第6話

教室に着いた俺達は、支度をして家に帰ることにした。いつもならこの後部活があるのだが、今日は顧問が休みの為無いのである。 下駄箱で靴を履き替えると、俺達は通学路を歩き出した。


道行く人達が振り返っているのが分かる。やっぱりアイの見た目は俺以外が見ても凄く目を引くものなんだと、通行人の反応を見て、改めて知った。

しかし当の本人はそれに気が付いているのかいないのか知らないが、全然緊張した様子は見せなかった。俺ならこんなに人に注目されたら、緊張してガチガチになってしまうのにそんな様子は微塵も無かった。やっぱり容姿の良い人間は(人間かどうかホントは分からないが。)堂々と振舞えて凄いと思った。


今までは男としか一緒に歩いたことが無かったので知らなかったが、女子。それもかわいい女子と歩くと、いつも何気なく歩いているこの通学路でもとても素晴らしいものとなるらしい。まるでレッドカーペットを歩いている様に誇らしい気持ちだった。 しかし気がかりなのは会話が殆ど無いことだ。今日の行動を考えれば嫌われているってことはまずないだろうが、それでも気まずい空気が流れていた。


俺は空気を変えようと話かけたが、返事は帰ってこなかった。遂に無視? やっぱり俺と居るのはつまらない? そんな悲観的想像をしながら振り返ると、アイは少し離れたところで何かを見つめていた。何だろう、そんな気を引くものなんてあったかなと思い視線の先を見てみると、そこにはゲームセンターがあった。

「なんか気になるゲームでもあった?」

俺が戻り尋ねるとアイは「ここ何?」と聞き返してきた。


「ゲームセンターだよ、向こうにも合ったでしょ?」

「ううん。知らない。 なにするとこなの?」


参った、何をする場所か…。 俺はクレーンゲームとか音ゲー位しかしないけど他にもゲームは沢山ある。 具体的な事はあまり俺も知らないので取り合えず、遊ぶ所であると告げた。


「行く?」

「うん。 行ってみたい。」

俺が尋ねるとその言葉を待っていたと言わんばかりの勢いで、アイは店に入って行ってしまった。そんな時俺は、もしかしたら今日女子とプリクラを撮れるかもしれない。という野望で胸がいっぱいだった。


いつもは俺が入ってきてもなにも起きないゲーセンも、今日はどよめいていた。なんせたまに来るさえない高校生が今日は美少女を連れてきているのだ。どよめくのも無理はない。俺が優越感に浸っているとアイが俺の手を引っ張っていった。おいおい、あんまり引っ張るなよ…。皆が見てるじゃないか…。



久しぶりにやるクレーンゲームは中々楽しかった。 何が取れるかはあまり重要じゃない。俺と景品の真剣勝負。それを俺は楽しんでいるのだ。

俺が美少女フィギュアと格闘しているさなか、アイはこっちには目もくれず隣の台を見ていた。

あまりにキモイ俺の顔に嫌気がさしたのかと思ったが、どうやらその台の景品のタコのぬいぐるみを見ていたらしい。キモがられてなくて本当に良かった。


「好きなの? タコ。」

「タコ…?。 うん。そうね。タコ好き。なんだか、懐かしい感じがするもの。」

「懐かしい…?」

キモかわいいとかなら兎も角、懐かしいとは…。昔好きだったアニメのキャラにでも似てるのだろうか。取り敢えず俺はクレーンゲームマスター(自称)の威光を見せつける為にタコを取ることにした。

「まあ、任せてな。」 そんな事をスマした顔をして言いながら。




20分に渡る格闘の末、なんとかタコ野郎をゲットすることに成功した。途中財布の中身を使い切った時はもうだめかと思ったが、母親が緊急時の為に入れていてくれた1000円の尊い犠牲のお陰で、なんとかミッションは成功した。

時価4000円のタコぐるみを俺はアイにプレゼントすることに成功した。

「…なんで…?」 

アイは首を傾げていた。やっぱりかわいいな。

「別に理由なんてないよ。ただ強いて言うなら欲しがってたでしょ?」

「………。」

アイは黙ってそれを受け取ると、いつもとは違い無邪気な笑顔で喜んでくれた。

「うれしい…。 ありがと。 コーヘイ。」


真正面から女子に感謝されたことなんて小学4年生の頃以降無かった俺は。この純粋な感情に対して、「う、うん。どういたしまして。」と返すのが精いっぱいだった。

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