第3話 失われたもの
「
氷牙が唱えると辺りを
対する帝は
「
大気中から生まれた水が無数の糸のように分かれて氷牙へ襲い掛かる。
しかし氷牙はひらりひらりと避けると帝の元へと踏み込んできた。
「そう何度も喰らうかっての!」
「父上!」
「ッ!!」
氷牙の刀が帝の肩を切りつけた。
「弱っち~!心珠は人の体には負担が大きいって本当なんだな。フラフラじゃん。アンタこれまでのどの帝より長く帝やってるもんな。もうとっくに生きてく限界超えてるんだろ。
心珠はアンタにとっても過ぎたるものなんじゃないの?そんなものさっさと手放しちまいなよ。
そんなに自分の命を削ってまで権力にしがみつきたいかね」
「弱いのはお前だ」
「?!」
その瞬間氷牙を捕まえきれず床板に飛び散っていたかに思えた水が縄のように氷牙を縛り上げた。
帝は放せと
しかし刀で切られた傷口は消えることなく血が流れ続けていた。
「手当を」
清正が帝に手を伸ばそうとするも帝は重い体を引きずりながら未だ邪瘴を吐き出し続ける扉の前へ向かった。
「
術を唱える途中で帝はごほりと血を吐いた。
「父上、お止めください、これ以上力を使えば父上が死んでしまいます!」
「
清正が制止するも帝は止めようとはしなかった。
術によって創られた大量の水は扉を閉めようとするも邪瘴の勢いが強く一向に閉めることができない。
帝はギリッと歯噛みすると今度は力の限り声を張り上げた。
「今一度泰正が
そこからは凄まじい力比べであった。
押しては返されを何度も繰り返し――……
ようやく扉は閉まった。
と同時に今にも崩れ落ちそうな帝に清正は必至で立ち上がると駆け寄って支えた。
「父上、申し訳ございません、私のせいで……。本当に、申し訳ございません。早く手当てを」
「する前に心珠を置いていきな」
ハッとして振り返った帝の胸に氷牙は左手のひらを突き込んでいた。
「ったく手間かけさせやがって」
「ガハッ!」
引き抜いた手のひらの上には
「残念だったな!せっかく死にかけながら扉を閉めたのにな。この心珠さえあればこんな扉どころか大元の封印だって壊してやれるぜ」
「父上!」
いよいよ支えきれず崩れ落ちた帝に清正は顔面を
「どうしてこんな酷いことを」
「酷い?そんなこと知ったこっちゃないね。目的を達成するために必要なことだからやっただけさ。利用できるものは何でも利用する。それの何が悪い?」
「返してくれ、このままだと父上が死んでしまう」
清正は帝を床に寝かせると氷牙に取り
「誰が返すか、離せ!」
氷牙は容赦無く清正を突き飛ばした。
「返してくれ!」
清正は氷牙に掴みかかった。二人は激しくもみ合い欄干に
「あっ!」
清正はその瞬間を見逃さず欄干から身を乗り出して手を伸ばした。
「させるか!」
しかし同様に手を伸ばした氷牙に邪魔をされ清正は体勢を大きく崩してしまった。
「!!」
まずい、と思った時には既に遅かった。
心珠はするりと二人の手の間を落下し清正は欄干の外に投げ出された。
それでも清正は必死に心珠へ手を伸ばし続けていたが、
(どこだ、どこにあるんだ!!)
清正は目の奥から熱いものがこみ上げてくるのを
しかし白く
(私は、なんて
遂に清正は唇を震わせながらあまりに大きい罪の意識に押しつぶされるようにぎゅっと目を閉じた。
「申し訳ありません、父上……」
清正の後悔に満ちた悲痛な呟きは誰に聞かれることも無く、ただただ恐ろしい速さでもって闇の底へと落ちてゆくのであった――……。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
いよいよ明日11月29日水曜日朝8時更新の第4話よりこの物語の主人公が登場します。
さらに皆様に楽しんでもらえるよう今後も励みますので
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