第12話 連花の誓い
「どこに隠れてやがる?!」
血黒丸はあちこち探し回っていた。
するとガサ、と音がした。
「そこか!」
血黒丸は喜び勇んで茂みを搔き分けて
「小刀だと?!」
「
祈詞を唱える声に血黒丸がハッと後ろを振り返ると今度こそ完璧な龍心環を構えた海が立っていた。
「できた!!!」
嬉しさにかつてないほど興奮する海の背には少年の右手のひらが置かれている。
その手の甲には花の蕾の紋が新たに刻まれていた。
「喜ぶのはまだ早いぞ」
「うん!今度こそ成功させる!」
向かってくる血黒丸に改めて気を引き締めると海は再び詠唱を始めた――。
「……ならば一度だけだ。お前の力を見せてみろ」
「ありがとう!」
「ただし、一つだけ条件がある」
その言葉に海はごくりと喉を鳴らした。
「お前、私の言祝師になれ」
「え?」
「お前がその身の内に十分な龍力があるにもかかわらず龍心環の顕現すらできないのは龍力の使い方がヘタだからだ。この調子では術を使えるようになるまでに何年かかるか分かったものではない」
「そ、そんなぁ」
海ははっきり言われて少しヘコんだ。
「本来お前が龍力の使い方がヘタでもお前以外どうすることもできないが、一つだけなんとかできる方法がある。“連花の誓い”だ」
「どういうこと?」
「誓いによって花を交わした言祝師と守刃だけが互いの龍力に干渉できる。それを利用して私がお前の龍力を整える。そうすればいかにヘタなお前でもなんとかなるだろう」
「そんなことできるの?」
海はぽかんと口を開けた。
「できる」
少年が言い切ったことで海の心は決まった。
「分かった。キミのこと信じる」
海は連花の誓いを行おうと手を少年の前に
「そういえば、キミの名前は?」
「……セイだ」
セイは素っ気なく名乗ると海の手に自分の手を合わせた。勝手に冷たいのかなと思っていた手のひらは意外と温かく海はなんだかほっとして微笑んだ。
「僕は海。これからよろしくね」
海は一つ深呼吸すると連花の誓いを紡ぎ始めた。
「
空と鷹斗の時のように大気中から現れた水は二人の周りをぐるりと一周するとまるで二人の運命の糸を結ぶように重ね合わせた互いの手の甲に一輪の花の蕾を刻んだのであった。
「いくぞ」
「うん!」
海が返事をするとセイは海の背中に当てていた手でもう一度海の体内の龍力を練り上げ今度は龍心環へと流しだした。
(すごい。これなら!)
「
海が声を張り上げ術を唱え終わった途端、大地が揺れ巨大な水の大砲が血黒丸に襲い掛かった――。
◇。..◇。..◇。..◇。..◇。..◇。..
「海」
呼びかけられて、海はゆっくり振り返った。
「セイ」
「出発の時間だ」
「分かった」
海はもう一度だけそれまで見つめていた川を目に焼き付ける様に見ると、セイと共に歩き出した。
血黒丸との戦いから五日が過ぎていた。
海が術を放った後血黒丸の姿は
鷹斗も邪瘴に憑りつかれ重傷であったが海とセイで邪瘴祓いをしてようやく昨日目が覚めた。
空は、今も行方が知れない。
連日村人総出で捜索したがどうしても見つけることができなかった。なんとか手がかりだけでも無いものかと全員が焦っていたが、目覚めた鷹斗が自らの手の甲から花紋が無くなっていることに気が付いた。
連花の誓いによって刻まれた花紋は、誓いを解くか言祝師か守刃のどちらかがこの世を去るときのみ消えるという――。
「僕は必ず言祝師になる」
海はまっすぐに前を向いて宣言した。
「言祝師になって、セイと一緒に心珠を探す。絶対に邪龍を復活なんかさせない」
セイが横を歩く海を見ると、前を向いたままの海はふるりと睫毛を震わせた。
「僕は兄ちゃんを守れなかった。だけど、だからこそ兄ちゃんが願った通り、僕はたくさんの人を守れるようになりたいんだ」
そこまで言うと、海は一度深呼吸してからこちらをじっと見ていたセイに向かってにっこり笑った。
「そのためにもまずは言祝師の試験を受けに都に行かないとだね!必ず合格するぞ!」
おー!と拳を
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
ここで第一章完となり、明日より第二章となります。
第二章は舞台を天龍国の都に移し、海が言祝師になるための試験を受けるお話となります。
第1話でも少しお話ししましたが、明日、12月2日土曜日より1日1話ずつの更新(更新時間は朝8時)となります。
カクヨムコン9入賞目指して頑張っていますので応援♥、レビュー★、フォローをよろしくお願いします!
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