第7話

おかしい…。 さっきまで彼女は格ゲーの初心者であった筈だ。それが今ではこの俺がハメられているいる…だと。 悪い夢と思いたかった。しかし、これは現実らしい。 話は数分前に遡る。


お礼を言われて気分が良くなっていた俺は、次はかっこいいところを見せるべく、次の遊戯の舞台を格ゲーに決め向かった。 あまりボコボコにしてもつまらないだろうと思い一戦目は手を抜いて戦った。 しかし彼女は其れがご不満だったらしい。

あくまで真剣勝負がしたいのだと。そう言ってきた。なので仕方なく格ゲーマスター(自称)の力を解放して戦った。 しかしその対応もあまり良くなかったらしい。みるみる頬は膨れ上がり、ハムスターの様になってしまった。


練習時間が欲しいとCPUとの対戦を希望していたので、俺は暇になり二人分のジュースを買いに行った。


帰ってきて俺は驚いた。さっきまでコンボのコの字も知らなかった女子高生が、もう即死コンボ、ハメ技の数々を習得しているのだ。そりゃすこし遠くまで買いに行っていたので多少時間があったとはいえ、この上達度はおかしい。俺が震えているとアイがこっちに気が付くと、「来な…。」とゲームの主人公と同じセリフを吐きながら俺を戦いの舞台に招待していた。 挑まれた勝負に背を向け逃げる程格ゲーマスター(自称)の名前は軽くないので、俺は挑戦者を返り討ちにするべく戦いに臨んだ。



ボコボコだった。負けすぎて途中から相性の良いキャラしか使っていなかったのに、それでも負けた。俺は今日、自分が井の中の蛙であったことを知り、自分の無力に打ちひしがれた。


まぁ、それはそれとして、俺はアイとのゲームセンターを楽しんでいた。音ゲーも、クレーンゲームも、そして格ゲーも、女子とやると普段とはまた違うものに感じれた。


一通り遊び、出口に向かっている途中またアイは何かを見ていた。今度は何だろう。イカぐるみでもあったのかと思い見て、俺は戦慄した。見つめていた先には、男子のみだと利用が出来ない、プリクラコーナーが悠然と存在していた。



プリクラマシーンから出てくるカップルを見て、アイは不思議そうにしていた。

「ねぇ、なんであの男女は密室から出てきたの? 密室で何をしてたの?」

「プリクラだよ。写真を撮ってたんだろうね。」

「? カメラで撮ればいいじゃない? あの人達は持ってないの? カメラ?」

「いやそれは…。」

困窮した。確かに言ってしまえばそうなのだ。ただ撮りたいだけならカメラで十分なのだ。 しかし他に何か理由があるのだろう。しかし、俺にも分からないのだ。  

何故なら、俺も使った事無いから。

俺が「俺も使った事無いから分からない…。」と項垂れていると、アイは閃いた顔をした。

「なら、やってみればいいのね。」


プリクラの中は思っていたよりも狭かった。こんな密室で二人きりなんて、頭がどうにかなってしまう、そう思った。しかし相手はそんな事は微塵も思っていないことが、行動から読み取れた。アイは単純に何故人々がこれを使うのか疑問なのだ。いうならこれは検証。邪な気持ちを俺も仕舞って、全力でプリクラに取り組んだ。


写真を撮っていると、マシンは何が気に食わないのか分からないが、『もっと近づこう!!』などとほざきだしやがった。これ以上近づいたらなにか、法律でも破ってしまうのではないか。そんな気持ちになった。が、アイは言われた通りに近づいてきて、授業中等とは比べ物にならない程接近した。俺は臭くないだろうか。そんな事ばかり気にしていた。この時気絶しなかった事を、俺は生涯誇りたい。


結局その後もマシンの言いつけを守り、俺達は初めてのプリクラを終えた。途中からはもう意識はあまりなかった。

「どうだった? なんか皆がやる様な理由は見つけた…?」

俺は尋ねた。俺には合法的に女子と近づける事しか分からなかった。しかし女子目線からだと何か分かったのかもしれない。しかしアイもあまり分からなかったようだ。なんせさっきから口数が少ない。


「特別なにかが優れてる…っていうのは分からなかった…。」

今回の検証は失敗だったらしい。俺が落ち込んでいるとアイは続けた。

「けど…みんなが使う理由なら、分かったよ。」

「へ?」 


俺が気の抜けた返事をした時、アイは満足気に笑っていた。そして相変わらず俺は分かっていなかった。

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時速30000km/hで落下してきた彼女とは恋愛できますか? 理系メガネザル @Saru-Yama

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