006
キーンコーンカーンコーン
ガララ
「全員座っているかー?」
始業のチャイムが鳴りクラスの全員が席に着いた途端、教室の黒板側のドアが開き野太い声とともに教師が入ってくる。
このパッツパツのスーツで隠し切れないほどの筋骨隆々の教師が僕らの担任である。名前は
「おう、お前ら今日も元気か? ……栗原は寝不足か? 夜更かしは大概にしろよ? 柊は昨日はきつそうだったが今日は大丈夫だな。それと…………」
武ちゃんはいつものごとく仲間の状態を把握するための必須スキルと言われているスキル【簡易検査】を使って全員の体調を確認していく。覚えたての人間なら対象の人間に手を当てて一人ずつに使用していくスキルだが武ちゃんは一瞬で30人もいる教室内全員を一瞬で把握し言い当てている。昨日は僕の症状を見て気に掛けていてくれていたほどである。普通はパーティーの人数分までできればいいのだがこの人数を一瞬でと言うだけで技量の高さがうかがえるほどである。
「今日は新学期始まって2日目というのも有って連絡事項もそれなりにあるがまずお前らが気になっているであろう転校生の紹介からだ」
「武ちゃん! なんで今日なんですか!?」
一人の生徒が手を上げてみんなが思っているであろう質問を述べる。それはそうだ本来なら昨日の内に紹介するべきなのだから。
「あ~、少しばかり事情が有ってな。荷物はこちらに届いていたんだが用事が有って元の地域に戻っていたらしい。今朝がた夜行バスでこちらに戻ってきたそうだ」
「せんせ~! それって転校生の子、大丈夫なんですか?」
「俺もそう思ったが本人はピンピンしているぞ」
流石の内容にほとんどの生徒が息をのみ心配そうな声を上げるが当の本人は問題ないらしい。レベルが高い人間は体力が上がり疲れを感じなくなると言うがもしかして転校生はその類の人かな? 僕は職業の特性上なかなかレベルが上がらないから素直に羨ましいと思う。
「せんせー 男の子ですか? 女の子ですか?」
「それは自分の目で確かめるといい」
「武ちゃん先生! このクラスには見た目じゃ判断しずらい子が居るんですが!?」
なんか癪に障ることを言われた気がする。後ろの席にいる水無月さんが耳を塞いだのであまり聞こえなかったが……転校生が来る手前この教室をスプラッタ現場にするわけにはいかない…………………………後で処す。
「っ!! 大丈夫だ。転校生は見た目通りだからな。じゃあ入ってくれ」
武ちゃんはうまく隠したつもりだが僕の殺気を感じ取ったらしく反応していたがとりあえずスルーしたらしく転校生を呼ぶことにしたようだ。とりあえず気にしないようにするが、
武ちゃん? それも失礼だよ?
武ちゃんは少し冷や汗を流しているが、そんな空気は感じないかの如く転校生は教室の中に入って来る。
片元まで伸びる煌びやかな銀が風に乗って靡く。瞳は綺麗なサファイアをして少し吊り上がっている。
「え!? あれは……」
僕は思わず声を上げてしまった。なぜなら彼女の耳に付いているピアスに見覚えがあったからだ。冒険者学校において普通のおしゃれ用のアクセサリーは認められないが冒険者用の力の宿ったアクセサリーなら身に着けることは認められている。そして彼女が身に着けているのはボクの作った唯一無二のアクセサリーだった。
かなり小さい声で言ったはずだが彼女はその声に気付いたのか一ぼ僕と右隣にいて僕と同じように驚いているちーちゃんや城戸君たちの方に視線を送り一度ほほ笑み教室全体を見据えると堂々と自己紹介を始めた。
「
その聞き覚えのある声に僕は彼女があの人であることを確信し、それならば無茶な強行軍に耐えうるのも納得してしまった。
──────────────────────────────────―
「で、どういうことなんだ?」
一時限目を転校生の質問タイムにするということは無く午前中の授業は通常通り行われた。彼女について知りたいなら自分で聞きに行けと言うスタイルのようだ。冒険者として必要な情報は自分で調べなきゃいけないというのは当然のことではあるが。そして昼休み、授業間の休み時間には質問等を返していた粟花さんは、僕に話があるということで昼食に誘おうとする他の生徒を掻い潜ってきて話しかけられた。そして朝の他の5人も加え輪を作って昼食を食べ終えたところでちーちゃんが早々に話を切り出した。因みにちーちゃんと粟花さんはすでに面識が有る。なんでも亜里沙さんの子供たちは確実に1度は彼女を交えてのオフコラボをしている。ちーちゃんは亜里沙さんならもう顔が割れてるしいいかと思って了承した時に他の子も一緒に連れてこられた感じで騙される感じでやらされたらしい。
「子供たちと一緒にオフコラボしたかったんだ」という彼女の泣き落としに負けて、開き直ったちーちゃんは、みことベビーズとのみオフコラボを許可しているらしい。
「その前にここにいるのは大丈夫な方々ですよね?」
「我々もそれらの制作人でござる」
「うん、だからあなたがやっていることは知っているよ」
「Vtuberの~守衛ゆいかさんだよね~」
「っ!? それをここで言うのは「大丈夫ですよ」
彼女の確認に城戸君、暁さん、工藤さんが答えその回答に戸惑い慌て始めた粟花さんを水無月さんがたしなめに入りよく周りを見るように促す。
「これは……【フォニアミナ防音結界】? 何時の間に?」
「俺があんたに声を掛けた時だな」
「やっといたほうがいいと思ってね」
そう僕は今回の話は周りに聞かれてはいけないと思い防音結界を張っていた。その判断は正しかったようだ。
「しかも無詠唱で私でも気付かないとは」
「惚れ惚れするほど自然に張るからなこいつは」
「拙僧も見習いたいところでござる」
「さすがの魔力操作技術ですよね」
「確か飛鳥君って魔力量と魔操技術に関しては
「流石だよね~」
「エッヘン」
粟花さんは感嘆としているが、これくらい出来ないようであればすぐ見魔力が出てきて体が動かしずらくなるからね。必要に応じてってところだね。
「この技量1年では不可n「おっと、考え込むのは後にして今はそっちの話を聞かせてくれ」
冒険者の性か気になってしまったことに幾つかの予想を立てようとしてしまった粟花さんにちーちゃんが待ったをかける。すると彼女は少し頬を赤くしてしまった。思考を止めないのは美徳ではあるけどね。
「すみません。ついスイッチが入ってしまいました。まさか会えるとは思っていなかったのですが柊さんには感謝の言葉を言いたかったのです。あなたの防具のおかげで半年前のあれを乗り切ることが出来ました。このイヤリングへの視線で気付けて本当によかったです」
「こちらこそまだまだの出来ではあるけどその装備が貴女の役に立ってよかった。その感謝は受け取っておきますね」
僕にとっては未熟な作品だったとはいえ、それでも誰かの役に立てたのならそれはとても喜ばしい事だ。その言葉だけでもこれからの励みになる。もっと頑張っていこう。
「飛鳥がいることを確信してきたんじゃないのか……」
「はい。向こうには低級のダンジョンだと同じような構造しかないのでいいところを探していたんです。そしたらみことママにも相談したらぽらりちゃんもいるからって一月前にお勧めされて」
「これは……」
「確信犯でござるな」
鬼姫ぽらりはたまに出る方言や言動から有る程度の活動範囲は特定されているが実際に所在を付き止められたことは無い。まあ配信中は言動が完璧に女の子になっているので先入観も有って気付いていないだけかもしれないが。
なので完璧に所在を知っているのはその界隈ではみことさんだけなのである。
「うーん。多分それってゆいゆいのソロ活動を心配したのも有るんじゃないかな~」
「どういうことでしょうか」
工藤さんの発言に皆が注目する。
「だってみこママって産み出した子に滅茶苦茶甘いってことで有名でしょ~ 炎上した自分のこの火消しに全力で走ったうえで反省点を伝えてるって話だし、今回の飛鳥君みたいに本来なら出さなくてもいいような情報も出して注目を集めるでしょ~?」
「ちょっと待って! それを言ったら私も飛鳥に甘いってことになるんじゃ?」
「え? 自覚なかったの(~)(でござるか)(ですか)?」
工藤さんの説明にちーちゃんがあわてふためきながら突っ込みを入れるが皆に即肯定されてぶった切られる。そんなちーちゃんの配信ではあまり見れない男口調じゃないレアシーンを見て粟花さんは驚きながらも嬉しそうにしている。この面子じゃ男口調の方がレアだけどね。
確かにみことさんの対応はムーブと言うには度が過ぎているというのはみことさんを知っている人たちの見解で、どっからどう見ても対応のそれは実子に対するものである。
それがいいと彼女のファンでは人気であるのだが。
「まあ~話を戻すけど~あれの時にわざわざ専用防具を作ってもらって送るぐらいダダ甘なみこママは、配信上一人で潜るしかないゆいゆいを心配していたわけで~ それでだけどせめて防具を整備及び強化できるように制作者のいるところに送りたかったんじゃないかな~? ただ、まだ作成中で名前出してなかった便宜上、天結らいじゅである飛鳥君の事を教える訳にはいかないから鬼姫ぽらりである千尋ちゃんのところって感じでね~」
なるほど確かにそれならつじつまは有ると思いながら工藤さんの考察力に皆、脱帽するのであった。
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