので、最低でも収益化が決まってからということで話が付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る