第21話 セイの正体

「……きよまさ、しんのう?」


 海がぽかんと首を傾げる一方で、一連のやり取りを見ていた他の脱落者たちは「清正親王って第二皇子じゃないか?!」「あの初代帝の再来と言われている?」「なんで守刃?」「言祝師じゃないの?」「でも病で永く臥せっているって聞いたけど」などと興奮したように口々に言い合っていた。


 貴瑶はそんな受験生たちに「静かに!」と言うと疑わし気に海を見やった。


「まさかお前はこの方が誰か知らずに連花れんかとなっていたと言うのか?この方は天龍国の第二皇子なのだぞ」


「セイが、この国の第二皇子……?」


 海は信じられず呆けた顔でセイを見た。


「清正親王、上にいらっしゃる方々より即刻内裏に参上するようにとのお達しがありました。こちらに乗ってください。


 お前も来るようにとのことだ。乗りなさい」


 貴瑶の言葉に合わせたかのように天から天車あまぐるまが降りてきてセイと海は有無を言わさず乗せられそうになった。


「待ってくれ、大師だいしが言うようにこの者は何も知らない。共に行く必要は無い」


 セイは海を天車の中に押し込めようとする貴瑶の腕を掴み止めさせようとした。


「それを決めるのは私ではありません」


 しかし貴瑶は取り付く島もなくセイを見下ろしながら冷たく言い放った。


「ねぇ、ちょっと待って、セイは本当にこの国の皇子様なの?なんで今まで教えてくれなかったの?僕たちは連花れんかなのに!どんな時だって一心同体いっしんどうたいだろう?!」


 話に置いてけぼりになっていた海がたまらずセイに問いかけた。するとセイは一度俯いちどうつむいてからその精巧な人形のように美しい顔を忌々いまいましげに歪め海を見つめた。


「教える?一心同体?そんなわけがないだろう。私はお前を目的のために利用しようとしていただけなのだからな」


「そんな……」


「だがお前は全くの見込み違いだった!何度教えても上達せず私の補助が無ければまともに術を使うことができない。結局あの手この手を尽くしても試験は達成できず最悪なことに私のは暴かれた。


 お前と組んだせいで私は損なことばかりだ。お前など私の連花ではない!」


 そう言うとセイは海の右手首を乱暴に掴んだ。その瞬間嫌な予感がしてとっさに手を離そうとしたが握りつぶさんばかりに捕まれてどうすることもできない。


「セイ?何するの、離して!」


けまくもかしこき天龍に“海”がかしこかしこもうす。われらの連花れんかを解消し、その加護かごを返上せん」


 セイは暴れる海に構わず海の名をかたり術を唱えた。その瞬間海は自分の中の龍力が勝手に練られて手の甲へと集められるのを感じた。


「?!嫌だ、セイ、止めて!!」


 海は必至で手を離そうとしたがセイはそれを許さなかった。そうして雫が弾ける様にあっけなく、海とセイの手の甲から花の蕾の紋が一瞬にして消えてしまった。


「そんな……」


 ようやく手が離されると、海は力が抜けてその場にうずくまってしまった。


「これで良いだろう」


 すると水鏡すいきょうを見た貴瑶が「承知いたしました」と頭を下げた。


「上にいらっしゃる方々から許可が出ました。親王お一人でどうぞ」


「待って、セイ、待って!」


 放心していた海はハッとしてセイを引き留めようとしたが、今度は貴瑶に取り押さえられてしまった。


「ねぇ、こんなの嫌だよ、待ってってば、セイ、セイーーー!!」



 しかしセイは一度も振り返ることなく天車に乗り込むと遥かな高みにある内裏へと飛び立ったのであった。






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