第3話

隣の席に見た目が好みが女子が来て浮かれない男は居るのだろうか、いや居ない。

俺もその例に漏れずアホみたいに舞い上がっていた。さっきまで話していた黒崎に敵を見るような目で見られる位には浮かれていた。

聞くところによるとアイはやはり外国(詳しい名前は忘れてしまった)から来て、取り敢えず今の所は卒業式辺りまで居れるらしい。


俺がウズウズしながらも教科書を取り出していると、アイが肩をポンポンとしてきた。昨日も思ったが手柔らかいな。

「それ、なに?」

「え? …教科書だけど。」

「わたし、それ持ってない。」

引っ越したばかりでまだ用意が完璧じゃないのだろう。俺は「そうだよな…。」と言い机を近づけた。

「なんで近づくの?」

「こうした方が良く見えるでしょ?」

俺がそう言うと「そうだね…。」と言い、やっぱり微笑んだ。かわいかった。



教師が何かを言っている。この授業は数学だったかな、それとも英語だったかな。今の俺にはそれすらも分からない程頭の中はパニックで、それに呼応するように顔はまるでトマトの様に真っ赤だった。しかしそれも仕方のない事だろう。

考えてみても欲しい。昨日まで対女性の経験もそれほど無かった男子高校生が、急に美少女と隣の席になり、あまつさえ肩と肩が触れ合う程の距離に居たら誰でも照れるだろう。しかしこんな状況でも何とか教師の話は聞くことが出来てる(内容は分かっていない)なら、むしろ褒めて欲しいものだ。


本物の美少女というものは匂いもいい匂いなのか。俺はそんな感想を頭に浮かべながら授業を聞いていると、俺では無く何故かアイが当てられた。が、やはりアイは答えが分かってないようだ。そりゃそうだろう。例え日本語が堪能だったとしても今日がここでの初めての授業で、今までとは全てが違うのだ。俺がどうするべきか悩んでいるとアイはアイで自分がすべきことがあまり分かっていない様だ。仕方ないので、俺が答える事にした。 見てみるとどうやら今は数学の授業だった。俺は脳細胞を限界まで働かせ答えを導き出すと、代わりに答えた。

「えっと、アイさん分かってないみたいなので俺が代わりに答えますね。ここの答えはx=3,y=4です。」

周りからは、「かっこつけんな!」とか「ヒューヒュー」とか聞こえてきた気がしたが、気にもならなかった。アイが俺の事を見ていたからである。どんな感情を抱いているのかは分からないが、女子に見つめられて顔を逸らさないでいられる程俺は女慣れしていなかった。俺が真っ赤な顔で前を向くと隣から小声で「残念…。」と聞こえた気がした。


長い戦いがやっと終わった。終わるのが嬉しいんだか悲しいんだか分からない気持ちを抱いていると、アイが声を掛けてきた。

「さっき、ありがとう。優しいのね。」

「あぁ、別に全然平気だよ。それにしてもアイツも気が利かないよな、せめて音読とかをやらすならまだしも…。」

俺がグチグチ言ってるとアイがまたクスクスと笑った。普段女子が笑っているとこを見ると、もしかして自分の事なのではないかと思い嫌な気分になるが、アイの場合は全然そんな感情を抱かなかった。むしろずっと笑っていて欲しかった。


次の授業の教師は気が利いていて、アイの分の教科書を持ってきてくれた。 俺がほっとして机を離そうとすると

「残念だね。」と話しかけてきた。

「そうでね…。でもアイは席広く使えるようになるから良いでしょ?」

そう言うと、「それはそうだけど…。」と言い、こう続けた。俺は前を向いていたので良く見えなかったが、微笑んでいた気がする。


「でも私は、さっきの方が良いな?」


えっ? と思い横を振り向くともうアイは前を向いて授業に集中していた。

俺は今日もう何回目になるか分からないが、顔は燃えている様に熱くなっていた。


その後の授業は集中できなかった事は言うまでもないだろう。



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