003
僕は教室に入るとまだ時間が早いため少ししかいないが久しぶりに会う学友たちにあいさつを交わし目的の人物の元へと向かう。
「おはよ~、ちーちゃん。この前から相談した件やっともの届いてやってみたから確認して~」
そう僕は配信を見るならともかくする側の事なんて全く分からなかったので普通に詳しい友人に相談してやり方を教わっている。
それが彼、
「おお! やっと来たのか!?」
「ま、まあものづくりに時間が掛かるのは当たり前だよね」
相談をしてからしばらくたっているので待ちわびていたのか大きな反応を示した彼に僕は自己紹介動画を見せるため、腕時計タイプの端末を起動しホログラムの液晶を出す。
「あれ? 新しい端末? 前は普通のスマホタイプだよな?」
「うん。これカフタイプと追尾タイプののカメラと同時に連動できるらしいんだ。これから必要だと思ってこっち用に用意した」
「確かギルド用とプライベート用にも持ってなかったっけ?」
「うん3台目だよ? 創作系もこっちに移そうと思って」
「これからの活動を考えるとその方がいいだろうな。だけど、普通は思い立ってすぐに買わねえよ。このブルジョワめ」
「えへへ~。お金は天下の回り物って言うからね。回さないと~」
僕がそれなりな額の買い物をしたときにはこのじゃれ合いのようなやり取りが毎回のごとく行われている。この前配信用の機材を買う時に付き合ってもらった時にもこのようなやりとりが行われている。
「じゃあそれの配信用の設定も後でやるか。放課後飛鳥の家によってもいいか?」
「うん、大丈夫! いつもありがとね」
「いいってことよ。俺も最新機種を弄れるってメリットも有るからな。じゃあ見せて」
「はーい」
前置きが長くなったが本題の動画を流すため操作するとそこに僕が入った少女が映る。
『初めてこの動画を見てくれている、若しくはすでにかかわりのある兄様、姉様、この姿ではお初にお目にかかります。本日よりVtuberとして活動することになりました。天結 らいじゅ と申します』
「ふぁ!? これホントに飛鳥? めっちゃかわいい」
「ちょ!? ちーくん! 素出てる!」
「はっ!? わりぃ」
実は彼……いや彼女、栗原千尋は性同一性紹介を抱えている。ダンジョンが発生してある現象が起こるようになってからはあまり問題視されなくなった精神障害である。だが彼女はそのことが深い付き合い以外の人にばれるのが恥ずかしいらしく普段は男の演技をしている。僕のアバターは彼女の琴線に触れたらしい。彼女はおしゃれと可愛い物が好きなのだ。
『この動画はタイトル通り、ボクの自己紹介動画となります。最後まで見ていってくれると嬉しいかな? よろしくね! 兄様♪』
「ふぁっ!? 不意打ち!?」
ちーちゃんは胸を抑えて顔を赤くして悶えた。
実はアップされた後にこの部分でノックアウトされたものが量産された。千尋が耐えれたのは普段から不意打ちを喰らっていて多少体制が出来ていたからであろう。
「ちーちゃん大丈夫? 普段しゃべらないからここのあたりから崩れちゃったんだ」
出来るだけ丁寧語で撮影しようとしたんだけどこのあたりからむずがゆくなっちゃって所々崩れちゃったんだよね。反省。
「大丈夫。問題ないよ。寧ろいい。……ゴホン! えーっと、最初の挨拶がガッチガチだからここで素を出すことで硬い雰囲気が崩れて視聴者が絡み安くなるはず。掴みをとるには十分だな」
「そっか。良かった~」
千尋の言葉に少し不安だった僕はほっと息をついた。その時、千尋は不安そうな顔からの笑みにキュンとしたが何とか耐えたようだ。
『最初にも名乗りましたがボクの名前は天結らいじゅ、16歳だよ♪ はい、らいじゅはボクがダンジョン装備を創作するために、SNS上で使っている名前ですね僕を知ってる方はそこで知り合った方でしょうね。あちらでの宣伝も行いましたので、基本は小物や衣装……そうですね女性用にシュシュ等を中心にアクセサリーを作っています。目指すはプレート等の防具をつけずに一線を張れるものです。あっ! 勿論だけど男性でも使えるものも扱ってるからね』
『だから、基本はその作業の合間の雑談配信がメインになっちゃうかな? なので申し訳ないですけど無言になる可能性があります。ゲームやお絵描き配信もやりますよ? 創作物のいい参考になますし』
『でももう一つやりたい事が有るのですけれど。それがぼくがVtuberとして活動を始めたきっかけなのですが、詳しくは初配信の時にしましょう』
『そして待望の初配信は来週末4月15日。
『動画については配信内外で作った道具の紹介動画を他にいくつか考案しております。出来次第になりますので。週に何回とは確約できません。ごめんね』
千尋は自己紹介が始まってからは口を閉ざしていたが、動画が進むにつれて周りの迷惑にならないぐらいに喜んだり悲しんだり表情を変えていた。
「どう? おかしいところない」
「やっぱり、飛鳥は可愛い」
「え?」
「ん/// いや、いいと思うよ。所々出る素が頑張って敬語使おうとしてるようで微笑ましい感じになってるし。キャラデザもいい。やろうとしてることを考えると流行ることは必須だけど、このキャラのおかげで爆発的に伸びるだろうね。あとは……」
「パーティーメンバーが受け入れてくれるかだね」
そう、ここは冒険者を育てるための高校。ダンジョンにはソロでも潜ることも可能だが一人でできることは限られる。なので、世間一般ではパーティーを組むことが推奨されている。
1年の時にはダンジョンの基礎やソロでの対処法を学ぶ。2年ではパーティーの動きを学ぶため1年時の能力で相性のいい人が選ばれる。事前に配られた書類に組みたい相手を記入して提出していれば融通も利く。まあ僕と千尋は内情的な意味で同じパーティーになるだろうが。
受け入れてくれるなら配信のことも考慮して予定を組むこともできるだろうが、受け入れてくれない場合はそのことを考慮しないので予定が厳しくなるだろう。まあ、だからといって一度やると決めたことなのでやめることは無いが。
余談だが冒険者高校で組まれたパーティーは卒業後も余程性格的な相性が悪くなければそのまま組まれているらしい。
「ボクがバッファーで、ちーちゃんがスカウトだから、アタッカーとメイジかな?」
「まあ、そうなるだろうな、本決まりするのからは来月だから今はあまり気にするなよ。受け入れられなくても俺は協力するから」
「ありがと、ちーちゃん」
千尋の言葉に僕ははにかみ時計を確認するとそろそろ他のクラスメイトがぞろぞろと来始める時間になったので話を切り上げ始業式に挑むのだった。
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